最大の武器はエンタープライズビジネスを加速させるソリューション
マイクロソフトは昨年7月に新社長マイケル・ローディング氏を迎え、新たにソリューション志向のマーケティング戦略のスタートを切った。その3カ月前には、エンタープライズへのフォーカスが重要でより明確化したいという同社の意図のもと、ある人物が迎え入れられた。日本アイ・ビー・エムのソフトウェア事業部で指揮をとっていた平井康文氏である。同氏に、2004年のエンタープライズビジネスの展望を聞いた。

 ITインフラストラクチャとしてソフトウェアプラットフォームを提供しているマイクロソフト。マイケル・ローディング新社長のもと、エンタープライズ色をより明確に打ち出した戦略を、2003年11月に常務執行役に就任した平井康文氏が語る。

ITmedia 平井さんは昨年4月にマイクロソフトの取締役として就任され、その後現在の常務執行役というポジションでご活躍されています。昨年はご自身もお忙しかったことと思いますが、マイクロソフトにとってはどのような意味合いを持つ2003年だったのでしょうか?

平井 マイクロソフトは6月にWindows Server 2003を発表しました。ミッションクリティカルなエンタープライズの分野で、本当の意味で認知されたインフラストラクチャとして受け入れていただきました。昨年はこの製品を核として、多くの顧客からの高い評価とそれに伴ったプロジェクト案件を頂きました。マイクロソフトのエンタープライズビジネスとして、大きな変革のあった一年だったと感じています。

 個人的には新しい会社に移り、社内の「用語」などを駆使しながらほかの人へついて行くのが精一杯というところでした。そして、お会いする方々から本当に温かい激励の言葉を頂きまた。その意味するところは、弊社のプラットフォーム製品やサポート、サービスなどに非常に高い期待感を持っていただいているということだと思います。このことを痛感して責任感を再確認しました。

ITmedia マイクロソフトとしてソリューション志向を打ち出した年でもあったわけですね。

平井 「ソリューション」という言葉はとても広い意味を持っていますが、今は世の中で非常に安易にこの言葉が使われすぎていると思います。

 われわれのビジネスは現在、ソフトウェアのプロダクトからソフトウェアを使ったソリューションへという変革のフェーズにあります。「プロダクト」から「ソリューション」へ変わる一番重要なポイントというのは、「機能」、そこで提供している一つ一つのFunctionから、それによって「何ができるのか」というCapabilityへの視点の変革なのです。企業顧客に対しては、その声にしっかりと耳を傾け、彼らが持つビジネスの課題を理解することが重要です。それに対してわれわれは、製品を顧客の業界の言葉を使って説明し、顧客の立場で紹介をしていく。これがわれわれの考える一つのソリューションです。

 その典型的な成果が、昨年12月に発表した百五銀行様のバンキングシステムに関するソリューションです。日本ユニシス様のバックエンドサーバを使い、勘定系を含む次期基幹システムをWindows Server Systemで構築するというものです。

ITmedia 顧客がマイクロソフトのソリューションを選択する理由は何でしょうか?

平井 まず、Windowsというプラットフォームですが、これがメインフレームやUnixといった他のプロプライエタリなシステムと比べて評価されているのは、やはりOSの上に存在するミドルウェアのスタック部分だと思います。そこに優位性があると考えます。顧客にとってはOSだけでは価値はなく、その上でどんなミドルウェアが稼動するかということが大切です。ですから、顧客のビジネス課題を解決できるか、あるいは新しいビジネスモデルに対応するアプリケーションが用意されているか、そういった部分での優位性をまずあげることができるでしょう。  またJavaと.NETについてですが、この二つは開発手法として比較されるべきものです。これら二つの開発生産性と開発ツール、およびそれを利用するスキルを持つデベロッパーの数。この点においても.NETは非常に優位にあります。

ITmedia OSだけでなく、それを取り巻く開発ツールなどのデベロッパー向けソリューションまでも提供している強みということでしょうか?

平井 その通りです。デベロッパー、いわゆる開発技術者を一つの重要な顧客セグメントとして捉えています。国内でもすでに50人からのデベロッパー/プラットフォームエバンジェリズムという、開発者を専門にサポートする組織が活動しています。そこでは単に製品の説明だけではなく、技術的支援や啓蒙活動といった幅広いサポートをしています。開発技術者を専門にサポートする組織を持てるソフトウェア会社というのはほかにないと自負しています。

ITmedia 昨年も目立った進展の見られなかったWebサービスですが、2004年における進歩はどういった点を予想してますか?

