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2004/04/28 19:25 更新


MSのビジネスソフトにのしかかる根深い混乱

Great Plains、Navisionの買収でCRMソフトを強化してきたMicrosoftだが、販売パートナーの統合が混乱を生んでいる。ビジネスソフト部門だけ業績が振るわなかったのはそのせいだとCFOは厳しく指摘。(IDG)

 販売チャネルパートナーとの協力に向けたMicrosoftの取り組みにちょっとした問題が起きており、これが同社が食い込もうとしているビジネスアプリケーション市場で売上の足を引っ張り続けている。

 先週の1〜3月期決算発表の際、同社CFO(最高財務責任者)のジョン・コナーズ氏は、Microsoftビジネスソリューションズ(MBS)部門について手厳しい評価を下した。この部門は、ビジネスソフトのGreat Plains、Navision、Microsoft CRMを手がけている。

 コナーズ氏はMBSについて、米国外での売上に不満はないが、米国では頼りにしているVAR(付加価値再販業者)などのパートナーとの関係維持に問題が生じたとしている。「米国での実績はあまり良くない」と同氏は金融アナリスト向け電話会見で語っていた。

 MBSのCFOを務めるケビン・ミューラー氏は、この問題の原因は、Microsoftの従来の販売チャネルと、Great Plains SoftwareおよびNavisionを買収した際に引き継いだ販売チャネルを統合するに当たっての「短期的な統合の問題」だとしている。この1年でMBSチャネルを管理する新しい担当者が加わったことも一因になっていると、同氏は電子メールによる取材で語った。

 コナーズ氏が電話会見で発したMBSについてのコメントは容赦のないものだったと、調査会社Directions on Microsoftのアナリスト、マット・ロゾフ氏は語る。「いつになく厳しい言葉だったと思う。私には、この問題がいくぶん深刻であることにMicrosoftが気付いていることの表れに思えた」

 これは新しい問題ではないが、根深いものだ。米国では「1年前と比べて、従来のMBSパートナーによる効果が薄れた」とコナーズ氏はアナリストに語った。同氏は昨年10月、7〜9月期のMBSの業績が低下したことを明らかにし、営業部隊と販売チャネルの再調整の問題が原因だと説明した。同氏はこのとき、この混乱状態は峠を越えており、間もなく消えてゆくだろうとの期待を述べた。

 Microsoftのほかの部門は1〜3月期に売上を2けた伸ばしたが、MBSの売上高は1億5300万ドルと、前年同期比で4%しか伸びなかった。スティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者)の「2011年までにMBSの年間売上高は100億ドルに達する」という予測にはまだ遠い。

 Microsoft CRM――昨年リリースされた、MBS部門で最も高い製品――を取り扱っているあるパートナーは、1月に突然混乱に見舞われたと話す。このときMicrosoftは、同ソフトをボリュームライセンスプログラムに移行し、その前払い料金からパートナーに支払うマージンを削減して販売チャネルを動揺させた。

 CRMサービス会社Green Beacon Solutionsのベン・ホルツCEOにとって、この変更は、顧客のCRMライセンスをMicrosoftから直接購入できなくなることを意味した。その代わりに、同氏は今は中間リセラーを介しているが、そのやり方は複雑で、遅れを伴う。

 「当社は大量の契約を取り扱っているわけではない。Microsoft CRMを顧客に適切に提供するのに苦労している。流通業者と契約するのにひどく苦労したし、得られるはずだった紹介ボーナスの取り分はまったくもらえなかった。以前は本当に簡単だったのに。オンラインで製品を注文すれば、Microsoftはそれを出荷し、われわれは製品を受け取って、手数料をもらえた」(ホルツ氏)

 Microsoftはこの変更の理由として、ボリュームライセンスの方がエンドユーザーには簡単だからと説明し、ユーザーは好きなリセラーから購入することもできるとしている。しかしMicrosoft CRMは主として、大量にライセンスを購入せず、Microsoftと深い関係のない中小企業をターゲットにしているとホルツ氏は指摘する。こうした顧客や、それを支援する小規模なコンサルティング会社にとっては、この変更で購入プロセスはより官僚主義的になり、購入までの障害も増えた。

 Microsoftはまた、10月に発表した世界的な「Microsoft Partner Program」の下、さまざまなパートナー企業を整理するのに苦労している。この新プログラムは1月に開始され、2005年まで段階的に実施される。MBSは7月にこれに加わる予定。

 例えば、匿名希望のあるMicrosoftパートナーは、Siebel Systemsのソフトを搭載した2つのシステムを統合する際、ある箇所で不具合が発生して、パートナーにセールスリードが渡るのが遅くなったと語る。Microsoftの広報担当者は昨年後半に、リードデータベースを統合する際に不具合が生じることを認めたが、詳しいことは明かさなかった。

 MicrosoftはMBSでいくつもの失敗を犯しているが、折しも同社は競争が激しく、誰もが狙っている中小企業向けビジネスアプリケーションの市場でシェアを拡大しようとしているところだ。同社は、SAPやPeopleSoftなど中小企業の分野に手を伸ばしてきた大手ベンダーや、Salesforce.comやNetSuite、Intuitなど、既にこの分野で活躍している中小ベンダーとの厳しい競争に直面している。

