「新ASP」に熱い視線が注がれる理由:「SaaS」の未来やいかに 第2回
「SaaS」として新たに表舞台に登場した「新ASP」。従来とは何が違うのか。そこに寄せられる期待が大きいのはなぜなのか。
単なる「衣替え」か
「新ASP」という位置付けでその存在を明確にしつつあるSaaS(Software as a Service)。従来のASPとの間に違いはあるのだろうか。
「ASPとSaaSとで、本質を区別する明確な違いはありません」――こう語るのは、NPO法人ASPインダストリ・コンソーシアム(ASPIC)ジャパン常務理事で技術部会長を務める津田邦和氏だ。「SaaSは、ASP事業者が営業活動において他社との差別化を図るためのブランディングのひとつといえます」と説明する。つまり、新ASPはASPと何ら変わりはないのである。
津田氏は、ASP、SaaS、オンデマンド・コンピューティング、ユーティリティ・コンピューティングなどの本質はみな同じという。「それらをあえて総称するなら、『ネットコンピューティング』という表現が適しているかもしれません」と話す。
それでも期待大の背景とは
ASPICジャパンによるASP事業者実態調査では、ASP事業社数は2004年、1000社近くにのぼった。その中にはSaaSベンダーも含まれる。また、ASP関連の市場規模は同年、4280億円となり、2003年の3260億円から約30%拡大している。その後も市場は成長を続けており、2007年は8070億円、2010年には1兆5390億円にまで達すると予測されている。
ITが社会の情報基盤となった中で、ASPやSaaSの社会的メリットは、安く簡単に、しかも新・旧の利用方法が踏襲できるといった部分にあるとする津田氏は、「複数の業務システムが共通化されて簡素化し、データベースもプロセスも標準化されると、世界中どこにいても共通のサービスが受けられるようになるので、さまざまな新しい利用方法が期待されています」と言う。
特に2007年は急拡大の年になるとみている。その一つは公共分野だ。電子自治体ではASPの意識が定着し、案件が持ち上がったら必ずASPが検討されるようになっているからだ。もう一つは、マイクロソフトやグーグルなどの巨大ベンダーがASP/SaaSビジネスに触手を伸ばしていることがある。このような大きなうねりは決して過去にはさかのぼらないと判断している。
「将来、アプリケーションの95%はオンデマンド化されていくでしょう。なぜなら、できないことが見当たらないからです」(津田氏)(「月刊アイティセレクト」1月号のトレンドフォーカス「オンデマンドの未来が再燃 SaaSはビジネス要求を取り込めるか?」を再編集した)。
※本文の内容は、特に断りのない限り2006年11月現在のもの。
関連記事
- 「SaaS」の未来やいかに 第6回:セールスフォースに続く「黒船SaaS」の奇襲
SaaSを積極的に標榜し、日本市場での浸透を図る、CRMとSFAのオンデマンド専業大手、セールスフォース・ドットコム。それが徐々に表面化し始めた2006年、新たにSaaS専業大手が日本市場で名乗りを上げた――。 - 「SaaS」の未来やいかに 第5回:これからのSaaSに求められること
「SaaSブーム」は日本にも「上陸」している。日本という特殊な市場では、SaaSに何が求められているのだろうか。 - 「SaaS」の未来やいかに 第4回:すべてが「サービス化」するのか
ASPでは今ひとつ物足りなかったオンデマンド型アプリケーションの浸透。「SaaSブーム」の到来によって、すべてのソフトウェアがサービスと化していくのだろうか。 - 「SaaS」の未来やいかに 第3回:グーグル、ヤフー、アップルの技術をビジネス界にも
「新ASP」としてこの世に登場したSaaSだが、従来のASPとは本質的な違いがないといわれる。それでも、SaaSに寄せられる期待は大きい。その市場拡大を見越し、プラットフォームまですでに提供されている――。 - 「SaaS」の未来やいかに 第1回:「新ASP」登場 オンデマンドの価値再燃か
将来を有望視されていながらも、その期待にこたえられなかったASP。ただ、それは「束の間」だったのかもしれない。その成長の礎を担う環境が整った昨今、ASPは新たに生まれ変わって登場した――。 - 【特集】「SaaS」の未来やいかに
- Salesforce.comとOracleがビジネスアプリ分野で対決へ
オンプレミスかオンデマンドか。今、ビジネスアプリケーションの市場で巨大企業を巻き込む新たな戦いが起きようとしている。 - 「NetSuiteはSaaS 3.0だ」――シニアディレクターのサリバン氏
米NetSuiteでインターナショナル製品を担当するシニアディレクターのクレイグ・サリバン氏は、NetSuiteはビジネスプロセス全体を統合できる“SaaS 3.0”だと主張した。 - ソフトウェアか、サービスか、それとも両方か
マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部の成本氏は、Web 2.0をプロバイダからコンシューマーに主導権が移るものと分析する。しかし「すべてがSaaSに向かうというのは言い過ぎだ」。 - セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏――「歴史に学べ!」先駆者が語る“IT産業の未来”
CRMをオンデマンドで提供するサービスを展開するセールスフォース・ドットコムが急成長を遂げている。ソフトウェアをサービスとして提供する「SaaS」ビジネスの先駆者として、世界中で顧客を急増させている。企業の業務システムの利用形態を根本から変革させる可能性を持つ同社のビジネスの仕組みはいったい何が違うのか。
Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.