サーバ仮想化が絶好調なワケ――メリットは何か(後編):サーバ仮想化トレンド(2/2 ページ)
サーバ仮想化の目的については、現状、「ソフトウェアの開発・テスト」、「サーバ統合」などが挙げられている。しかし仮想化技術の進化によって、導入メリットは大幅に広がり導入目的も大きく変化するのではないかと考えられている。自社のIT基盤上にそのまま導入した場合のデメリットなども考慮して、前向きな導入検討の時代に入ってきたようだ。
従来のITに足りなかった機敏性や柔軟性をもたらす
入谷氏によると、仮想化には鍵となる3つの特性があるという。1つはアプリケーションの分離だ。ゲストOSも含めたアプリケーションソフトは仮想マシンごとにカプセル化(仮想化の状態を保存し、仮想環境をいつでも呼び出せるようにする機能)が可能となり、仮想サーバとアプリケーションが疎結合になり分離するようになる。
2つめは、仮想マシンがファイル感覚で扱われていくようになるという。仮想化環境のコピーや移動が自由にできることで、低コストで事業継続性テストが可能になり、情報資産のほとんどを保護されるようになるという。
そして3つめが、ライブマイグレーションの実現。ライブマイグレーションとは、実行中の仮想マシンを別のホストに、ほぼ無停止で移動させる技術のこと。先に述べた計画的ダウンタイムや、キャパシティプランニング(システムに求められる負荷に応じたリソース構成の計画と実装)、ロードバランシング(並列で運用される機器間での負荷分散)などによって、これまでITに足りなかった機敏性や柔軟性をもたらすという。
このような動きに合わせて3つの鍵となる進化を実現する、関連のフリーソフトウェアが充実すれば、低コストでさまざまな取り組みが可能となる。
グリーンITの実現に向け仮想化技術が有効な手段に
そしてこれらの特性によって、ハードウェアコストとソフトウェアライセンスの節約や省電力・省スペース化といったITコストの削減はもとより、ハードウェアからソフトウェアを分離し、プロビジョニングが簡素化されることで、アプリケーション戦略に専念する環境を作ることができるメリットが生まれる。
入谷氏は、「クラスター化によるシステムの独立性が確保されることで、ディザスタリカバリの簡素化や開発・テスト環境の改善が図られるといった、見えにくいメリットもきちんと評価すべき」とアドバイスする。
確かに、コスト削減による収益性の向上よりも、新サービスの迅速な立ち上げやシステムの拡張性、事業継続リスクの低減、セキュリティレベルの強化などの方が、仮想化技術が求められる本質といえるかもしれない。
また、最近話題となっているグリーンITへの取り組みに向け、仮想化技術が有効なブレークスルーになると期待されている。x86サーバの設置台数が急増している一方で、ムダなリソースの解消や消費電力の削減の手段としても仮想化技術が注目されている。
さらに、一時期ブームとなるも伸び悩んでいた国内のシンクライアント市場が、仮想化技術の成長によって今再び活況し始めているという。IDCジャパンの予測では、2007年度には11万台だった出荷台数が、2012年までに68万台程度まで増加し、43%の成長率を示すと見ている。それを推進しているのがデスクトップの仮想化だ。これまでのデスクトップ環境は、メンテナンスやアップグレードの管理が煩雑で、情報漏洩の発生源にもなっていたが、サーバ上でデスクトップ管理を実現するシンクライアント化によって、管理や割り当ての一元化やセキュアなデータ管理、あるいはリモートデスクトップ環境の構築などが容易に実現する。
ようやく時代のニーズにあったシンクライアントが生まれたことで、限定的導入から全社導入へと踏み出す企業が増えているという。
仮想化を活用していくシナリオをきちんと検討する
今後、仮想化技術の導入を検討する企業に対し、IDCジャパンでは次の4つの提言を行いたいと入谷氏は語る。第1に、とかく日本企業は技術や製品の成熟化を待ちたがるが、市場動向や先行事例などを見る限り、導入実績での効果や問題などから、すでに導入時期は来ているということ。第2に、導入範囲をきちんと検証するという意味において、ROI分析と事前アセスメントが大事だということ。第3は、仮想化技術の進展に照らし合わせて、先行事例などをチェックしながら、活用していくシナリオをユーザー企業自身がきちんと検討していくべきだということ。そして第4は、その活用シナリオをデザインするスキルを持った、信頼できるパートナーを選定していくべきだという。
加えて、パートナーから提供されるサーバやストレージ、ネットワークなどの仮想化対応やパフォーマンスも、しっかりと検証しておくことが大切だと忠告する。
サーバ仮想化の機は熟したということだろう。もはや導入するか否かではなく、いつ導入すべきかといった判断が問われているようだ。
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