平井 従来はあまりにもテクノロジーを語りすぎたのではないかと思います。顧客にとってはテクノロジーは何でもかまわないわけです。いま直面している経営活動に関する課題をどうクリアしていくか、これが企業にとって重要なわけですから。この方法にはこだわらない姿勢が、昨今のビジネスプロセスのアウトソーシングやe-JapanにおけるiDC構想などといったソリューションのさまざまな形態を生むことにもつながっています。


2004年を「Webサービスの原点回帰」の年と予言する平井氏。

 さらにいままでは対外結合的なBtoBをあまりにも意識しすぎた面もあるのではないかと思います。確かにBtoBは一時期盛り上がりを見せました。しかし、自社の中だけでもさまざまなプロジェクトやシステムが混在して纏め上げるのに大きな労力を使っているのに、企業と企業というようにより複雑で大きなものどうしを結びつけるのは、それは非常に困難な作業です。

 今年はWebサービスの原点回帰となる年だと思っています。弊社のソリューションで具体的に説明をするなら、イントラネットにおけるOffice Systemです。アプリケーションがXML/Webサービスに完全対応となり、クライアントPCが「つながる」システムの入り口となるのです。InfoPathというアプリケーションでは、SAP R/3といったバックエンドやレガシーアプリケーションとデータのやり取りをして、フロントエンドとして見やすい形で情報提供することが可能となります。つまり、XMLやSOAP、UDDIといったWebサービスに関するテクノロジーを意識することなく、ユーザーは情報を手に入れることができるのです。シンプルなこの形こそが、Webサービス本来のあり方と言えるでしょう。

 2004年にはこの手法が広く認知され、定着していくことを期待しています。その上で、今度は企業どうしを結び付けて情報交換の手法としてWebサービスを利用していくという展開があるのではないでしょうか。

ITmedia 依然として企業のIT支出には厳しい目がありますが、今年以降ITへの投資は回復基調にあるという楽観論も出てきています。だとしたら、企業はIT投資をどの部分・分野へ行っていけばよいでしょうか?

平井 限られた予算の中でかなり短期のROIを求められるのが現在のIT投資の特徴です。おそらく多くの企業は、一通りの分野はプロジェクトとしてすでに確立していると思います。ですから、一つはそれらを横串につなぐインテグレーション、EAIとも呼ばれていますがそれをもう一段上回ったビジネスプロセスマネジメント、言い換えれば企業の経営活動が部門を超えてつながっていくような投資を行っていくべきではないでしょうか。例えばERP、SCM、コールセンターといった部門それぞれの単体ソリューションが横串につながり、1+1+1=3、ではなく5や10の企業の力になっていく、そういった連係が今年は旬になるのでは、と期待しています。

ITmedia 「情報共有」がしきりに叫ばれていますが、これは日本がIT化してくための過程の一つなのでしょうか?

平井 おそらくこれはIT分野に限らず、ビジネスマネジメントと関係していると思います。グローバル化と言われている現在において、プロセスを確立していくことが重要視されています。それを支えるインフラとしての情報共有が重要度を増しているのではないでしょうか。経営活動が情報を基盤として変化していきている証拠でもあります。

ITmedia 平井さんが今年注目する分野は?

平井 個人的にTabletPCは、持ち運んで利用する形態がワークスタイルの変化をもたらしたと考えています。その延長線上にあるのかもしれませんが、いまはユビキタスあるいはモバイルコンピューティングに非常に注目しています。これだけワークスタイルが多様化している現在、ワーク/ライフバランスの問題などを解決していくものの一つが、この新しいコンピューティングのスタイルではないでしょうか。昨年はWindowsとTRONの協業を発表しましたが、こういった活動の中で今年は今までにない、ハードウェアでもソフトウェアでもないトータルな働き方のソリューションが出てくるのではないかと期待しています。  もう一つ、リアルタイムコラボレーションという分野も、少なくともここ3年以内に伸びていくと思います。世界に比べて日本は圧倒的に遅れをとっているのがこの分野です。日本では古くからFace to Faceがコミュニケーションの中心ですから、これは仕方ないのですが……。欧米では電話会議やTV会議は当たり前ですし、アジア諸国においてももはや普通のことになってきています。企業がグローバリゼーションという波を受けて、さまざまなパートナリングを組んで新しいビジネスモデルを作っていこうとすれば、この仕組みは必ず必要になっていくと思います。

ITmedia 2004年に社員に伝えるメッセージは?

平井 私は昨年の11月に、「3年後5年後にわれわれはどう在りたいか」というビジョンステートメントを作りました。その中の「信頼され、未来を託される存在へ」という言葉を、私が担当するエンタープライズのチーム約300人に送りました。われわれは顧客と対峙する部隊ですから、まずは信頼関係を築くこと。そして長く深いリレーションシップを保つこと。それが、この言葉に含まれています。

2004年、今年のお正月は?
「2年ぶりに家族で四国の実家に戻り、ゆっくりと過ごしました。昨年は一人ニューヨークで単身赴任の寂しい正月を過ごしましたから、これはうれしかったですね。しかも、20年ぶりに高校の同窓会へ出席し、旧友との再会も果たすことができました。夜を徹して酒を酌み交わしましたよ。」

2004年に求められる人材像とは?
「2004年のIT業界に求められる人としては、もちろんスキルがあるのは当然ですが、いま日本で求められているのは、例えばiモードのように日本発信で世界に通用するソリューションです。純然たるITの世界でのソリューションが欲しいですね。ということでグローバライズしたインターナショナライズした人材です。日本発で世界に通用するものを作りたいですからね。」

関連記事
新春インタビュースペシャル2004
日本ユニシスとマイクロソフト、金融機関向けミッションクリティカルシステム構築で共同プロジェクト
製品単体に価値なし! 企業にソリューションを訴求する新生マイクロソフト

関連リンク
マイクロソフト

[聞き手:柿沼雄一郎,ITmedia]