「工場長にどう報告すればいいんだ」と詰め寄られた原価管理担当者のアイデア(4/4 ページ)
原価管理部の藤井は、生産管理部長から掛かった電話に出るのに躊躇した。「藤井君。製品Aの実際原価はいくらだ。儲かっとるのか!」いつもの大きな声である。
さらに、3Cのうち、顧客と自社製品のポジショニングにも触れたい(図1-3参照)。顧客にとって売価はどういう意味を持つのか?
ここでは、大きく3つの力が働いている。1つ目は、「要求スペックへの対価」である。顧客は製品に備わっているスペック、機能を求めて購入する。そのスペックに対する対価としてお金を支払うのである。つまり、基本的に顧客は支払い額がより少ないことを望むと考えていい。
しかしながら、顧客にとって売価の意味はそれだけではない。2つ目に、品質評価の力が存在するのである。
こんな経験はないだろうか。中古車センターで5万円の車が売られている。それを見た時に、「事故車?」「20万キロメートル以上走行している?」などと、なぜか品質上の不安を感じてしまうようなケースである。
これは、先ほど1点目で述べた「要求スペックへの対価」の観点で述べると、価格は安ければ安いほど良いはずであるが、安過ぎると不安を感じてしまうのである。これが価格に関して品質評価の力が働く場合である。
しかし、この力がいつも働くとは限らない。先ほどの例でいえば、自動車の整備士が5万円の車を見てもそれだけでは不安を感じることはない。ボンネットを空けてパーツを見たり、エンジン音を聞いたりして問題がなければ、デザインなどが気に入りさえすれば5万円でも購入しようとするかもしれない。
つまり、購入者が製品の品質評価ができる人かどうかで、この「品質評価」の影響力が変わってくる。この例から分かることは、同じ製品を消費者向けにも企業向けにも販売している企業は、売価戦略を変える必要があるということである。
さらに、3つ目のポイントは「ステータス」だ。これは高級品を保有することで自己の満足度を高めたい、他人から良く見られたいなどの思いが該当する。例えば、(人によって異なるが)他人がなかなか購入できない50インチ以上のプラズマテレビを購入することで誇らしげな気分になったり、他人に自慢したくなったりする人は多い。これがステータスの力である。
このように、売価を最適化するためには3つの軸でのポジショニングを明確にする必要がある。特に、「品質評価」の軸を議論して、売価設定の戦略を明確にしていく必要がある。
以上のように、今回は3C(競合他社、自社、顧客)の観点での売価設定の考え方を紹介した。考え方だけを理解すれば、読者の皆さんの企業でも今日から運用できる。
運用の際に重要なのは、商品企画部、マーケティング部、営業部門、そして製品開発のプロダクトマネジャーが連携をして継続的な活動を行うことである。商品企画段階では、商品企画部、マーケティング部でポジショニングを明確にし、それを受けて、製品開発段階では、営業・プロダクトマネジャーを中心としてそのポジショニングを見直す必要がある。
商品企画段階から製品開発段階で中心となる部門が異なるが、どのタイミングでだれが中心となってアクションを起こすかの業務フローの定義を行い、この考え方を活用していただきたい。
筆者プロフィール:北山一真(ネクステック ビジネス変革推進部マネジャー)IT系のコンサルティング企業にてERP導入プロジェクトを主とした業務改革推進、システム導入などに従事し、現職に。現在、大手グローバル製造業のコスト管理、全社システム構築に関するプロジェクト管理に従事。
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