「違うって。どうしてそんな解釈になるんだよ」――メンタルモデルの罠:職場活性化術講座(2/2 ページ)
誰かと話をする時、われわれはメンタルモデルの存在を知っておくことが肝心だ。「相手は違う受け止め方をしているかもしれない」ということを心の片隅に置いてコミュニケーションをしていく必要がある。
パーセプションの違いを感じ取れ
ここに介在しているのは、私たち1人ひとりが持っているパーセプションの違いだ。狼少年が、いつもウソで「狼が来た!」と言っていると、そのうち村人たちは、「あいつはうそつきだから、話は信じなくていい」というパーセプションを持ってしまう。だから、今度は本当の話であっても、そしていくら懇切丁寧に説明しても、全然伝わらない。
営業部門が「今度のお客さんは是非買いたいといっているから、こういうのを作って下さい」と開発部門にいくら頼んでも、もし開発サイドでは、「これまでいつもそう言うから頼まれてやっているけれど、大体ちゃんと売ったためしがない。いつも在庫になってしまい、それは要望どおりできていないからだと、かえって反撃してくる始末だ。営業は困った連中だ」など考えていたらどうだろうか? 開発サイドはきっと動かないだろう。「分かった。やっておくよ」で、放置されてしまうのではないだろうか。
このようにわれわれはみな、過去の経験や学習などに基づく一定のパーセプションを持って、入力してきた信号を処理している。だから、同じことを言っても、人によってまったく受け止め方が変わる場合もある。
このようなパーセプションのことを『メンタルモデル』という。自分なりの認知・理解のパターンであり、価値観、前提、思い込み、クセ、文化、習慣などさまざまなことが要因となっている。
そして、コミュニケーションをするときには、このメンタルモデルが自分にも存在し、相手方にも違うメンタルモデルがあることを心得なくてはならない。
「急いでやってほしい」ということをIT業界のベンチャーの社員が言うのと、鉄鋼メーカーの社員が言うのとでは、恐らくスピード感はまったく異なってくるはずだ。これも、スピードに関するメンタルモデルの違いだ。
そして、反応処理が問題になる。IT業界の人は、「鉄の人は何でこんなにのろのろやっているの?」と反応し、鉄の人は、「ITの人はなんであんなにせっかちなの?」と言うだろう。そして、互いに「理解できないね、あの人たちのことは。住む世界が違うね。どうしてもっとサクサクやらないのか/きちんとやらないのか?」というように、だんだん感情が入ってくる。
こうなってくると厄介だ。話すのが面倒になったり、合わない/ダメの烙印を押して、相手から学ぼうとしなくなったりする。
実はこういうことは、上司と部下の間でもないだろうか?
「うちの部下は、発想が弱くて、提案を持って来いと何度言っても動かないんですね。まったく使い物にならん」と思ってしまうと、上司は次回からは、もうその部下の言うことはあまり聞かずに、一方的に指示を出して、思い通りに動かそうとするだろう。しかし、部下の方では、「うちの上司は、まったく聞く耳を持っていなくてね、説明しても自分勝手にしか受け取らないから、説明に行く気がしないんですよ」と思っているかもしれない。
こういう状態になっては、メンタルモデルの罠にはまったようなもので、もう修復が難しい。
こうなる前に、まずわれわれはメンタルモデルの存在を知っておくことが肝心だ。「相手は違う受け止め方をしているかもしれない」ということを心の片隅に置くべきだ。そして何かのズレがありそうだと感じたら、これはひょっとしてメンタルモデルが違っているのかもしれないと考えよう。
「最近、あまり提案持ってきてくれてないけど、何か問題があったの? 私のほうで何かできることはないか?」などと、決め付ける前に、相手の立場に立って考えてみたり、コーチングの手法を使って、相手に合わせて相手のストーリーに乗ってみることが肝心だ。
特効薬はないが、まずは相手のメンタルモデルを理解することから始める必要がある。そしてそのイニシアティブは、上司であるあなたの側からすることが必要なのだ。
プロフィール
とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。
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