技術力と人材育成で企業の「自走」を支援する豆蔵。生成AIからフィジカルAIまで領域を広げ、高度な内製化支援を実施する同社とAWSのパートナーシップの在り方に迫る。
人口減少と急速な技術革新という大きな環境変化に直面する日本企業にとって、AIを活用した業務効率化やデータ活用による価値創造は喫緊の取り組みだ。ここに立ちはだかるのがAI人材の不足やデータ品質の確保といった課題だ。
こうした課題に対し、豆蔵は技術コンサルティングと人材育成を軸に企業の「自走」を伴走支援してきた。同社はAmazon Web Services(以下、AWS)の「内製化支援推進AWSパートナー」としてAWSとの強固なパートナーシップの下、顧客企業のDX推進を支援している。特にデータマネジメントとデータ基盤構築においては、AIが活用するためのデータ品質の確保やデータガバナンス体制の構築に取り組んでいる。
豆蔵の中原徹也氏とアマゾン ウェブ サービス ジャパンの渡邉宗行氏に、両社の協業の実態と今後の展望について聞いた。
豆蔵がAWSの活用を本格化したのは2011年ごろだ。総務省の「高度ICT利活用人材育成プログラム開発事業」を支援した際、クラウド技術のポテンシャルに気付いたことがきっかけになった。金融機関など大規模システム開発でAWSの採用が増加する中、豆蔵のエンジニアは高可用性や柔軟なスケール、コスト効率の高さを実感した。
「豆蔵はオブジェクト指向を産業に普及させたいという思いで設立した会社です。AWSが推進するクラウドネイティブ開発やDevOps文化は、当社の技術基盤であるオブジェクト指向やソフトウェア工学と高い親和性がありました。AWSにフォーカスする方針は従業員に自然に受け入れられました」と中原氏は振り返る。
豆蔵はAWSが2019年に発表した「内製化支援推進AWSパートナー」に初期メンバーとして参画。技術力の向上にも積極的で、AWSの認定資格取得者は2024年の100人から2025年は170人に増加した。AWSの生成AIを活用するパートナーの認定制度「AWS 生成AIコンピテンシー」の取得も進めている。渡邉氏は豆蔵の特徴をこう語る。
「豆蔵さんは極めてエッジの効いた会社で、業界を先頭で引っ張っている存在です。クラウドコンサルティングや内製化支援、AIコンサルティングまで幅広くカバーし、ハイレベルなエンジニアを擁しています。これからの技術として注目されているフィジカルAIにも既に取り組んでいます」
中原氏は自社のポジショニングを「建築士」と表現する。
「家の価値や耐久性は設計段階で決まります。システム開発もまったく同じです。豆蔵は施工会社ではなく、建築士としてシステムアーキテクチャを設計します。そして、私たちの役割はシステムやプロダクトそのものを収めるだけではありません。将来にわたって拡張・保守できる“設計図”をお客さまに収めることも重要な仕事です。当社のお客さまは技術志向が高い傾向があり、最終的にはお客さま自身の力でシステムを作り上げられる状態を目指しています。だからこそ、設計という上流の価値提供を徹底しています」
この考え方が、豆蔵の内製化支援につながっている。単なる構築・運用代行ではなく、顧客企業における技術の定着と自立をゴールに据えるのが同社のサービスの特徴だ。10年以上前から一貫してこの姿勢を貫き、システム実装や人材育成を伴走型で支援してきた。
現在の豆蔵のサービス領域は多岐にわたる。「Amazon Bedrock」や「Amazon SageMaker」によるAI・生成AI活用やMLOpsの内製化支援、データマネジメント、データ基盤構築、DevOpsやクラウドネイティブ開発の内製化支援、アプリケーションやインフラのモダナイゼーションなどだ。近年は生成AIと業務プロセス改革、内製化を組み合わせたサービスを拡張している。
豆蔵の強みの一つがAIの技術力だ。同社は10年以上前からAIに取り組んでおり、機械学習や深層学習、統計学といった基盤技術全般に精通している。約40人のAI専門人材を擁し、その半数が博士号を持つ。こうした陣容を背景に、同社は2025年10月にAIテクニカルセクターを立ち上げてRAG(検索拡張生成)やファインチューニングの実装を支援している。
産学連携による技術ネットワークの構築にも注力してきた。九州大学や一橋大学、立教大学との協業を通じて先端技術をいち早く取り込み、顧客のビジネスに適用する体制を整えている。
豆蔵の強みが結実した事例が、ソフトバンクの「Y!mobile」「LINEMO」のオンラインストア構築だ。これらのオンラインストアは、サーバ調達に時間やコストがかかるというオンプレミス環境ならではの制約やウオーターフォール型開発でオンラインストアの改善に数カ月、場合によっては1年を要していた。ビジネス部門とIT部門の連携に時間がかかるのも課題だった。
豆蔵はこれらの課題に対してアジャイルやDevOps、BizDevOpsを前提とした開発体制の再構築、AWSのサーバレスを軸にしたクラウドネイティブアーキテクチャでの構築、内製化をゴールとしたチームビルディングとスキルトランスファーという3本柱で支援した。
特筆すべきは、技術面の支援だけでなく組織文化の変革まで踏み込んだ点だ。豆蔵のメンバーがスクラムマスターやアジャイルコーチとしてチームに入り、ビジネス部門と開発部門が一体となったBizDevOpsを構築。「部署の壁を越えて、より良い成果のために話し合う」文化の醸成を支援した。
