日本の命運を懸けた宇宙の旅:Weekly Access Top10
“民営化”第1号機として「かぐや」を搭載したH2Aロケットの打ち上げ成功は、日本の宇宙開発事業に明るい話題をもたらした。宇宙開発において国際的な競争力を高めるためには、政府と企業の強いきずなが望まれる。
今週の第3位に、職場のネット利用、4分の1は私用という記事がランクインした。多くの人にとって、日常生活とインターネットは切り離せないものになりつつある現在、どこまでが仕事でどこまでが私用か境界線が見えにくいため、個人の意識によってこの数字は大きく変わるかもしれない。また今週は、「Windows XP SP3 RC」や「Windows Vista SP1 RC」「2007 Office system SP1」などマイクロソフト関連のニュースが目立った。最新の更新プログラム情報について、読者の関心の高さがうかがえる。
話は変わり、先週NECのイベント「iEXPO 2007」に行ってきた。12月5日から3日間開催された同イベントでは、NECがシステムインテグレータとして開発・製造に携わった月周回衛星「かぐや(SELENE)」の実物大試験機を展示した。高さ6メートル、幅と奥行きが2メートル程度の大きさの探査機が地球から遠く離れた月の上空を旋回しているかと思うと何とも感慨深い。
かぐやは9月14日10時31分01秒、鹿児島県種子島の宇宙航空研究開発機構種子島宇宙センターから打ち上げられた。11月には、かぐやに搭載されたNHKのハイビジョンカメラからの映像が届けられたのは記憶に新しい。
NECと宇宙開発の関わりは古い。1956年に東京大学に納入したロケット用テレメトリ(遠隔地から観測してデータを取得する技術)の送受信装置に始まり、日本初の人工衛星「おおすみ」(1970年)や静止気象衛星「ひまわり(GMS)」シリーズ(1977年〜)など、50年以上も前から日本の宇宙開発事業をけん引してきた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の指導の下、NECと関連会社のNEC東芝スペースシステムが携わる人工衛星と探査機は50機以上で、国内シェアの約7割に相当する。
ロケットの打ち上げも民営化
宇宙開発は、国家のみならず企業にとっても威信をかけた事業である。
かぐやを搭載した「H2Aロケット13号機」は、今回初めて民間企業の手によって打ち上げられた。担当したのが三菱重工業だ。同社は、以前からH2Aロケットの製造に携わっていた。しかし、国の計画に基づいて機体を納入するだけで、開発や打ち上げなどはJAXAが担当していた。2002年、政府はロケットの相次ぐ打ち上げ失敗を受け、打ち上げ業務を民間に移行すると発表した。H2Aロケット13号機こそが民営化ロケットの第1号であり、かぐやの打ち上げ成功は民間企業に大きな可能性を与えた。
2008年2月15日(16時27分から39分を予定)には、H2Aロケット14号機による超高速インターネット衛星「きずな(WINDS)」が打ち上げられる。
きずなは、政府IT戦略本部が推進する「e-Japan重点計画」に基づいて、JAXAと情報通信研究機構(NICT)が共同開発した人工衛星。情報ネットワークの高速・大容量化を目的とする。例えば、企業などで直径5メートルのアンテナを設置すれば、最大1.2Gbpsの双方向通信が可能になるほか、アジアや太平洋地域の近隣諸国との高速通信も実現できるという。
日本およびアジアの固定地域と通信するアンテナ「マルチビームアンテナ(MBA)」を2基と、MBAが対象としない広範囲地域と通信するアンテナ「アクティブフェーズドアレイアンテナ(APAA)」を搭載する。通信用電波の出力を自由に増幅できる「マルチポートアンプ」を実装するため、天候に関わらず常に安定した高速通信が可能となる。衛星上で155Mbps×3チャネルという情報を交換する高速スイッチングルータも備わる。
NECが全体システムを設計したほか、MBA、マルチポートアンプ、スイッチングルータを製造した。APAAは三菱電機が担当するなど、いくつかの民間企業が連携して開発が進められた。
宇宙開発では国家と企業の連携が不可欠
これまで宇宙開発といえば、国家同士の争いという側面が強かった。このたびの民間委託とその成功によって、今後は日本でも宇宙産業が広がる期待感を持つ。JAXAなどを中心に、宇宙開発ベンチャー企業の支援や学生向けの勉強会である「宇宙開発フォーラム」の開催など、実際にさまざまな動きが出てきている。
日本の宇宙開発予算は、2007年度で約2530億円と、ピーク時の約3000億円(2002年度)から大幅に減少している。NASA(アメリカ)の約6分の1で、ESA(欧州宇宙機関)よりも低い金額である。欧米企業は政府からの多額な助成金によって開発コストを抑えることができるため、企業間の競争でも日本は不利な状況にある。
こうした中、政府が提案する「宇宙基本法」は1つのきっかけになり得る。この法案の目的は、宇宙開発における日本の国際的な競争力を高めることである。日本経済団体連合会(経団連)などは、この法案によって宇宙開発予算が拡充することを大いに期待している。
今こそ政府と企業が協力し、宇宙開発産業を積極的に拡大する機会だといえよう。さもなければ、はるか先を行く欧米はおろか、中国やインドにも水を開けられたままである。
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