エンタープライズ:ニュース 2003/11/21 09:06:00 更新

SFC Open Research Forum 2003 レポート
村井純×坂村健 対談:「ユビキタスは日本が貢献できる少ないチャンス」 (2/2)

村井 デジタル情報というのは、文字から始まり映像になり、急激に変わってきています。カメラも急激にデジカメに置き換わってきています。デジタルテクノロジーは、私たちの持っている知識を数値に置き換えているわけです。昔はネットワークも人間の速度に合わせてきたんですが、コンピュータ同士をつなぐようになって、リアルタイムOSのようにネットワークにも速さが要求されるようになってきています。

村井純氏

無線についてもの技術的無理解を問題に思うと、村井氏


 面白い統計を取った人がいて、ネットワークに流れるデータのタイプの量を調べたんです。すると、動画の量がものすごく増えている。動画をみんなが使えるようになるとリアルタイムのデジタル情報が生まれます。デジタル情報が社会や活動にもたらす影響をどう思いますか?

坂村 扱うメディアの幅が広がる、これは必然なことだと思います。コンピュータは、最終的にあらゆるメディアを扱えるようにならないといけない。ただ、人間の活動を支える人間と人間、人間と環境、ユビキタスコンピューティングの中でやろうとしている機械と機械というのは、扱うデータという面でちょっと違います。

 人間が使うものは動画などのマルチメディア、いずれは振動や感覚に訴えるものも扱うようになると思いますが、機械との間のコミュニケーションはシンプルなものになってくる。リアルタイムOSはこういうところで活躍するので、特化させていかなければと考えています。一個で何でもやるのは難しいわけで、人間にはその両方が必要です。コンピュータの世界は分散化の傾向に動いてきているわけです。

 その究極の姿が、現実の空間を認識するために小さなチップを付けて環境情報と人間のコミュニケーションをバインドさせていくユビキタスコンピューティングです。

村井 そうすると、空間が生まれてきます。空間の中で小さなタグのコンピュータエレメントが離散的になって、それがネットワークで統合的でアクセサブルになってくる流れですね。もちろん、課題も生まれてきます。コミュニケーションは、次は無線になるわけですが、無線で我々は何を理解すればよいでしょう? 無線に関しても技術的な理解を持っている人は少ない。電波に対する正しい理解が必要です。僕は、「技術を飛び越えて議論をしないで」という思いが無線に対してあるのですが。

坂村 まったくそうです。理系離れはやめたほうがいいですよ。技術が重要だというわりには、勉強する人が減っている。技術を知っている人が減れば、それを伝える人も減ってくるわけで、間違って伝達されてします。経済にとっても産業にとっても技術は不可欠なんですから、中学校から教えてほしい。ユビキタスの世界になれば、社会や生活に密着してくるわけで、きちんと理解してないと困るなと思います。

 電波でいえば、周波数がものすごく関係してきます。RFIDというのは、1940年代に敵味方識別装置として第二次世界大戦のときにドイツが考えたんです。小さくするために40年代や60年代にいろいろ研究されたわけですが、70年代に核物質管理のためにロスアラモスのサイエンティックラボラトリーがRFIDの原型を開発しました。やっぱり、コンピュータのために作られたわけではないのです。

 これに900MHzの周波数帯が使われたのですが、70年代はギガヘルツ帯の技術がなくってうまく扱えなかっただけなんです。周波数というのには性質があるから、一つの周波数でいいというわけではないんだけど、アメリカは押し通した。900MHz帯は悪くないけど、周波数帯の問題はこういったことから出てくる。

日本と世界

村井 無線の周波数帯は性質もあるし、上手に使っていく必要もあります。周波数問題はさておいても、日本はこの分野で大きな貢献ができると思いますが、日本は世界にどう貢献できると思いますか?

坂村健氏

対談中、だいぶエキサイトした坂村氏。憂いから来るのか、まだまだ言いたいことがありそうだ


坂村 今回は技術の話と言うことですが、日本は政治的に難しい立場にいると思います。政治のネゴシエーションがものすごく下手だし、国としてはきつい。例えば、つい最近、スーパーコンピュータが重要だと、NECを脅威にアメリカの議会がIBMに日本円で500億円程度のお金を付けて推進させました。議会の演説を見ると、「日本を叩き潰せ」みたいなことを国会で言っている。日本の技術が危ないからと日本の国会で首相が演説して、技術開発を始めるということは考えられないでしょ。そうなると最後は、技術しかないんです。核心は12月のTRON SHOWでお話します。

