「失敗プロジェクト」と「CIOの首」の数だけ経営者は賢くなる:Next Wave(2/2 ページ)
調査によると、米国企業のCIOの勤続年数は18〜36カ月程度しかない。CFOの平均勤続年数は5年なので比較するとかなり短い。これは多くの米国企業で、失敗プロジェクトの責任をとらされ、CIOが更迭されてきたことを暗示している。
CIOの首の数だけ経営者が学習する
Computerworld誌によれば米国企業のCIOの勤続年数は18〜36カ月程度しかない。CFOの平均勤続年数は5年なので比較するとかなり短い。管理職としては異常に短いと言っていいのではないかと思う。これは多くの米国企業で、ITプロジェクトの失敗の責任をとらされ、CIOが更迭されてきたことを暗示している。
CIOの首だけをすげ替えて何度も失敗を繰返すという苦い経験の中から、段々と企業の経営者達が学習してきている。その結果としてCIOの位置を経営層レベルまでに引き上げたり、その求人要件も専門的知識や経験の深さよりIT技術に強い経営者タイプへと変化させてきている。
米国企業のITは、たくさんの失敗経験の中から作り上げて来ているから強いのではないかと思える。以前、米国内での企業や公共機関の新システム開発プロジェクトの実態を調査したことがあったが、驚くほどたくさんの失敗をしている。
「最新のIT技術のトレンドを知りたければウォール街に行け」と言われているが、米国の証券や金融業界は、新しいIT技術を非常に積極的に取り込んでいる。
新しい技術だけに失敗も多いが、他社より少しでも先に成功すると大きな利益が得られる。情報が飯の種でありIT技術が競争力の源になっている状況を経営層がよく認識しているからできる事だと思う。
例えば野球では、守備ではめったにエラーは許されずプロなら100%近い成功率が要求されが、攻撃となれば、打席で7割も失敗しているにも関わらず、3割打者が高く評価される。もしITが単にコスト削減の目的であるなら、企業にとっては守備であり、失敗は許されない。そのかわり、効果の方もコストの一部が削減できるほど度でしかない。しかしIT投資が売り上げ増大や競争力を強化する目的で行われるものなら、これは企業にとっては言わば攻撃である。失敗のリスクを覚悟してでも挑戦すべきものとなる。
CIOの評価方法も、失敗で減点するのではなく、いかに打率を上げるか、あるいは時々でも大きなホームランを打てるかで加点する方法へと変える必要がある。
つまりCIOとは企業にとっては、単なる組織上の位置や職務内容の変化ということだけでなく、企業がITをどう活用するかという経営層の考え方と取り組み方を反映したものとなっている。
既存の企業組織の中でコストセンターを戦略的プロフィットセンターへと変えて行くのは容易なことではない。むしろ極めて難しいことである。米国企業におけるCIOの任期の短さはその困難さを証明していると思う。新しい適任者を雇えば変わるという安易なレベルではなく、ましてや従来のシステム部長の職種名称を変えればいいという短絡的なものでもない。会社全体でのITに対する考え方や取り組み方を大きく変えるレベルのもので、その実現には経営層の強い意志が必要になるものである。
「情報化社会」という用語が使われ始めて久しいが、今後は多くの分野で、新しいIT技術に対応できない企業は競争に参加することさえ難しくなりつつある。CIOが本当に重要になる時代になったと言えるのではないかと思う。
プロフィール
いくどめ・こういちろう いくどめ・こういちろう AuriQ Systems, Inc. (カリフォルニア州パサデナ) CEO 兼オーリック・システムズ株式会社 社長。リアルタイムWebアクセス解析システム「RTmetrics」の開発元。米国と日本のIT産業において25年のビジネス経験を持つ。
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