ドットインパクトからレーザーまで――最初に使ったプリンタはどれ?:今日から使えるITトリビア
今やオフィスでも家庭にも一般化しているプリンタ。周辺機器の中で最も変化が激しかったのがこの分野だ。最近20年の間にも、主役がどんどん入れ替わっている。
オフィスに最初に普及したドットインパクト
皆さんは、自分がはじめて利用したプリンタを覚えているだろうか。オフィスへのPC導入が始まったとき、最初に普及したのはドットインパクトプリンタだった。当時は、インクリボンをワイヤーのヘッドでたたいて印字するときの「ジー……」という機械音が、多くのオフィスで聞こえていたものだ。
印刷用紙は、B4横サイズの紙がミシン目でつながっている「連続紙」。インクリボンは黒1色。印刷できるのは、文字だけ。現在でも文字コードの中に「けい線」があるのは、これに由来する。今、2ちゃんねるなどの巨大掲示板でよく見かけるアスキーアートも、モトをたどればここに行き着く。プリンタ用紙に文字だけで描かれたレオナルド・ダ・ビンチの「モナ・リザ」を目にしたことがある人も多いのでは。
1990年ごろまでオフィスの主流だったドットインパクトプリンタだが、レーザープリンタの登場によって徐々に置き換えられ、オフィスから姿を消していく。ただし、「複写伝票」の印刷が必要な業務部門では、ドットインパクトプリンタは健在だ。生産しているメーカーも多い。ほかのプリンタと同様、ドットインパクトプリンタも大きく進化しており、単票紙への印刷やカラープリントは今や当たり前になっている。ちなみに、カラーインクリボンの登場は意外に早く、1980年代半ばにはカラー印刷が可能なドットインパクトプリンタが普及している。印刷する色に合わせてインクリボンを収めたカートリッジがメカニカルに上下する様は、見ているだけでもユカイだった。
昇華型を最後に昇華した熱転写プリンタ
オフィスでドットインパクトプリンタが普及していた時代は、家庭でPCを使っているという人は、それほど多くなかった。それもそのはず。当時はPCとプリンタをセットで購入し、それにハードディスクとワープロ、表計算などの定番ソフトを加えると、自動車1台が買えるくらいの値段だった。例えば筆者が、NEC PC-98シリーズはじめての32ビット機「PC-9801RA」を、ハードディスク付きのフルセットで購入した価格は、ソフトウェア含め100万円以上だった。同時に購入したプリンタは、インクリボンのインクを熱で溶かして印刷する熱転写プリンタだった。
熱転写プリンタを購入したのには、理由があった。PC-9801RAが発売された1988年当時、カラー印刷ができるプリンタで最も身近な存在だったからだ。しかし、1990年代に入るとすぐにインクジェットプリンタが登場し、それから現在に至るまで、インクジェットプリンタは家庭用プリンタの主役となっている。
では、熱転写プリンタはどうなったかというと、その進化系である昇華型プリンタとして「フォトプリント」という特定分野で生き残っていた。とりわけ1990年代後半までは、インクジェットプリンタの技術が発展途上の段階にあったため、ドット単位で微妙な色調を表現できる昇華型プリンタは、写真品質のグラフィックス印刷も可能なプリンタとしてモテはやされた。デジタルカメラが登場し、普及しはじめた時期とも一致し、多くのメーカーが競うように、デジカメ用プリンタとして昇華型プリンタを発売した。
しかし2000年代になると、年を追うごとにインクジェットプリンタの技術革新が進み、写真品質の印刷がインクジェットプリンタでも可能になった。そして、印刷に光沢専用紙が必要でインクリボンなどのランニングコストも高い昇華型プリンタは姿を消していく。現在も細々と売られているものの、熱転写プリンタは昇華型を最後に昇華してしまった――。
いよいよカラーレーザーの普及期へ
そして現在。オフィスではレーザープリンタ、家庭ではインクジェットプリンタが主流になっている。ほかの周辺機器、OA機器との統合も進み、現在はプリンタにイメージスキャナ、コピーなどの機能を備えた複合機が中心だ。しかも低価格化が進み、特にインクジェットプリンタをベースにした家庭用の複合機は、1万円未満で売られていることも珍しくない。消耗品であるインクカートリッジのほうが、割高に感じられるほどだ。
しかし、インクジェットプリンタの時代も、この先永遠に続くわけではないだろう。最近になって顕著なのが、カラーレーザープリンタの進化と低価格化だ。カラーレーザープリンタは、市場に登場して10年以上になるが、当初は印刷品質も、ランニングコストも、製品の価格も、インクジェットプリンタと比較できるものではなかった。ところがここ数年のカラーレーザープリンタの進化はいちじるしく、普通紙に微妙な色合いの印刷を、高品質に行うことも可能になってきている。高価だった製品本体やトナーカートリッジの価格も低価格化し、導入のハードルはかなり低くなった。オフィスでの導入は進みつつあり、近い将来には、カラーレーザープリンタをベースにした低価格の家庭用複合機の登場も見込まれる。
そういえば筆者も、DPEショップにフィルムを持ち込み、写真のでき上がりを待つという機会が、まったくなくなってしまった。デジカメの写真も、自宅でプリントしてしまう。ひょっとしたらDPEショップでプリントしたほうが安上がりなのかもしれないが、それよりも現在のプリンタ製品のほうが、利便性が高いということか……。
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