村井 日本のやり方がいいか、アメリカのやり方がいいかは簡単には分からないけど、いずれにせよ技術がやるしかないですよね。それにしても、技術に対する無理解が制度を考えていくのは問題です。以前、アメリカで議論したとき、政治家が政治的に、法律家が法律的に解決しちゃうのはどうかな、となりました。技術者がスピークアップしないといけない。技術者が政治家の教育をやらなきゃいけないということになりました。

 一方で、世界はアメリカだけじゃない。アジアの発展は頼もしい。ICチップなどが量産体制に入れたとき、非常に大きな期待を持てます。時差もないし、密なコミュニケーションが取れる環境にもあります。

坂村 アジアには大賛成ですよ。シンガポールと共同でT-Engineフォーラムの共同アプリケーション開発センターを作ったんですが、びっくりするのはアジアの意思決定の早さです。あまりの速さにこっちのほうが付いていけない。それに、アジアは技術そのものを判断できる人たちがたくさんいます。日本は、「アメリカは使ってますか」とすぐ聞いてくる。アメリカも大事だけど、日本はこれまで以上にアジアをパートナーとして重点を置くべきですよ。

村井 教育の基盤が一緒になって、共同で技術を作れるというのは、これからの課題になってくると思います。先端の技術があるから、教育の仕組みをグローバルに連携できるわけです。

坂村 ユビキタスコンピューティングもネットワークも始まったばっかりだから、やらなきゃいけないことがたくさんあります。アジアには発展性があります。レガシータイプのコンピュータは米国主導できたけど、組み込み型のコンピュータはアジアが得意な分野なのです。グローバルというのを取り違えている人もいますが、国際化は貢献できなきゃいけない。それが出来ないんじゃなさけないですよ。

村井 それでは、大学の使命は何でしょう? 私の分野では、仲間でビジネスをやってない人はほとんどいないけど、僕は大学の役割は大きいと思っています。産業、政府、大学とそれぞれにセグメントがある中で、大学を中心とした活動が社会として貢献していくやり方はあると思います。ユビキタス社会での大学の使命、これはどうでしょうか?

坂村 大学は大事だと思います。特に、先端的な研究を行ってリスクをとらないと。日本の場合は軍事研究がないんだから、大学が重要になってくる。全部のリスクを民間に負わせるのは無理です。RFIDがいまアメリカで盛り上がっているのは、軍が興味を持っているからなんです。日本の大学にとって、失敗を恐れずにやっていくという使命は特に大きい。

 もう1つ、教育機関として新技術を伝えるというのも重要です。この2つは大学の基本使命。最低でもこのどちらかをやらなきゃ。

村井 僕は二つ目だと思うけど、次を担う人が出てくると言うのが、使命だし、アドバンテージだと思います。最後に今後の展開をお聞きしたいと思います。期待も課題も、誤解も多いわけですが、いかがですか?

坂村 いま強力にプロモーションしているユビキタスコンピューティングの分野は、いまが大事です。いま日本が貢献できないと、またPCと同じことになってしまいます。残念だけど、長い目でコンピュータを見たとき、日本人が貢献したかというとやっぱりハテナマークが付いてしまうと思います。ぜんぜん貢献なかったわけじゃないけど。組み込みやユビキタスコンピューティングは少ないチャンスです。全力を尽くして、この面で日本が貢献したと言われるようにやりたいと思っています。

 T-Engineフォーラムはノンプロフィットな団体だから、フォーラムに参加している企業が利益を上げればいいわけです。ユビキタスはここ10年ぐらいでローンチしますから、広い意味で日本のステータスにも関係してきます。テクノロジーをもらってきて、うまく作れるだけという印象を持たれることは、日本人として耐えられません。

村井 僕もその傾向はありますね。例えば、この分野で何が起こるんだろうというアンテナ、技術の未来を見るときに日本のマーケットとしての強さも含めて見るようにしています。それに日本が大変大きな貢献をできる兆しが見えてきていると思います。厳しいこともいっぱいあるけど、明るい兆しがでてきた。力を合わせてやっていけば、大きな成果が期待できる分野だと思います。

坂村 最近、世の中変わってきたと思うのは、米国ですら一国だけではできないという風潮が高まってきていることです。技術解説についてもそうで、昔みたいに日本が戦うとか、そういうステレオタイプで考えてほしくないです。

 世界が面白いのはいろいろな人がいるからで、コンピュータも1個しかないのではつまらないです、TRONだけでもつまらない。ぜんぜん違う人たちがいて、協調分散的にゆるやかにつながるというユビキタスコンピューティングのモデルが、人間や国家間のモデルとしても要求されてきているのです。

村井 自律性のあるダイバーシティということですね。

坂村 これを否定して一個にしてしまえというのはダメなんです。



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[堀 哲也,ITmedia]