kintoneは事業部門主導で業務改革を進められるツールの一つだが、「自社で使いこなせるのか分からない」といった不安の声もある。そうした企業の選択肢となるのがSaaS活用に詳しいプロの支援を仰ぐことだ。プロが伴走することで、どのような可能性が広がるのだろうか。
大企業における業務改善は部署単位やチーム単位での取り組みにとどまり、組織全体の成果にたどり着かないケースが多い。SaaSを導入して業務改善を試みる場合は既存システムを生かしつつ、コストを含めていかにIT環境全体を最適化できるかが課題だ。
そうした中で一つの選択肢となるのが、サイボウズの「kintone」だ。IT知識やスキルがあまりない事業部の担当者でもアプリ開発が可能で、他アプリとも連携できる。多くの企業が利用しているサービスだが、「kintoneに興味はあるが、何ができるか分からない」「一部の部署でしか使われておらず、利用を拡大したい」という声も多い。
kintoneの導入によって組織全体の業務効率を向上させることができたのが、事業会社29社、全国150拠点、従業員約5000人をグループで抱えるU-NEXT HOLDINGSだ。kintoneの活用をどのように進めたのか、同社の川瀬理菜氏(人事統括部 人事部 人事企画Unit)とグループ傘下で業務改革を支援するUSEN Smart Worksの大下 幸一郎氏(代表取締役社長)に聞いた。
U-NEXT HOLDINGSは、USENとU-NEXTが2017年12月に経営統合してUSEN&U-NEXT GROUPを発足後、2024年に現社名に変更した。現在は「コンテンツ配信」「店舗・施設ソリューション」「通信・エネルギー」「金融・不動産・グローバル」の4領域で事業を展開している。
U-NEXT HOLDINGSと傘下の事業会社で構成するUSEN&U-NEXT GROUPは人事評価のデータ管理にkintoneを導入したことをきっかけに、現場主導のデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。「取り組みは時期によって3つのフェーズに分けられます」と大下氏は言う。
USEN&U-NEXT GROUPは2017年まで、人事評価データの管理に表計算ソフトを使っていた。表計算ソフトは画面の細かなデータが見にくく、プリントアウトして手書きでメモを書き込む従業員が多かった。そのため、手書きしたメモの反映に時間がかかったりメモの内容を反映し忘れたりすることがしばしば発生した。従業員が記入した人事評価データが、郵送や電子メールを介して人事担当者に全て届くまでの手間と時間も膨大にかかっていた。
人事部がデータの中身を確認すると、既定のフォーマット外に新しい列が追加されていたり、操作ミスによって関数が無効化されていたり、複数人が同時に操作して異なるバージョンが生まれていたりといった問題も頻出していた。「人事評価の業務が煩雑になり、データが提出される時期の時間外労働時間の多さが全社的に課題になっていました」と大下氏は振り返る。
そんな中、2017年にホールディングス体制に移行するタイミングで働き方や評価制度を刷新。各事業会社の運用に対応するために柔軟性があるシステムへの移行が必須となり、ホールディングスの人事部門が幾つかのサービスを比較検討。事業会社や職種が複数存在するため、多様な評価項目をカスタマイズできるkintoneのフレキシブルさに魅力を感じて導入を決めた。
kintoneの導入効果を人事部はどう見ているのか。川瀬氏は「事業会社ごとに1〜3カ月に一度の1on1と年1回の全従業員向け人事評価で、kintoneを使って入力、多段承認をしています。表計算ソフトによる管理から脱却したことで、データ入力から提出までの時間を従業員1人当たり5時間削減できました。kintone導入後にグループ会社や従業員数は増えていますが、少数の人事担当者だけで人事評価データの管理が十分にできています」と話す。
表計算ソフト時代はデータ入力に時間がかかるため評価面談に時間を割けなかったが、kintone導入後は面談に時間をより長く充てられるようになり、従業員に評価の納得感をより感じてもらうために工夫しているという。
kintoneの成果は業務効率の向上だけではない。従業員ごとにアクセス権や編集権限を設定できるため、操作ミスによる設定変更やデータを当人以外に閲覧されるといったトラブルもなくなった。
新しいSaaSを導入したものの、社内から「これまでのソフトで十分だ」「何のために新しいサービスを使うのか分からない」といった声が上がり、予想に反して利用が拡大しないケースはありがちだ。kintoneはUSEN&U-NEXT GROUPの従業員にどのように普及したのか。
USEN&U-NEXT GROUPでkintoneが定着したポイントは、全従業員が対象となる人事評価のデータ管理に導入したことだ。kintoneにアクセスする習慣が従業員に根付き、ログイン率100%を実現した。
kintoneが身近な存在になったことで、導入後すぐに事業会社の部門リーダーから「こんなアプリを作りたい」という要望がUSEN Smart Worksに寄せられるようになった。要望とフローの棚卸しをしながら言語化を行い、各部署で業務効率化のためのアプリが作られるようになった。kintoneの活用に興味を持つ従業員が5人、10人と増えていき、50人がアプリを作るようになるころには、さまざまな業務にkintoneが浸透した。
「当初は全従業員の0.1%が業務改善に使い始め、それが広がって1%の50人に増えました。アカウント課金である点もkintoneが使いやすいポイントで、10ユーザーが1万個のアプリを作っても追加コストがかからないのは大きな魅力です」(大下氏)