 「予想と違って、競争相手をはるかに上回る働きをしていない。競争相手と同じようなことをやっている」とコナーズ氏は電話会見で米国でのMBSについて語った。米国での実績がMicrosoftの予測に見合うようになるのは、(2004年7月から始まる)2005年度のいつかだろうと同氏は予測している。

 Microsoftの抱えている問題は、すべて自ら招いたものというわけではない。「この数カ月は会計ソフトとCRMソフトの販売が低迷している」とZ-Firmのラファエル・ジンバロフ社長は語る。Z-FirmはMicrosoft CRMなどのMBS製品のアドオンを開発している企業だ。「基本的にどこのベンダーもあっぷあっぷの状態だ」

 それでもMicrosoftはチャネル計画にある程度の調整を加えて、ビジネスソフト市場と、同社が精通しているプラットフォーム市場の違いに適応する必要があるとジンバロフ氏は指摘する。販売、会計、マーケティング、顧客サービス機能を扱うソフトは、Microsoftの中核事業であるOSやデスクトップソフトよりも導入やカスタマイズ、サービスが複雑だ。プラットフォーム市場向けに立てられたチャネル戦略が、必ずしもビジネスソフトのパートナーや購入者のニーズに合うとは限らない。

 「顧客が購入するものが根本的に違っている。ビジネスソフトの顧客は、たくさんの競合する選択肢を持っており、リセラーと長期にわたる関係を築いていることが多い。プラットフォーム購入者とMicrosoftやリセラーとの関係はそれとは違っており、もっと関係が浅い場合が多い。MS OfficeがプリインストールされたPCを買うのに、どんな関係が必要だろうか?」(同氏)

 Microsoftの抱える障害は、チャネルの問題だけではない。MBS製品をめぐるあいまいさが、売上に打撃を与えている可能性もある。同社はGreat Plains、Navision、Microsoft CRM製品を、単一のコードベースを元に構築したアプリケーションに置き換える「Project Green」を公表している。このコードベースは、2006年に出荷が始まる見込みのLonghornクライアント、サーバ、ツールに依存する。

 「厄介なのはProject Greenだ」とDirections on Microsoftのロゾフ氏。「これはMBSの売上の足を引っ張る可能性があるように思える。顧客はこのような大きな技術の移行があることを知っている。そしてMicrosoftは彼らに後方互換性を保証していない」

 MicrosoftがCRMのロードマップについて語りたがらないことも、一部で不満の種となっている。同社がMicrosoft CRM 1.2をリリースするまでには約1年かかった。それもこのバージョンは一般に、バグフィックスリリースだとされている。バージョン2.0についてはまだリリーススケジュールも約束されていない。バージョン2.0は現在、2005年半ば以降に登場すると見られている。このバージョンには、拡大版の顧客サービスとモバイル機能が取り込まれる可能性が高く、競合製品に対する競争力は向上するだろう。

 バージョン2.0には「顧客が待ち望んでいる機能がたくさん入っている」とGreen Baconのホルツ氏。「2.0の登場まで2年もかかるのなら、これらの機能はバージョン1.0に入れるべきだった」

 Microsoftの中小企業向けソリューション&パートナー担当上級副社長、オーランド・アヤーラ氏は、同社は移行によってパートナーの利便性が損なわれていることを認識しているとメール取材に応えて語る。「当社が移行を進める中で、一部のパートナーがかなりの変化に見舞われていることは認識している。当社はこのプロセスを円滑に進められるよう、パートナーと密に協力している」

 一部のパートナーは不満を持ちながらも、Microsoftと長期的な関係を築くとしている。

 ホルツ氏は混乱に見舞われながらも、それでも積極的にMicrosoft CRMを支持していると語る。CRMサービス会社Acetta Corp.のマネージングディレクター、ランス・カイル氏は、MicrosoftがCRMをボリュームライセンスに移したことでAcettaのマージンは減ったが、懸念するほどのことではないとしている。同氏は、AcettaとMicrosoftの取引は非常に円滑だと考えている。

 ほとんどの統合関連の問題は過去のものだと、MBSパートナーCongruent Softwareの会計幹部アール・ハント氏。「担当者の変更に加え、技術的な課題もいくつかあった。どの企業でもある程度の困難を経験しただろう。Microsoftは事態を改善しようと懸命に取り組んでいると思う」

 I.B.I.S.の事業開発マネジャー、ジム・ボウリング氏は、同社は過去4年間、年率25%で売上を伸ばしたが、それはほかでもない、Microsoftの従来のパートナープログラムとMBSパートナープログラム(この2つは現在は統合されている)に加入したことによるものだと話している。

 「Microsoft内部で調整が行われ、それは大規模な作業だった。これは同社がやらなくてはならなかったことだと思う。近いうちに、同社のチャネル戦略はもっと良くなるだろう」(同氏)

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