エンタープライズ:ニュース 2003/10/16 02:54:00 更新


ソフトウェア無線とUWBの組み合わせに期待、横浜国立大の河野氏がスピーチ

Telecom World 2003のフォーラムに横浜国立大学教授の河野隆二氏が登場し、UWBやソフトウェア無線の可能性について語った。

 スイス・ジュネーブで開催中のTelecom World 2003のフォーラムで行われた、「The future of wireless(ワイヤレスの今後)」のスピーカーの1人として、横浜国立大学教授の河野隆二氏が登場。UWB(Ultrawideband)やSDR(Software Reconfigurable Radio:ソフトウェア無線)の可能性について語った。

 同氏によると、キャリアが展開し、広いカバレッジを備える3Gサービスは成功を収めつつあり、今後も成長を見せるだろうという。一方、その場その場で必要に応じて接続される「アドホックワイヤレス」の分野は、無線LANや無線PAN(Personal Area Network)が担うことになるという見方だ。具体的には家庭内での接続やデバイス間のコミュニケーションといった用途が見込まれるこの分野では、複数のアンテナを用いたMIMO((Multipul-Input and Multipul-Output)のほか、UWBやSDRがニーズに応じて選択されるだろうとした。

 SDRとは、ソフトウェア無線という名称のとおり、ソフトウェアを通じてハードウェア回路の設定を動的に変更させることにより、1台のデバイス上で状況に応じて最適な方式で、あるいは同時に複数の方式でワイヤレス接続を行えるようにする技術だ。現在の端末では、無線通信機能は専用のハードウェア(回路)として実装されており、いったん製造されれば後からの変更は不可能。そのうえ、1つの端末で実装できる通信方式は基本的に1つだった。

 これに対しSDRを活用すれば、たとえば1台のPDAがあるときはテレビの受信端末となり、また通勤途中の車中ではITS(高度道路交通システム)と連携してカーナビになり、さらには3Gの携帯電話端末となって通話を行うこともできる。オフィスに到着した後は、無線LAN経由で音楽を受信しラジオとして利用する、といった具合だ。また同様に、ITSと連携が可能な車載端末への応用も期待されている。

 米国ではSDRフォーラムなどによって推進され、また日本国内でも1998年より取り組まれてきたSDRだが、河野氏によると、今後検討していくべき課題もまだあるという。たとえば、設定を記述するためのAPIや互換性を持ったOSの整備は必須だ。また大量生産体制に向けた検討や安全なプロトコルの開発も求められる。何より、さまざまな電波規制との調整が欠かせない。

 河野氏がもう1つの注目技術として挙げたUWBは、通信距離こそ10メートル程度と短いものの、低消費電力で100Mbps超の高速無線通信を実現するとして期待されている。河野氏も「広範囲に適用でき、リーズナブルな価格で利用できるという意味で可能性のある技術」という。

 同氏によれば、IEEE802.15.3aとして標準仕様策定が進められているUWBだが、将来的には最大1Gbpsクラスの速度も視野に入れている。「典型的な無線LANより高速な接続を、より安価に提供できる」(河野氏)。この技術は数年のうちに商用化され、大きなチャンスが広がっていると述べた。

 その先に待っているのは、SDRとUWBの組み合わせだ。SDRを活用して既存の無線技術を共存させ、さらにUWBを協調させることにより、さまざまな可能性が広がるだろうという。「SDRとUWBは最も重要、かつ約束されたテクノロジーだ」(河野氏)。

802.16も拡張を視野に

 なお同じセッションの中では、IEEE802.16のワーキンググループで議長を務めるロジャー・マークス氏もプレゼンテーションを行った。同氏は、「802.16は、キャリアクラスの無線アクセスを提供するもの。ホットスポットのバックホールや既存のアクセス回線、住宅用アクセス回線の代替となり、ユーザーにより多くの選択肢を提供する」という。

 大まかな特徴は、802.16の開発促進を目的とした業界団体、WiMAXの会長を務めるマーガレット・ラブレスク氏が説明したとおりだが(別記事参照)、マークス氏は、プロトコル独立であり、より洗練されたQoSやセキュリティをサポートしている点が特徴だとした。

 その上で、次なる課題としては、現在仕様でサポートしているポイントツーポイントの通信だけでなく、メッシュ型の通信を実現することが挙げられる。同ワーキンググループではポイントツーマルチポイントを実現すべく、仕様の拡張に取り組むほか、もう1つの課題であるモビリティの実現に向け、802.16eの作業を進めていくという。

関連記事
▼ITU Telecom World 2003レポート

関連リンク
▼ITU Telecom World 2003

[高橋睦美,ITmedia]