世界各国の金融機関が外国送金に使っている、Swift(国際銀行間通信協会)の送金ネットワーク。そこで利用されているデータフォーマットが、国際標準規格の「ISO 20022」に準拠したものに移行される。現行フォーマットは2025年11月に廃止となる。データフォーマットの変更による影響は、金融機関だけではなく外国送金を行う企業にも及ぶ。各企業は期限までに対応しなければ、2025年11月から外国送金ができなくなる見込みだ。ISO 20022移行に伴い、どのような対応が求められるのかをEDIとSwiftの有識者に聞いた。
一般企業が外国送金を行うには、ファームバンキングでデータをやりとりする際にEDI(Electronic Data Interchange:企業間電子データ交換)を利用する方法や、インターネットバンキングでWebサイトに情報を入力するなどの方法がある。本記事では、ファームバンキングで外国送金を行う企業において、ISO 20022移行にどのように対応しなければならないのか、またその際に直面する壁について、SwiftとEDIを熟知したJSOLの有識者たちに話を聞いた。JSOLは、日本で初めてEDIサービスを提供し(※1)、EDIの豊富な知識と実績を持つ。また、国内最大級のユーザー数を誇る「SWIFTサービスビューロ」を提供する企業でもある。
(※1)JSOLは、1983年の日本情報サービス時代に、民間企業として日本で初めてEDIの前身となる社外向けVANサービス業務を開始(日本情報処理開発協会「コンピュータ白書」(1984、1985)に基づく)。
Swiftの送金ネットワークは外国送金のデファクトスタンダードであり、国内では三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ銀行の三大メガバンクをはじめ多数の金融機関が利用している。Swiftの送金ネットワークを経由する外国送金では、送金先の口座番号や受取人名、受取人の住所といった送金指示の情報を送信する。これまで、外国送金に使うSwiftの送金ネットワーク(送金金融機関と受取金融機関との間)では「MTフォーマット」というデータフォーマットが利用されてきた。それが2025年11月に廃止され、ISO 20022に準拠した新フォーマットに変更される。その理由について、JSOLの坂口淳美氏(ソーシャルトランスフォーメーション事業本部)は次のように説明する。
「現行のMTフォーマットはSwift独自のフォーマットです。そのため複数のシステムを介して送金指示を送る際にフォーマットの変換が必要になるなど、システム間の互換性が高くありません。Swift自身も課題だと捉えていました」
ISO 20022移行の目的についてSwiftは、坂口氏の説明に加えて「外国送金の透明性と効率性の向上」「金融犯罪への対策、コンプライアンスの合理化」とも説明している。新フォーマットでは記述項目が増え、細分化されることで、セキュリティやコンプライアンスについて厳格にチェックできるようになる。マネーロンダリング対策システムの誤検知の低減や送金の高速化、効率化も期待されている。
EDI業界でスペシャリストとして活躍するJSOLの香坂真人氏(ソーシャルトランスフォーメーション事業本部 上席プロフェッショナル ITアーキテクト)は、現在の外国送金のプロセスについて次のように整理、解説する。
「企業がファームバンキングを利用して外国送金をする際は、NTTデータのファームバンキングサービス『AnserDATAPORT』を介して送金指示データを送金金融機関(仕向金融機関)に送ります。企業と送金金融機関の間では『全銀協固定長フォーマット』というデータフォーマットが利用されています。金融機関は受け取った全銀協固定長フォーマットをMTフォーマットに変換し、Swiftに送ります。Swift経由で受取金融機関(被仕向金融機関)に届けられ、受取企業には入金通知が送られるという仕組みです。企業がAnserDATAPORTを利用するには、NTTデータが提供する閉域ネットワークサービス『Connecure』(コネキュア)を利用するのが一般的です。通信手順は『全銀協標準プロトコル』(以下、全銀手順)を用いて、送金指示データを送信しています」
では、ISO 20022移行によって、どのような対応が必要になるのか。香坂氏は次のように続けた。
「送金指示データのフォーマットがISO 20022に準拠したXML形式に変わります。さらに、項目が増えます。また、送信先はこれまでと同じAnserDATAPORTで通信回線もConnecureを利用できますが、通信手順はJX手順(流通業界などで普及している通信手順)に変わります。さらに、AnserDATAPORTでは送金指示データに対してISO 20022に対応したチェックが行われるようになります」(香坂氏)
