エンタープライズ:インタビュー | 2003/10/21 22:09:00 更新 |
Interview:「Sunはこれからも革新を続ける」とマクニーリーCEO
「“革新を止めろ”という顧客はいない」とSunのCEO、マクニーリー氏。SPARCへの研究開発費を削減し、Java部門をスピンオフさせろというアナリストの提言には耳も傾けない。顧客の話を聞くことこそが健全だとマクニーリー氏は一蹴する。
「Network Computing 2003 Autumn」のためにSun Microsystemsのスコット・マクニーリー会長兼CEOが来日した。「Java Enterprise System」の発表会への出席は見送ったものの、一部報道陣とのグループインタビューには応じた。ソフトウェア分野におけるJava Enterprise Systemの革新性をアピールすると同時に、苦しい四半期決算が続く中にあっても、SPARC、Solaris、N1などに継続的な研究開発投資を行い、顧客やパートナーらのために絶えず革新を続けていくSunの哲学を語った。
− きょう日本でも「Java Enterprise System」の販売を開始しましたが、ライバルらはどのような対応策を講じてくると予想していますか?
マクニーリー Microsoftには不可能です。単にDellを儲けさせるだけだからです。Hewlett-Packardはプリンタソフトウェアしかないので、そもそもできません。IBMはWebSphereを何十億ドルも売っているし、インテグレーションをビジネスとしている。統合化された基盤ソフトウェアを一度バラバラにしてから、再度インテグレーションするのは理論的に不可能です。つまり、われわれがJava Enterprise Systemで打ち出した施策に対して効果的に対抗できるベンダーはありません。
Java Enterprise Systemが打ち出している統合化とシンプルさは、顧客から好評です。システム会社としてのSunのパワーをさらに強化するバネとなってくれるでしょう。
− Java Enterprise Systemを四半期ごとに改良、動作検証していくというのは、経済的に大きな負担となりませんか?
マクニーリー われわれが研究開発に対して継続的に投資を行い、絶えずJava Enterprise Systemを良いものにしていくということでなければ、顧客は採用してくれません。アナリストではなく、顧客が満足してくれることが重要なのです。
ピストンリングは重要じゃない
− Java Enterprise Systemは、既存の製品の寄せ集めに近い印象があり、Sunらしい「革新」がないと思いますが。
マクニーリー 自動車産業を考えてください。フォード・モーターのビル・フォード氏(会長兼CEO)が、ピストンリングについて説明するでしょうか? IT業界のプレスのみなさんは、どれくらいの人が工学系の大学を卒業したのか知りませんが、自分が興味のあることを聞きたがります。私に言わせれば、過剰な分析です。それは止めてください。
Sunは間違いなく、さまざまな製品で革新を起こしてきました。最初にIPをワークステーションに組み込んだのもわれわれですし、NFS(Network File System)やJavaではオープンな標準を確立しました。しかし、そのわれわれが完成品を出すとプレスは驚く……。それは過剰な反応です。
− N1製品では、Pirus NetworksやTerraspringを買収しました。今後の買収戦略やその基本となる方針について教えてください。
マクニーリー ある技術を自社で開発するか、買収によって獲得するかについては、その都度判断しますし、それらは別個のものではありません。われわれはUNIXの知的財産を買い取り、さらに革新を継続してきました。それがSolarisです。N1もPirusやTerraspringの技術だけではなく、Sunのクラスタ技術やJiniが使われます。すべて組み合わせなのです。
これも先ほどの話と同じなのですが、プレスやアナリストは自分が興味のあることを聞きたがりますが、Sunが提供している「リファレンスアーキテクチャ」については、だれも着目してくれません。しかし、顧客は、スケーラビリティがあり、Exchange Serverを排除できるメッセージングのためのアーキテクチャはないか、という話をしてくるのです。だれも部品の話をしてきません。
− Linuxについては、どうでしょう。
