エンタープライズ:ニュース 2003/11/21 20:54:00 更新

SFC Open Research Forum 2003 レポート
脚光を浴びるRFID、可能性とその課題

ORFでは、「Auto-IDをはじめとする自動識別技術の可能性とビジネス・社会モデル」と題するパネルが開かれた。最近、脚光を浴びるRFIDの現状と課題についてディスカッションされた。

 慶応大学SFCのOPEN RESEARCH FORUM 2003(ORF)では、「Auto-IDをはじめとする自動識別技術の可能性とビジネス・社会モデル」と題するパネルが開かれた。小さなICチップを搭載した無線タグ(RFID)は、さまざまな物に貼り付け、個体識別に利用することで、バーコードの代わりにだけでなく、食品のトレーサビリティなどでも活用できると脚光を浴びている。パネルでは現状の課題などについて、4氏が意見を述べた。

 パネリストは、根来龍之教授(早稲田大学大学院商学研究科)、ワイズシステムの山本謙治氏(農業コンサルティングチームマネジャー)、國領二郎教授(慶応大学環境情報学部教授:オートIDラボジャパン アソシエイトディレクター)、村井 純教授(慶応大学環境情報学部:オートIDラボジャパン ディレクター)の4名。司会は中村 修助教授(慶応大学環境情報学部:オートIDラボジャパン アソシエイトディレクター)が務めた。ちなみに、マサチューセッツ工科大学を中心とするオートIDラボは、ICチップを搭載したタグの規格標準化を進めており、オートIDラボジャパンを慶応大学SFCに設置している。

パネルディスカッション

左から中村 修氏、村井 純氏、國領二郎氏、根来龍之氏、山本健治氏


 ディスカッションでは、はじめに根来氏がRFIDは先行者優位を得られる分野だとする分析を紹介。先行者優位の意味を確認しながら、RFIDの持つ可能性に照らし合わせて、「先行して(取り組んでも)もそんなに悪くない」とビジネスとして取り組む意義を確認。農産物の流通でトレーサビリティにRFIDを活用しようと取り組む山本氏が、RFIDが持つ技術的問題点の解決の方向性は見えてきているが、最大の課題は小売にしかメリットがないことにあると指摘する。

 「中間流通業者にはコストアップになるし、生産・出荷業者にいたってはやることが増えるだけで、不満たらたらなのが現状」というのが山本氏の見解だ。

 続いて國領氏が、個体識別技術の定義を確認。「大量生産で切れてしまった生産者と消費者の関係をつなぐ技術」と定義し、これがRFIDなどで再びつながるようになれば、大量生産を前提にしてきたマーケティング手法へのインパクトは大きいと説明。また、正しくやれば、日本には独自の利用法や発展する環境が整っているとも國領氏は述べる。コンビニエンスストアなど高度できめの細かいロジスティクス(物流)を受け入れる基盤があり、携帯電話などでの商取引を受け入れる土壌があるからだ、という。

 村井氏は、自身の著書にRFIDを付けて流通させた取り組みをもとに、本のどこにタグを付けるかなど、問題にぶつかったエピソードを説明。再販制度があるため、返本された書籍のクリーニング過程でタグの付け替えが必要になるなど、ほかにも問題はさまざまにあることが分かってきたという。 

 同氏は「(流通など)プロセスに関わるすべての人が受け入れなければダメで、これが出来ないと技術の負けになってしまう」とその感想を述べる。

 ディスカッションは、RFIDでクローズアップされてきたプライバシー問題にも触れられた。

 國領氏は、プライバシーに関してはRFIDだけで問題になっているわけではないとして、まず何をしられたら問題なのか、RFIDを超えた大きな視野で整理することが必要だと説いた。何を知られたら問題なのかをまず整理しないといけない。一方、村井氏は「いままでプライバシーを侵しながらも受け入れられてきたものもある」と述べ、そういったものがどうして受け入れられたのか分析する必要があるという。

 根来氏の見解は、プライバシーの発信をスイッチオフする権利の必要性だ。スイッチオフ権とは、何を発信されてはダメかを決められる権利、つまりRFIDを停止させる権利だという。「サプライチェーンの内で使っているのであれば問題はなく、そこから出たときに問題が生じる。そこでRFIDを殺す権利が必要。しかし、RFIDの技術は後で何かに使える情報を持っているから面白いという面もある」と、まずは利用者に見せながら、停止させる権利も持たせるのがよいだろうとの考えだ。

 最後に山本氏は、プライバシーを犠牲にしても、それ以上の見返りが得られるかどうか、それだけが問題だという。同氏が取り組む農産物のトレーサビリティ分野では、生産者が農薬をしられるのは業務秘密を知られるのと同じという。プライバシー論は、その周辺でのメリットも含めて考えないとだめだとした。

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[堀 哲也,ITmedia]