EDIサービス事業者を利用してAnserDATAPORTに接続している場合は、EDIサービス事業者がISO 20022移行に対応しているかどうかの確認が必要だ。事業者によってはISO 20022移行に対応できない場合もある。対応できる場合でも、「JSOL-EDIサービス」のようにデータフォーマットの変換と通信手順の変更の両方に対応できる事業者もあれば、対応するのは通信手順の変更のみでデータフォーマットの変換は各企業で行う事業者もあるという。
ここからは、外国送金のISO 20022移行において各企業が対応しなければならない点を具体的に解説する。
1つ目は「データフォーマットの変更」だ。従来は全銀協固定長フォーマットが使われていたが、ISO 20022フォーマットではXML形式にする必要がある。設定内容が変更になる項目もある。
変更が必要な項目の一つが「受取人住所」だ。現行フォーマットでは1項目に記述していたものを、新フォーマットでは複数の項目に分けて国名や都市名ごとに記述する。これにより、国名や都市名を正確に読み取りやすくなるため、金融機関がアンチマネーロンダリングのスクリーニングをしやすくなるという。
2つ目は「通信手順の変更」だ。前述の通り、これまで送金指示データは全銀手順でAnserDATAPORTに送信していたが、これをJX手順に変更する必要がある。
「ご利用中の通信ソフトウェアでJX手順を利用できない場合は、製品や追加ライセンスなどを新たに購入する必要があります。また、JX手順を利用できる場合でも、ISO 20022移行に関するAnserDATAPORTとの接続試験を実施済みで運用性や安全性を確認できている製品であることが望ましいです」(香坂氏)
接続検証が完了している製品が望ましい理由に、「BAH」(Business Application Header)の存在が挙げられる。BAHは、金融機関センター確認コードや伝送モード(伝送の向き)といった、本質的に通信ソフトウェアが保持する項目をセットするものだ。AnserDATAPORTに海外送金依頼データを送信するときは、次の2つを1つにまとめて送信しなければならない。
「海外送金依頼に対応していないJX手順を利用した場合、BAHを自動生成できず、本来通信ソフトウェアで保持すべき項目を基幹システム内部で保有する必要があり、保守性が悪化します」(香坂氏)
3つ目は「送金システムの改修」だ。ISO 20022フォーマットへの移行のため、送金処理に関わるマスターを改修しなければいけない可能性がある。例えば、新フォーマットで細かく分割された受取人住所の各項目がマスターにない場合は新たに追加する必要がある。
さらに、送金システムの改修はマスターだけではない。
「ISO 20022フォーマットの送金指示をAnserDATAPORTに送りさえすれば送金が成功するわけではありません」(香坂氏)
新フォーマットでは、送金指示に対してAnserDATAPORTや仕向金融機関でチェックが行われる。そのチェック結果は送金指示結果データとして送金企業に渡され、その内容を見て初めて送金指示の成否が分かる。そのため、送金指示結果データを確認する仕組みや、エラーとなった場合の訂正および再送信の仕組みを現行システムに追加する必要がある。
「送金指示結果データがエラーとなった場合、AnserDATAPORTでエラーになったのか、それとも仕向金融機関でエラーになったのかを確認しなければなりません。複数件の送金指示がある場合は、1件目がエラーになると2件目以降の指示は全てキャンセルされるなど仕様が細かく決まっており、それらを熟知した上でシステムを改修する必要があります」(香坂氏)
香坂氏はISO 20022移行について、「各企業で対応することは容易ではない」と語り、次の2つの壁に直面する可能性が高いと解説する。
1つ目は「情報の壁」だ。金融機関から現時点で提供されている情報は不透明な点が多い。新フォーマットの項目設定については、各金融機関からガイドラインが出ているものの、細かな点までは明らかになっておらず、送金企業においては何が正しいか手探りの状態だと香坂氏は話す。
また、マスターの改修範囲も未確定だ。例えば、受取人指示の住所を記述する<PstlAdr>タグ内の項目には国によっては使われていないものもあることから、2023年12月に新たに<AdrLine>というタグが追加され、国と都市以外の住所項目をまとめて書くことが可能になった。しかし、これを各金融機関がどのように扱うのかという情報はまだ周知されていないという。
さらに、テストについても不透明な状況だ。