現場で作られたアプリの一つが、USEN&U-NEXT GROUPのキャリア支援プログラム「Next Way」のアプリだ。
Next Wayは、従業員一人一人の成長を促し、最適配置や活躍機会創出、人材の流動化を目的とする人事異動制度だ。グループ各社や各部門が必要とする人材を公募し、従業員が手を挙げると選考を経て希望の部門に配置される「Want U」、自身の経歴や成果、習得したスキル、今後のビジョンなどをキャリアディスクリプションに記載して、事業会社社長からスカウトを受けられる「Scout U」、人材の流動化による組織の活性化を目的としたジョブローテーション「Try U」の3つで構成される。
Next Wayアプリは、開発経験のない人事部の担当者がITパートナー企業の2時間のオンライン支援を3回受けて作成した。「オンライン支援は開発経験のない事業部の担当者に最適です。ITパートナー企業と開発することで、イメージ通りに出来上がっているかどうかをステップごとに確認しつつ進められます」(川瀬氏)
アプリ導入前は、応募したいポジションが公募されるたびに、応募者は表計算ソフトで作成したキャリアディスクリプションを電子メールで人事部に送信していた。アプリ導入後は一度作成したキャリアディスクリプションを複数の公募に利用できるようになり、審査結果などの情報はアプリの通知で把握できるようになった。kintoneはレコードや項目ごとにアクセス権を設定できるため、個人情報も管理しやすくなった。
「管理側だけでなく応募側も利用しやすいアプリになりました。運用する上で変更したい点が出たときは、自分で変更方法を調べて修正できます。修正に外部委託や追加費用が発生しないのも使いやすいポイントです」(川瀬氏)
これまでU-NEXT HOLDINGSは、事務所の契約期間や賃料などの情報をデータベース管理ソフトで管理していた。ソフトの動きが重く、メーカーによるサポートの終了が迫っていたことから、いつか機能しなくなるのではという不安があったという。
同社の総務部門リーダーからの要請で、情報システム部門がkintoneを使って2カ月半で開発したのが「事務所管理アプリ」だ。「現場の従業員たちは業務を熟知していますがアプリ制作は初めてです。現場の声を聞きながらアプリをどんどん改善できるという点がkintoneのメリットだと思います」(川瀬氏)
2つのアプリ以外にも、基幹システムと連携してインボイス制度に対応するためのサブシステム(適格請求書発行事業者の登録状況や仕入税額控除の適用可否の確認ツール)をkintoneで作るなど、現場のリーダーが率先してアプリを開発する文化が醸成されているという。
グループ全体における一連の取り組みを主導したのがUSEN Smart Worksだ。
同社は延べ数千社の成長を10年以上支援してきた。IT人材不足やクラウドサービス利用料の値上がり、外部委託費の高止まりなどさまざまな事情を抱えた顧客への、コスト対策を含めた支援に強みを持つ。
「アプリ開発に割ける人材や時間、手間などのリソースは顧客ごとに異なります。当社は既存のIT環境も踏まえ、全社の業務効率化を最適な価格で提案します」(大下氏)
顧客のニーズに合わせたkintoneの開発手法を提案して、実装する役割もUSEN Smart Worksは担っている。対面開発や伴走支援、受託開発の中から顧客に適した手法を選び、その手法を得意とする開発パートナーに任せることでコストの最適化を図りながら課題の解決をサポートする。
「当社はkintoneリリース時からのパートナー企業で、kintone活用の実績や経験、ノウハウを蓄積しています。サイボウズが主催するイベント『Cybozu Days』の会場を全て回ってプラグインなどの新しい情報を収集したりサイボウズと顧客セミナーを共同で開催したりしています」(大下氏)
USEN&U-NEXT GROUPが取り組むDXはフェーズ3に入り、全国の事業会社で新たなアプリ開発者を増やそうとしている。
「導入して数年で業務に合わせてアプリを作ってみようという従業員が出てきて、われわれのDXは進み始めました。今後はさらに多くの従業員が多くの業務に向けてアプリ開発にチャレンジすることで、取り組みを前進させていきたいと思います。シンプルかつ簡単にアプリを制作できるkintoneは、業務の改善ポイントに気付いた従業員の味方としてグループで重宝されると思います。現場主導のDX推進を始めるなら、kintoneは正しい選択肢となるでしょう」(大下氏)
「グループ内でkintoneが定着したので、コミュニティー活動をしたいという構想があります。社内の部活制度を使って『kintone部』を作るのもよいかなと考えています。私自身も『せっかくkintoneがあるなら、どんどん使おうよ』という気持ちがあります。皆さんもkintoneを使って、DXの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか」(川瀬氏)
本記事に関連してアンケートを実施しています。回答された方から抽選で10名様にAmazonギフトカード3000円分をプレゼントいたします。ぜひ下記アンケートフォームよりご回答ください。当選発表は発送をもって代えさせていただきます。
ログイン または 会員登録(無料)いただくとアンケートフォームが表示されます。オレンジ色の「アンケートに回答する」ボタンからアンケート回答をお願いいたします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社USEN Smart Works(U-NEXT.HD)
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年3月25日