マクニーリー Linux? われわれは提供していますよ。きょう発表したJava Enterprise SystemもLinuxに対応させますし、われわれのx86サーバはDellよりも安いです。いいですか、何度も繰り返しますが「Dellよりも安い」のです。
サーバだけでなくデスクトップでもLinux(Java Desktop System)を提供していきます。これはHPやIBMにはありません。
64ビットでマルチスレッド機能のある100ウェイを超えるスケーラビリティが欲しかったり、SCOの訴訟からの免責保証を望めばSolarisもあります。
ITにコモディティ化はない
− IT業界ではコモディティ化が進んでいます。コモディティ化されるものと、されないものを教えてください。
マクニーリー コモディティとは何でしょうか? 私が大学で学んだかぎり、「仕様が変わらないもの」を意味します。例えば、水とか、10セントしかしない1本のクギです。
コモディティという言葉が氾濫していますが、ITにコモディティはありません。
十数年前、新しい味のコーラが市場に登場しました。しかし、それが消費者に飽きられると「クラシック」を復活させています。Itaniumが失敗に終わったから、Pentiumに再び戻せますか? Windows XPが不評だからといってWindows 98や95に戻せますか? 昔のクギでも家を建てられるのとは違うのです。
− 現在Sunが開発を進めている「スループットコンピューティング」は技術革新の典型ではないかと思います。実際にどのように顧客のあいだに浸透させていくのでしょうか。
マクニーリー 先ず、製品を出さなければなりません。来年前半、スループットコンピューティングの考え方をベースとしたUltraSPARC(IV)プロセッサをリリースし、ハイエンドサーバに搭載していきます。そのあと、ローエンドやミッドレンジにも展開を予定しています。これらは単一のプロセッサに2つのコアを搭載し、約2倍のパフォーマンスを発揮します。また、将来は、(チップマルチスレディングの技術も統合し)32のスレッドを同時に処理できるプロセッサも登場します。
データベースやWebサーバなど幅広い領域でスループットコンピューティングは有効となるでしょう。デベロッパーらにはアプリケーションのチューニングを進めてもらい、ベンチマークでパフォーマンスを測って、顧客に提示していきます。新しいプロセッサにおいても、われわれはSPARC/Solarisのシングルバイナリ互換は維持します。あくまでもチューニングということです。
R&D資金は十分にある
− Sunは10四半期連続で売り上げを減らし続けています。2000年の業績が良すぎたということですか。
マクニーリー 確かに、インターネットの隆盛、通信革命、ドットコムブームのすべてがSunにとっては追い風となりました。しかし、バブルが消失し、そのときの主役たちは、今も苦しんでいます。しかし、景気が回復し、設備投資が戻ってくれば、われわれの助けとなるでしょう。
われわれは、バブルをマネタイズし(現金に変え)、銀行に50億ドル以上も蓄えることができました。次の成長のための研究開発に十分な資金といえるでしょう。どこかのアナリストが、SPARCに対する研究開発費を削減しろとか、Java部門をスピンオフさせろとか言っていますが、「革新を止めろ」という顧客はいません。「パーツだけをくれ」という顧客もいません。「サービスレベルを下げろ」という顧客もいません。アナリストが何かを買ってくれるわけではありません。顧客らのフィードバックを反映するのが健全な在り方です。
− IBMをはじめとするライバルたちと今後も戦っていくSunの強みを教えてください。
マクニーリー われわれの強みは、ハードウェア、OS、ミドルウェア、サービス、サポートすべてにわたりオープンだということです。ちょうどレゴブロックから作られた完成車のように、ほかのベンダーの製品が良ければ、置き換えることもできます。
われわれは研究開発を通じて革新を起こすテクノロジープロバイダーです。IBMやHPと違って、サービスプロバイダーらと競合することはありません。MicrosoftのようにMSNをやることもありません。革新を続けるテクノロジープロバイダーとして、向こう5年から10年のレンジでは大きな収穫を得ていると思います。
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Network Computing 2003 Autumn
サン・マイクロシステムズ
[構成:浅井英二,ITmedia]