「どのような接続テストをどこまでの範囲でできるのかまだ周知されていません。送金企業からAnserDATAPORTまでなのか、その先の仕向金融機関までか、さらに先のSwiftや被仕向金融機関まで接続テストができるのか、現時点では不透明です」(香坂氏)
ISO 20022移行に各企業が独力で対応するには、担当者自らがこれらの情報を入手する必要があるという。
2つ目は「スケジュールの壁」だ。
2025年11月までにISO 20022移行を完了させるには、遅くとも2025年の年明けから着手しなければならないと香坂氏は指摘する。システム改修やテストで見つかった不具合の修正には、およそ半年から10カ月ほどかかると想定されるという。さらに、先述の「情報の壁」が原因でシステム改修に着手できず、接続テストを十分に実施できないまま対応期限を迎える可能性もある。そのため、あらゆるシチュエーションを想定し、余裕のあるスケジュールを組む必要がある。
これら2つの壁から分かるように、ISO 20022移行を各企業で対応することは容易ではない。
ISO 20022移行を支援するEDIサービス事業者は幾つかあるが、その対応範囲は事業者によって異なる。例えば、先述したpain.001の扱いは各企業自身が考える必要があることも多いという。JSOLは、有識者が情報や知識を提供するだけでなく、各企業の財務部門担当者や情報システム部門担当者に伴走しながら支援する。
「現行フォーマットに足りない項目を洗い出すのはもちろん、金融機関ごとに必要としている項目を洗い出します。さらに、財務担当者に、現時点で送れない項目について『本当に送る必要があるのか』など、金融機関との議論を促します。議論の結果、新フォーマットに移行したことで項目の追加が必要になった場合も、JSOLが情報システム部門担当者と調整しながら対応を進めます。ここまで踏み込むのがJSOLの強みです」(香坂氏)
さらに、接続テストについてもきめ細かく支援する。
「ISO 20022移行は未知数の部分が多く、金融機関などとの接続テストではテスト方法やテストデータの形式、エラーの取り扱いなどに関して綿密な計画が必要です。これらについても、当社の有識者がお客さまをリードしてプロジェクトを進めます」(香坂氏)
ISO 20022移行に関わる検討事項は多数あり、対応に頭を悩ませる企業は多いだろう。JSOLは、そうした企業を強力に支援すると同社の八木原 楓氏(ソーシャルトランスフォーメーション事業本部)は説明する。
「JSOL-EDIサービスはJSOLが40年以上にわたって提供してきたEDIサービスであり、これまでの経験で培った豊富な知見とノウハウを凝縮してお客さまをご支援します。高い技術力を備えたEDI有識者が多数在籍しており、今回のISO 20022移行についても早くから調査や対応策の検討を進めてきました。また、AnserDATAPORTを利用した国内外送金実績が豊富にあります。外国送金のISO 20022移行とあわせて、国内送金もJSOLにお任せいただくことが可能です」(八木原氏)
さらに、JSOLは国内最大級のユーザー数を誇るSWIFTサービスビューロを運用する企業でもあることが特長だという。
「ISO 20022移行をEDIとSwiftの両面からご支援できるのがJSOLの大きな強みです。移行期限が迫る中でISO 20022移行に関する課題があれば、当社にご相談ください」(八木原氏)
「今回はAnserDATAPORTを利用したファームバンキングについてお話しましたが、インターネットバンキングやNTTデータの『VALUX』を使ってファームバンキングを利用されている方もいらっしゃると思います。VALUXに関しては、ISO 20022への対応を現時点では予定していない金融機関も存在します。今回を機にAnserDATAPORTの利用をご検討されるのも良いでしょう」(八木原氏)
JSOLは、ここまで紹介してきた強みを生かしてISO 20022移行に関する情報を積極的に発信している。2024年7月にオンラインセミナーを開催したところ、同社史上最高の視聴者数を記録したという。このセミナーはアーカイブ配信されている。2024年12月にも最新動向を解説するオンラインセミナーの開催予定があるので、チェックしてみてはいかがだろうか。
※取材当時の情報となります(取材日:2024年8月21日)。
※AnserDATAPORT、Connecure、VALUXは、NTTデータの登録商標です。
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提供:株式会社JSOL
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年11月12日