エンタープライズ:インタビュー 2003/10/10 15:02:00 更新

Windows Media 9に見るテクノロジーとビジネス 第3回
Interview:Windows Mediaのトップが語るデジタルメディアビジネスの可能性 (1/2)

デジタルコンテンツサービスが成功している例は少ない。WM9で、Microsoftのデジタルメディア戦略を指揮するMicrosoftのゼネラルマネジャーにコンテンツサービスの最新事情、そして同社の戦略を聞いた。

 デジタルコンテンツサービスが成功している例は少ない。コンシューマーへのブロードバンドの普及もあり、Webでストリーミングを見る機会は増える一方だが、サービス提供側からは決して景気の良い話が飛び出してこない。一方海外に目を配ると、AppleのiTunesが一つの音楽配信モデルを打ち立て、BMW Filmsがハリウッドの名だたる監督を起用したプロモーション映画を無料配信、マーケティング手段としてユニークな成功を収めるなどしている。デジタルメディアを使ったビジネスは模索の中から、確実に発展に向かっている。

 「デジタルメディア技術を使いこのようなユニークなビジネスモデルに柔軟に対応できるのが、Windows Media(WM)テクノロジーだ」と話すのは、Microsoft Windows Digital Media部門ゼネラルマネジャー(GM)のアミール・マジディマール氏。アジア最大級の映像・情報・通信の展示会「CETEC JAPAN 2003」に合わせて来日したマジディマール氏にマイクロソフトのメディア戦略と、最新事情を聞いた。

アミール・マジディマール氏

Microsoftに移る前はSony Americaでハードとソフトの開発部門を率いていた。


ZDNet マジディマールさんがGMを務めるWindows Digital Media部門について教えてください。

マジディマール Windows用のオーディオ/ビデオ(AV)に関するすべての開発を行っています。メディアプレイヤー、DRM、サーバ、SDK、またコンシューマー機器への組み込み向けコンポーネントのすべても含みます。Windows Media(WM)はWindows OSの中の一部になるので、私たちの開発した技術のメリットはWindows OSのメリットになります。Windows上でAV体験を素晴らしいものにしていくのが私たちの仕事です。

ZDNet 家電などといったPC以外のデバイスはあまり重視していないのですか?

マジディマール AVの世界はPCだけで成立することはできません。人々は音楽を持って歩きたいと思っているし、ビデオもいろいろな部屋で見たいと思っています。デジタルメディアで成功するためには、PC以外のデバイスも積極的に考えていかなければなりません。

 Windows Media 9シリーズというのは2つの役割を持っています。一つはWindowsプラットフォーム上で最高のオーディオとビデオを提供すること、そしてPC以外のデバイスでこれをうまく機能させることです。この2つを効果的に組み合わせられれば、消費者の要望に応えることができます。そのため、私たちは特にPC以外のデバイスに対し、柔軟性の高いライセンスプログラムを展開しています。どこのメーカーでも非常に良い条件の下で音声コーデック、映像コーデックといったWindows Media コンポーネントのライセンスを利用できますし、その際にWindows OSを使っていなければいけないということもありません。

 WMVのライセンス料金を見れば、MPEG2/4よりもかなり低くなっています。MPEGにはあるブロードキャスター(配信)用のフィードもありません。MPEG2と比較するなら、MPEG2を実装したデバイスを1000万台提供するには、ライセンスコストだけで2500万ドルかかります。しかし、WMVなら40万ドルです済みます。1デバイスあたり2.5ドルのMPEG2に比べて、かなり安く済むことがわかります。

 画質もMPEG2より3倍優れていますから、コストだけでなくクオリティでも優れています。

ZDNet 対応デバイスが増えてもサービスが充実していなければ市場は大きくなりません。日本のデジタルコンテンツサービスはビジネスとして成り立てず苦戦しています。WM9はどのようにサポートできるのでしょうか?

マジディマール いろいろなあり方が存在すると思いますが、音楽であればCDでの配布からネットワークを使った配布に移っていくと考えられます。デジタル配信という点で、DRMや圧縮技術を持つ私たちはこの分野でも大いに貢献できます。DRMにより保護された形で配信できるのであれば、新しい流通チャネルが生まれるはずです。

 DVDなどの物理的なメディアを高解像度のHD (High Definition) に移行させるにしても、WMであればブルーレーザーといったものなしに、簡単かつすばやく移行できます。

ZDNet コンテンツ制作者/配給/ユーザーという構造の中で見ると、ユーザーが圧倒的に進んでいます。そのため海賊行為が起こり、デジタルコンテンツによるビジネスをより難しくしています。

マジディマール 全体的にはその通りだと思います。特に若者たちが自分たちのPCをエンタテインメントデバイスへと変化させてきました。ディストリビューションのモデルもこれに伴って変わっていかなければなりません。もちろん私たちの技術がこの変化を実現させてきました。コンテンツのオーナーやディストリビュータは迅速に対応していく必要があります。

 実際、米国では特に音楽の分野で変化が始まっています。適切な価格でサービス提供が行われ始めています。これは変化の始まりだと捉えています。

ZDNet また既存のコンテンツには権利が絡みすぎていて、なかなかビジネスに乗り出せないという悩みも聞きます。これは技術では解決できません。

マジディマール そういった状況ではアグリゲーターと呼ばれる会社が出てきます。この1社が権利を持つ複数社と交渉し、その後はこの1社とだけ交渉すればよいという状況になります。現在は、こういったアグリゲーターがよくやってくれていると思います。米国の映画分野では、MovieLinkCinemaNowの2社が代表的で、VOD(Video On Demand)のアグリゲーターを行っています。もし映画をデジタル配信したいのであれば、どちらかの企業と交渉すればよく、ハリウッドのすべてのスタジオと交渉する必要はありません。

ZDNet マーケティングにデジタル映画を利用したBMW Filmsの成功を見ていると、コンテンツ自体をビジネスにするよりも、別の商品の販促に利用した方がうまくいきそうにも感じてきます。これはWMでも行われている取り組みですが、どうお考えですか?

      | 1 2 | 次のページ

[堀 哲也,ITmedia]