ハイブリッドワークの浸透やIoTの普及などによってトラフィックが増大し、人手によるネットワーク運用の限界が見え始めた。こうした危機をAIでいかに突破すべきか。Juniper Networksを買収したHPEが示す、ネットワークの自律化に向けたロードマップが答えになりそうだ。
ネットワークは単なる通信インフラではなく、ビジネスの存続を左右する生命線だ。しかし、運用現場はかつてない危機に直面している。
背景には、マルチデバイス化やIoTの普及によるネットワーク負荷の増大がある。さらに、ハイブリッドワークの浸透による局所的な高負荷トラフィックがネットワーク帯域を逼迫(ひっぱく)させていることから、従来の運用手法では制御が困難になっている。
ネットワークインフラが複雑化・高度化した今、人手による管理は限界を超えつつある。求められるのは、AIが状況を検知して自動で構成を最適化する「運用の自律化」だ。Hewlett Packard Enterprise(以下、HPE)が示したAI運用のロードマップから具体策を探る。
ネットワークのトラブルがビジネスに与える影響について、HPEの下野慶太氏は、「一時的な利便性の低下」といった言葉では済まない状況だと指摘する。
「例えば高度に自動化された工場では、数秒間のネットワーク停止が数億円規模の損害につながりかねません。かつては『通信が遅い』という従業員の不満で済んでいた問題が、企業の存続に関わる重大な経営課題になりました」
ネットワークの高度化・複雑化と併せて、IT人材不足による運用の属人化も課題だ。ベテラン技術者の経験に頼ったネットワーク運用では、担当者の離職によって業務がブラックボックス化するおそれがある。
深刻なのは、場当たり的な対処の積み重ねによる技術的負債だ。その場しのぎの設定変更や暫定的な改修が繰り返された結果、ネットワーク運用プロセスがサイロ化した企業は多い。SIerや製品ベンダーでも設計意図や依存関係を解明することは困難であり、抜本的な解決を難しくしている。
HPEは解決策として、AIが自律的にネットワークを運用する「Self-Driving Network」(自律型ネットワーク)を提唱する。
この進化は5つのステージで定義される。ステージ1の「Data」(データの収集・可視化)から始まり、ステージ2の「Insight」(分析・判断)、ステージ3の「Recommendation」(解決策の提案)を経て、ステージ4「Assist」(許可に基づく事前対応)まで実現した。AIが提示する修正案を人が許可すれば、修復がワンクリックで完了する。
その先にあるステージ5が、HPEが見据えるゴールであるSelf-Driving Networkだ。下野氏は「AIが自律的にネットワーク全体を監視して最適化し、トラブルを未然に防いで自動修復する『完全な自律状態』を目指しています」と話す。
サイロ化したネットワーク運用のトラブルの多くは情報不足に起因するので可視化こそが解決の近道になる。HPEは、ネットワーク機器をクラウドで管理し、ログや設定、変更履歴などのデータをリアルタイムに集約するデータ基盤を構築した。クラウドによる集中管理で可観測性(オブザーバビリティー)を確保し、「現状が把握できていない」という障壁を解消する。
このデータ基盤でタスクを遂行するのが「Agentic AI」だ。設定や認証、クライアント知識といった専門分野に特化した複数のAIエージェントが連携して動作するマルチエージェントの仕組みを採用する。下野氏は「高度なスキルを持ったネットワーク技術者のチームがクラウドに常駐するようなもの」と表現する。
実際にHPEのソリューションを利用しているユーザーは、その効果を体感している。下野氏は「あるSaaSベンダーは、HPEのクラウド管理Wi-Fiの導入から8カ月間でWi-Fiのトラブルチケットを9割削減しました」と成果を語る。
さらに、新機能のネットワークのデジタルツインを実現する「Marvis Minis」は物理センサーを設置することなく、アクセスポイントが自律的にネットワークの疎通確認をする。この機能が真価を発揮するのが、多くの運用担当者が頭を抱える「週明けのトラブル」だ。Marvis Minisは深夜や休日などの非稼働時間帯に仮想テストを繰り返し、異常の兆候を事前に検知する。管理者はユーザーの業務開始前に対応を完了できる。
