エンタープライズ:ニュース 2003/11/10 08:45:00 更新


「ペタコンピュータができれば、ヒトの心を実証的に研究可能に」と理研の戎崎氏

「SGI Solution3 Fair 2003」のHPC Forumで、理化学研究所の戎崎氏が講演を行った。戎崎氏は「ペタコンピュータは技術的には数年後に実現可能。まったく新しいパラダイムをHPCに持ち込める」と話した。

 日本SGIが主催して11月5、6日に開催された「日本SGI Solution3(キュービック) Fair 2003」において、テクニカルコンピューティング分野の動向を探る「HPC Forum」で、理化学研究所計算宇宙物理研究室主任研究員の戎崎俊一氏が「ペタコンピュータの夢」と題して、PFLOPSクラスの演算能力を持つコンピュータ(ペタコンピュータ)の実現可能性と、それが科学にもたらす意味について講演した。

※FLOPS:(FLoating-point Operations Per Second)1秒間に浮動小数点演算を何回できるかという単位。T(テラ)は10の12乗、P(ペタ)は10の15乗。

 戎崎氏は、理化学研究所で分子動力学シミュレーション専用計算機(MDM:Molecular Dynamics Machine)開発の中心人物。MDMは2001年当時IEEE(米国電気電子学会)から世界最速との認定を得ている。分子動力学シミュレーションは、原子/分子を古典粒子として扱い、それぞれの原子/分子に働く力をニュートンの運動方程式を用いて計算するもの。MDMでは、この分子動力学シミュレーションで最も時間のかかるクーロン力と分子間力の計算を「WINE-2」と「MDGRAPE-2」という専用ハードウェアに任せ、汎用のホストコンピュータで結合力と時間積分を処理する仕組みになっている。WINE-2とMDGRAPE-2には、それぞれ専用開発したチップが約1500〜2700個も搭載されており、演算処理能力はWINE-2が25TFLOPS、MDGRAPE-2が25TFLOPSという。

戎崎氏

理化学研究所計算宇宙物理研究室主任研究員戎崎俊一氏


 戎崎氏によれば、MDMを使ってタンパク質結晶構造の解析を行い、大きな成果を得たという。また今後はプラズマのシミュレーションや電磁波解析に応用できそうで、これらの計算では通常の計算機の100〜1000倍高速に処理できる見通しという。

 戎崎氏は「MDMは5年以上前のテクノロジで製作されている。現在なら1チップあたり(MDMで使ったチップの)数百倍の性能を持ったチップを製造可能であるから、資金的問題がなければペタコンピュータは数年後には実現可能だ」とする。

 ペタコンピュータを何に使うかということでは、ニュートン古典力学では説明の付かない土星の輪の構造を解析できるだろうという。また、戎崎氏はさらに進んで、ペタコンピュータができれば、人間の脳を作ることができるのではないかという「夢」についても語った。

 戎崎氏の試算によると、脳の働きをコンピュータに置き換えるには、200PFLOPSが必要で、ハードウェアにはおよそ100兆円かかる。これは金銭的に現実的でないが、10分の1の能力を持つ脳(デシブレイン)ならば、100億円程度でできるかもしれないという。さらに「(デシブレインのハードウェアには)現状から未来を予測し、自分にとって望ましい未来の実現に向けて行動する“意志”をプログラミングしなければならない」うえに、3〜10年は“育てる”ことも必要という。「脳科学者にこの話をすると『できるわけがない。人間の脳はもっと高度だ』というが、何が足りないのか具体的に教えて欲しい」「(デシブレインができれば)これまで実証できなかった哲学的・神学的な問題、心と創造性の問題を、実証的に検証できるようになるはずだ」と戎崎氏の夢は広がった。

 「現在我々はペタコンピュータの数十分の1のところにいる。ペタコンピュータが実現すれば、シミュレーションの世界に完全に没入できるようになる。計算中のシミュレーションに途中から介入したり、“手で”操作できるようになる。また、計算機を介してでなければできないコミュニケーションも登場するだろう。ペタコンピュータはまったく新しいパラダイムをHPCに持ち込めるものだ」(戎崎氏)

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[佐々木千之,ITmedia]