福祉も自治体運営の重要な側面
自治体の運営においては、経済的な側面のみならず、教育や福祉といった側面も考慮した上で戦略的に進めていくことが求められる。福祉という観点から自治体を見ると、2つの自治体で興味深い取り組みが行われていた。
2005年に木曽福島町・日義村・開田村・三岳村の4町村が合併して誕生した長野県木曽町は現在、田中勝己町長の下、障害者福祉に力を入れている。
田中町長は1998年に木曽福島町長に当選後、木曽福島町長を2期務め、木曽町の町長に就任した。町議員として日本共産党に籍を置き、8期を勤め上げた経験もある(現在は無所属)。
木曽町は独自の福祉医療費助成制度を設け、身体1〜3級、知的A1・A2・B1、精神1〜3級の障害者に対し、障害治療のための医療費を全額負担するという福祉政策を行っている。障害者自立支援法の本格施行が開始された現在、この取り組みの意義は大きい。
2006年4月から実施された「障害者自立支援法」は、その基本部分が4月からスタートしていたが、この10月からは全面的な実施フェーズへと移行した。
同法下では、それまで0.5割だった自己負担額が1割となり、障害者の医療費負担は倍増することになった。厚生労働省の発表では、自立支援法により自己負担金が1割となったことで、精神保健および精神障害者福祉に関する法律32条のときの利用者率に対し、利用者率減はわずか0.39%であり、影響は少ないとしている。しかし、障害者団体からは、低所得者層の実態を反映していないという批判も出ている。
また、この10月からの本格施行には自治体側も対応に追われている。例えば障害程度の区分認定などは、本来10月前に完了すべきものであるが、実際に完了したのは政令指定都市でも横浜市と広島市のみという現実がある。
差別撤廃を狙う新条例
障害者を取り巻く状況がむしろ悪くなっているようにさえ思える中、千葉県は差別撤廃のために新しい条例を設けたことで注目を集めている。同県では、「差別をなくすための取り組み」を以前から行っており、2004年7月には「第三次千葉県障害者計画」や「千葉県障害者地域生活づくり宣言」を発表。国に対して障害者差別禁止法の制定を働きかけ、一方で千葉県独自の条例制定のための検討が盛り込まれていた。
2004年9月から、「差別に当たると思われる事例」を県民から募集し、差別とは何であるかを県民全体で考える機会をもうけた。2005年1月には「第三次千葉県障害者計画推進作業部会」の一部として「障害者差別をなくすための研究会」を設置している。
これらの努力の結果、2006年10月、「障害のある人もない人もともに暮らしやすい千葉県づくり条例」(障害者差別禁止条例)が千葉県議会本会議で可決、2007年7月から施行されることになった。都道府県による障害者差別禁止条例の設置は日本初である。
同条例では障害者が差別を受けたとき、申し立てを行うことによって、第3者機関の調整委員会が当事者から意見を聴き、助言やあっせんも行う。調整委員会には罰則規定がないが、仲裁を行ってくれ、知事からも勧告が行えるほか、訴訟を起こす場合には障害者の訴訟費用を県が援助できることになっている。
「障害者に対する差別とは何か」を明文化した同条例。障害の定義が限定的なものであることや、当初の条例案にあった差別事例の公表規定などがなくなった点など、実質的な効果や影響がどの程度あるのかも現時点では未知数だ。とはいえ、「障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的総合的な国際条約」が年内にも国連で採択される見込みである。また、自治体の運営においては、経済的な側面のみならず、教育や福祉といった側面も考慮した上で戦略的に進めていくことが求められることを考えると、同様の動きは今後各県でも見られるだろう。
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