渡邉氏は事例について次のように語る。「クラウドの利点を十分に享受するには、BizDevOpsの考え方が重要です。請負型のウォーターフォール型開発でクラウドのスピード感は生かせません。この事例の最大のポイントは、BizDevOpsの考え方をお客さまに埋め込むために『経営層も含めてカルチャーチェンジを実現している』という点です。そこまで踏み込んで支援できるところが豆蔵さんの大きな強みです」
豆蔵の支援の成果は数字に表れている。LINEMOのサービスサイトを約3カ月で立ち上げ、2022年度は1年間で1000件以上の改善に取り組んだ。年間の運用コストも約15%削減した。
もう一つの注目事例が、ジュビロ磐田アカデミーにおける生成AIによるコーチングノウハウの蓄積と活用だ。ジュビロ磐田アカデミーは指導方法が個人に依存し、クラブ独自の指導哲学の確立や若手指導者への技術継承が難しいという課題を抱えていた。
豆蔵は、一橋大学の神岡教授と連携してAWSのクラウドサービスと生成AIを組み合わせた「コーチングAI」アプリケーションの実証実験を提案した。Amazon Bedrockを開発基盤として利用し、指導記録を取り込み、RAG技術を使ってコーチが実践したい指導案の「素案」を自動生成するシステムを構築。経験豊富なコーチのノウハウをデジタルデータとして形式知化してクラブの共有資産とし、若手指導者に技術を継承することを目的に実証実験を行った。
「生成AIとAWSのクラウドという2つの要素の親和性の高さを確認できました。ジュビロ磐田さまからも本格的に導入したいという声をいただいています。この経験を生かして、今後は野球やゴルフなど他のスポーツ分野への展開も視野に入れています」(中原氏)
渡邉氏は事例の本質をこう捉える。「素晴らしいのは、AIありきでスタートしたのではなく、暗黙知の継承やパーソナライズという課題の解決策としてAIでできることを提案した点です。お客さまの課題を起点に、AIで解決策を提供する発想ができるかどうかが今後のインテグレーターに求められる能力です」
一般的にAIプロジェクトはPoCで終わってしまうケースが多いが、豆蔵はこうした高い技術力と目的志向型のアプローチによって支援したプロジェクトの8割を本番運用につなげている。
豆蔵とAWSが今後、共創をさらに強化する中心領域がフィジカルAIだ。フィジカルAIとはAIがロボットや車載ECU、エッジデバイス、工場設備などと連携して現実世界を認識し、それらを自律的に動かす技術領域を指す。
豆蔵には2013年から培ってきたロボティクス(メカ、エレキ、制御)の実績と、20年以上にわたる自動車領域(車載ECUやIn-Car/Out-Car)の深い知見がある。これら物理領域の強みにAWSによるエッジ・クラウド連携のノウハウを掛け合わせることで、AWSと共にロボットやSDVとクラウドを掛け合わせた共創モデルの構築を目指す。
豆蔵は2013年から海外の顧客の要望をきっかけにロボット事業に進出した。産学連携を基軸として、約5年で産業ロボット(アーム設計構築、ソフトウェアとアルゴリズムを含む)を構築。また、三井化学との共同プロジェクトとして、約4年間のフィールドテストを経て、中食工場で1時間当たり2000食の盛り付けを自動化するロボットを開発した。2025年12月に開催された「2025国際ロボット展」で発表するなど事業展開を本格化させている。
中原氏が描くのは、ロボットを単なる「モノ」ではなく「データ収集端末」として捉え、データ駆動型のビジネスモデルを構築することだ。ロボットから得られる稼働ログやアクチュエーターの動作データや生産管理データなどのデータを分析し、エッジとクラウドを連携させる。AWSのクラウドエッジ技術を活用してデータ駆動型のビジネスを展開する構想だ。ロボット開発の背景にあるのは、消費者の多様なニーズに応えるための多品種少量生産への対応と製造現場における深刻な人手不足だ。
「ある中小企業は大規模な工場を建設して産業ロボットを導入したものの、外国人労働者が離職して深刻な人手不足に直面していました。深刻化している製造現場の人手不足を考えると、人型ロボットの開発は製造業の未来にとって不可欠です。AIロボティクス事業をデータ駆動型AIロボティクス事業に転換していくところで、AWSさんの力をお借りしたいと考えています」(中原氏)
渡邉氏はフィジカルAIへの取り組みの重要性についてこう語る。「言語や文章、音声、映像を扱えるように進化してきた生成AIが次に“手”を動かすフェーズに入るのは必然です。日本の産業を強化する上で、豆蔵さんのようなパートナーがデータ駆動型のロボット開発に取り組むことは重要です。AWSはインフラやツールの提供を通じて全面的にサポートします」
豆蔵とAWSのパートナーシップは、技術への飽くなき探求心と互いへの深い理解によって支えられている。
「重要なのは技術の方向性と人の両面です。技術面においてはアジャイルやDevOpsといった当社が追求するソフトウェアエンジニアリングの延長線上にAWSの技術があり、高い親和性があります。AWSには豆蔵の本質を理解し、共に汗をかいてくれる人が多い。パートナーへの組織体制構築において群を抜いており、安心感があります」(中原氏)
渡邉氏は、クラウドビジネスにおけるパートナーシップの重要性をこう語る。「クラウドビジネスは実際に使っていただかなければ収益が発生しません。だからこそパートナーの成功を第一に考えて真摯(しんし)にお付き合いしています」
「地球上で最もお客さまを大切にする企業」というAmazonの理念と、「技術で顧客の内製化を支援する」という豆蔵の使命に基づく両社のパートナーシップが日本のDXを進展させる。
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