エンタープライズ:PR 2003/10/30 00:02:00 更新


対談:インターネットが教育を変え、教育がインターネットを支える――グローバルシェアを支える基盤を目指して (1/2)

教育は互いのコミュニケーションなしでは成り立たない。そのコミュニケーションのあり方を変え、大きな可能性を開いているのがインターネットだ。インターネットをフルに活用した教育と、その基盤作りを担うエンジニアの育成、それぞれの最前線で活躍する大川恵子氏、太田順子氏、土本康生氏の3氏にこれまでの歩みとこれからのあり方を語ってもらった。

 インターネットというインフラの登場は社会を大きく変化させたが、教育もその例外ではない。これまではその場に行かなければ不可能だった授業の聴講が、デジタルビデオ映像のリアルタイム送信によってインターネット越しに行えるようになり、チャットなどを通じて質疑応答を進めることも可能になる。個々人の興味、関心に合わせて学習できるチャンスが一気に広がることになる。

 このようにインターネットの役割が広がることは、この基盤を支え、運用していくための人材がますます重要になることも意味する。専門的な知識を備え、誇りを持ってネットワーク運用に当たる人材をどう育てていくか、これもインターネットコミュニティにとっての課題の1つだ。

 WIDEプロジェクト運営協議会委員として「School On the Internet(SOI)」を進める慶應義塾大学政策・メディア研究科助教授の大川恵子氏、シスコシステムズが進めるインターネット技術者育成プログラム「シスコ・ネットワーキングアカデミープログラム」の日本における責任者であるシスコシステムズ株式会社マーケティング、アカデミー推進部部長代理の太田順子氏、さらにWIDEプロジェクトのメンバーとしてネットワークに関わるさまざまな教育・啓蒙活動に取り組み、シスコ・ネットワーキングアカデミープログラムの講師も務める慶應義塾大学政策・メディア研究科専任講師の土本康生氏の3氏に、インターネットが教育にもたらすこと、逆に教育を通じたインターネットへの貢献のあり方について語ってもらった。


太田 シスコ・ネットワーキングアカデミープログラムは、米国では1997年から、また日本では1998年に開始された、高校・大学などでインターネットテクノロジーのスキルを教えるためのプログラムです。このプログラムでは、これらのスキルを教えられる人自体が足りないことから、まず学校の先生方にたいして技術そのものと、新しい教育方法のやり方を教えるという手法を取っています。

 実際の学習はWeb教材と実習を交えたハイブリッド方式です。現在日本では230校、全世界では152カ国にわたって1万校がアカデミーを開講しており、受講生数は51万人に上ります。

大川 School On the Internet(SOI)も1997年から始まったプロジェクトですから、丸6年になりますね。インターネットという新しい基盤によって、教育や大学の形が変わってくるのではないかという考え方の下、実証実験としてインターネットを通じて学習環境を提供しています。

 教育分野として採り上げているインターネットという素材は、学習内容である技術そのものが毎日のように変わっていく。そんななかで、各々の大学の特色を生かした先生の授業を受けられたらいいだろうな、というところが出発点です。

 つまりSOIでは「グローバルシェア」を実現したいということから、各先生の協力を得て授業を収録し、手軽に受講できる仕組みを提供しています。皆さん、「若い世代のインターネットエンジニアを育てたい」ということでとても協力的で、既に約1500時間分の授業コンテンツが蓄積できました。シスコシステムズのフレッド・ベーカー氏にも協力していただいています。

 さらに、何と言ってもグローバルシェアですから、日本のみならずアジア各国との連携も広げているところです。

太田 どのぐらいの国で実施されているんでしょうか?

大川 アジア7カ国、11カ所に広がっています。インターネット基盤そのものが十分にできていない国では、むしろ教育をインターネットを広げるための推進力にして、熱心に取り組んでもらっています。

太田 シスコのアカデミーチーム内部にも発展途上国を支援するためのチームがあって、国連などの国際機関とも協力しながらプログラムの推進を図っています。アフリカのインフラ自体の整っていない国などでは、衛星回線を張るところから取り組んでいます。

太田純子氏

シスコ・ネットワーキングアカデミープログラムの日本における責任者を務める太田順子氏


土本 シスコは昔から発展途上国支援に積極的でしたね。アジアや中南米、アフリカの人を対象したネットワーク技術者講習会のNetwork Training Workshop(NTW)2000を私が開催したときにも、機材協力はもちろんのこと、第一線で活躍している現役のエンジニアも人材育成に協力してくれました。

大川 まだインフラ整備が大切だという段階の国は多いですね。私たちのプロジェクトでも、片方向通信の実証実験という名目でインフラを整備し、その上で人材育成を行っていたりもします。

 今後は大学どうしの連携をさらに展開していくとともに、きちんと単位などを取れるような形にしていきたいですね。かなり役に立つ実践的な教育ができていると思いますので、今後はITだけでなくバイオ、漁業などさまざまな分野にも広げていきたいと思っています。関連する学会側でも協力してくれるようになりました。

太田 インターネットそのものを教えるコンテンツだけではなく、インターネットの上にさまざまなテーマの教材を載せていける。大きな可能性がありますよね。

大川 でも、それを支えるのはエンジニアですよね。まだまだ「インターネットって何?」「UDPって何?」という人が多いですから。

土本 その部分を補うためにインターネットエンジニアの養成を目的に、アジア各国から招いた3人1組を対象としたワークショップを2003年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で開催し、UNIX運用から始めて、ルータを作り、運用するまでの教育を行いました。

 SOIの海外連携を行うに当たり今まで何に困っていたかというと、現地にネットワークの状況を調べたりすることすらできるエンジニアが十分にいなかったことです。いったい何が起きているのかが分からないから、報告すらできないわけです。そこで、せめて報告だけでもできるようにし、できれば自力で解決できるようにもっていくことを目的にワークショップを開きました

太田 アカデミーにはCCNAレベルの能力のある人や、あるいはその上の人材が世界中でたくさん育っていますから、この関わりでいい連携ができるといいですね。

土本 そうですね。アカデミーを実施していると、学生達からネットワークを構築する現場に参加してみたいという声を多く聞きます。今の日本ではネットワークをイチから組めるような場所はなかなかありませんからね。ネットワーク構築をしたいと情熱をもってる若い人材がアカデミー実施校で多く育って来ているので、日本国内に限らずネットワークを構築できる現場があれば、実習の一環として参加したい!と手が挙がるかもしれませんね。

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[構成:高橋睦美,ITmedia]