エンタープライズ:インタビュー | 2003/11/25 16:32:00 更新 |
「日本のLinux市場はメーカードリブン」HPが語る日本のLinux市場
HPはLinux市場をどのように捉えているのか? HPのエフレイン 氏と日本HPの宇佐美氏は日本のLinux市場を次のステップへと押し上げようとしている。
エンタープライズLinux市場の拡大に対応したHewlett-Packard(HP)のLinux戦略とはどのようなものか。HPのワールドワイドLinuxマーケテインング ディレクターのエフレイン H. ロビラ氏と、日本HP マーケティングソリューション統轄本部クロスインダストリソリューション本部Linuxマーケティング部長の宇佐見茂男氏に話を聞いた。なお、日本Linux協会の理事でもある宇佐美氏は、日本のLinux市場にある「ズレ」を指摘する。
―― まず、エフレインさんが従事している仕事の内容について教えてください。
エフレイン HPでワールドワイドLinuxマーケティング部門のディレクターを務めています。HPのエンタープライズ・システム・グループ(ESG)の組識を超え、HPのLinuxビジネスを成功せるために、ワールドワイドでのマーケティング活動およびコミュニケーションの戦略を推進させることが私のミッションです。
―― HPは現在のLinux市場をどのように見ていますか?
エフレイン サーバー、ストレージ、ソフトウェア、サービス分野においてLinuxは爆発的に拡大しています。Linux市場の1年間の成長率は20%超で、今後数年間はこの成長率を維持すると思います。
―― 企業のどの分野でLinuxの採用は進んでいるのですか?
エフレイン ネットワークのエッジ部分、つまりWeb、キャッシュ、プロキシの各サーバ、ファイアウォール、ロードバランサなどの部分の成長が著しいですね。これらフロントエンドにあたる場所は、すでに数年に渡るLinuxの使用実績があり、成熟している分野であることが、成長を後押ししているといえます。
―― Linuxへの移行で注意したほうがいい点を挙げていただけますか?
エフレイン マネジメント層がLinuxへの移行を検討する際に少なくとも念頭に置いておかなければならないことがあります。まず、Linuxが成熟している分野で導入をすることが大事です。また、ベンダーを選定する際には、各OSに対するこれまでのサポート実績をよく吟味した上で決定を行うべきです。そして、もうひとつ推奨したいこととして、オープンソースコミュニティの仕組みに関して十分に理解しておくことが大事だと思います。
宇佐美 HPのCEOであるカーリー・フィオリーナが昨年のLinuxWorldの基調講演でも述べましたが、「LinuxがITの世界を征服するかどうか」ではなく、「ITの世界のどの分野をLinuxが征服するか」というのが非常に重要なのです。顧客が考えるべきことは、どのシステム部分にLinuxを採用するかといった選択なのです。
また、Linuxへの移行でコストの話がよく出ますが、「安けりゃいいのか」という意識を持つことが重要です。考えるべきポイントとして重要なのは2点あります。まず、マネジメント機能です。リモートから監視する製品は数あれど、そのほとんどがアプリケーションの動作確認を行うレベルにとどまっています。しかしHPの「Insight Manager」は、これまで基幹システムで培ってきたノウハウを注ぎ込んだことで、Linuxでも安心して利用できる環境を提供しています。
もうひとつは、混在環境をサポートしているかどうかということです。企業のお客様がLinuxを導入するのは、既存設備の機能追加という形か、部分的なリプレイスの場合がほとんどです。そのため、既存の環境とLinuxを透過的に扱えることが重要になるのです。HPは、これまで培ってきたノウハウを基に、UNIX、Windows、そしてLinuxを透過的にサポートしていくことで、相互運用性や親和性の確保を可能にしているのです。
エフレイン もちろんOSだけでなく、HPとISV、そしてオープンソースコミュニティの緊密なパートナーシップにより、顧客にとって価値のあるソリューションを広範に渡って提供しています。
日本のLinux市場が持つ「ズレ」とは?
―― 日本の市場は海外のそれと比べて何か特異なところはありますか?