2025年7月のJuniper Networks買収完了を経て、HPEのミッションは「Secure AI-native Network」に進化した。下野氏は、その本質を2つの軸で説明する。
第1の軸は、運用のためのAI(AI for Network Operations)だ。これはSelf-Driving Networkを指し、AIがネットワークを自律的に監視、制御することで人の手を介さない運用を実現する。第2の軸である、AIのためのネットワーク(Networking for AI)では、生成AIの学習や推論における膨大な量のデータ通信を支えるため、低レイテンシでセキュアなデータセンター基盤を提供する。
「HPEはネットワーク運用の自律化を推進する一方で、AI時代の膨大なトラフィックを支えるインフラも提供しています。キャンパス(企業の本社)、ブランチ(支社)、データセンター、WANをAIネイティブなネットワークとして統合して提供できる点が新生HPEの強みです」
AIネイティブ戦略の根底には、徹底した「セキュリティファースト」の思想がある。HPEにとって、セキュリティはアドオン機能ではない。アクセスポイントやスイッチにセキュリティ機能を組み込んでおり、接続した時点で適切な保護を適用できる。
HPEは、Juniper買収完了のわずか5カ月後に中核製品である「HPE Aruba Networking Central」(以下、Aruba Central)と「HPE Juniper Networking Mist」(以下、Mist)の強みを融合させた製品ポートフォリオを発表してAIネイティブ戦略を提示した。
その第一歩として、Mist、Aruba Central の機能を相互補完していく。ネットワーク障害の原因分析から自動修復までを担うMistの「Marvis Action」をAruba Centralに、トラフィックの傾向を分析してIoTを含むネットワーク上のさまざまな端末を自動分類する、Aruba Centralの「Client Profile」をMistに実装する予定だ。
LLM(大規模言語モデル)の概念をネットワークに応用した「Large Experience Model」(LEM)もHPE独自の技術だ。Web会議などの通信品質を学習し、ユーザーの体感品質を数値にしてモデリングする。
こうした高度な推論を支えているのが、蓄積された膨大なデータレイクだ。HPEは20年以上にわたって製品の稼働ログを記録しており、アクセスポイント1台当たり4万行に及ぶ詳細なデータを取得して蓄積している。このデータセットの学習が、AIによる分析や予測の精度に直結している。今後、MistとAruba Centralの両方から得られるデータを活用したAIOpsが、Self-Driving Networkの実現を加速させることは間違いないだろう。
HPEは既存ユーザーを置き去りにしない。両ブランドの製品を進化させつつ、2026年夏には、同じアクセスポイントでMistとAruba Centralのどちらかを選んで動作させられる「デュアルプラットフォームWi-Fi AP」のリリースを予定している。Wi-Fiの導入ではアクセスポイントの設置コストがかさみがちだ。Mist、Aruba Centralのどちらにも対応することで、移行の柔軟性が担保されるメリットは大きい。
MistとAruba Centralは両方ともマイクロサービスアーキテクチャ採用しているので、今後も相互の機能補完をしつつ、新機能を両製品に追加してSelf-Driving Networkを両製品で推進する。
2つのブランドは互いの長所を取り込み、Self-Driving Networkという共通の目的に向かって進化を続ける。その歩みは、属人化した煩雑な保守業務から技術者を解放して創造的な戦略業務に注力できる環境をもたらす。
「HPEのクラウドとAIが、お客さまを複雑な運用の重圧から解放します。Juniper Networksのメンバーが加わってさらに精鋭ぞろいになった新生HPEのエキスパートチームが、お客さまのネットワークの未来を支えます」
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