エフレイン 日本におけるITのキープレイヤーと意見交換をする機会があったのですが、私がLinux市場のワールドワイドでの動向をお話しすると、日本でも同様のことが起こっていると話していましたね。
宇佐美 JLA(日本Linux協会)が行った調査では、企業のサーバユーザーの64%が何らかの形でLinuxを導入していました。TCOを削減するため、Linuxを導入するといった向きは今後も増えてくると思います。
私がエフレインなどと話をしていて感じる特異な点があります。これは私の持論となってしまいますが、日本はLinuxブームです。しかし、オープンソースブームといえるのでしょうか?
―― というと?
宇佐美 例えば、オープンソースは原点に戻って考えると、設計情報が公開されており、誰もがソースコードにアクセスでき、使いこなし、そしてその結果をフィードバックする、というものです。
しかし、日本のLinux市場は、どちらかといえばメーカードリブンとなってしまっています。たとえば、「メインフレームとまったく同じサポートをします」とメーカーが謳うなど、オープンソースのよさというものを本当にお客様に伝えているのか不安になることがあります。
米国では、開発者のためのLinux、部門サーバとしてのLinux、エンタープライズLinuxへと順を追って移行していきました。Linuxの導入で40%のコスト削減、といった事例をよく見ると、ちゃんと自衛保守できる人材がアサインされているからなのです。
日本では開発者のためのLinuxブームが一足飛びにエンタープライズLinuxへとジャンプしてしまったことで、自衛保守がとてもじゃないができないといった状況になってしまっています。そのため、自衛保守を社内で育てようという動きにならず、メーカーに100%依存してしまうといった状態です。
本来の意味のオープンソースブームというのはこれから来るのではないかと思いますし、HPとしてもそうしなければならないなと力強く思っています。
―― 何か具体的なアクションがあるということですか?
宇佐美 米OSDLでは、新しいLinuxコミュニティの場として「OSDL End User Council」を提供しています。これは、ハッカーのためのコミュニティではなく、エンドユーザーのためのコミュニティで、市場の生の声を吸い上げ、それをテクニカルに反映していくことを狙いとしています。
日本でもOSDLジャパンが来年早々にOSDL End User Councilを立ち上げ予定です。この中心となるのがHP、Intel、ターボリナックスです。意見交流を図る場所を提供することで、エンドユーザードリブンのLinuxにも力を入れたいと思っています。
エフレイン また、HPとしてもLinuxのトレーニング事業に力を入れていく必要を感じています。
SCO問題に関して
―― SCOが起こしている一連のアクションが、HPのLinux戦略に何か影響を与えているますか?
エフレイン HPでは、SCOのアクションに対して、保障プログラムを用意している現時点で唯一の企業です。いくつかの資格基準を満たす必要はありますが、訴訟の可能性という顧客にとって頭痛の種をHPが引き受けることで、顧客は安心してLinuxの導入に踏み切ってもらいたいと考えています。
HPが採ったこの動きに対する各方面からの反応は、Linuxを強く支持しているということだけでなく、顧客の立場に立っているということで、概ねプラスの評価をいただいているようです。
宇佐美 SCOの件に関して、メディアの方にお願いなのですが、SCOの問題を正しく市場に伝えていただきたいと最近よく思います。
―― 耳が痛い話ですが、現状では正しく伝えていない場合もあるということですか?
宇佐美 今行われているSCO関連の提訴は、Linuxの契約違反に関するものが2件(SCOからIBM、IBMからSCO)、Red Hatが行っている、SCOが流布した風潮への差し止め請求が1件、そしてもうひとつが、IBMがSCOに対して、GPLの下に取り決められたコミットメントに違反したことを訴えている4件です。つまり、Linuxを使っているという理由でSCOから訴えられたというケースは今のところ1件もないのです。メディアでは「Linuxは危険だ」という部分だけを強調したような感じになっている場合がありますが、そうではないのです。私たちが提供する保障プログラムは、あくまで「保険」なのです。
エフレイン HPが行うのは、顧客の支援、顧客のリスクを軽減、実装のお手伝い、そして頭痛の種を取り除くことなのです。
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[聞き手:西尾泰三,ITmedia]