ITILはオートメーション化されゆく――そう、家電のように:ITILエバンジェリストインタビュー
ISACAおよびITGIのインターナショナル バイスプレジデントを務めるロバート・ストラウド氏が来日。欧米で先行するITIL V3の導入ポイントについて話を聞いた。
英国はITIL発祥の地。その政府系機関「CCTA(Central Computer & Telecommunications Agency)」により従来のITIL V2が改定されたのは、2007年の5月のこと。ITIL V3の誕生である。およそ1年遅れの2008年春、日本語版の刊行が開始され、8月25日に全書籍の日本語化が完了した。日本企業におけるITIL V3導入はまさにこれから、という段階だ。
米国CAのITサービスマネジメント&ITガバナンス担当エバンジェリスト、ロバート・ストラウド氏がCA Expoの開催に合わせ来日。ITIL導入を検討する日本企業が重視すべき点を聞いた。
CAのエバンジェリスト、ロバート・ストラウド氏。ISACAおよびITGIのインターナショナル バイス プレジデント、COBIT運営委員会議長、itSMFのエグゼクティブ ボード メンバーなどを務め、ITIL界のキーマンといえる
ITmedia 翻訳で生じたタイムラグなどから、ITIL V3の導入については欧米が先行していると考えられる。その経験から、日本の企業ユーザーが学べることは?
ストラウド 確かに、米国では既に15カ月ほどのITIL V3活用実績があります。1ついえるのは、ITIL V3はITIL V2に対し「プロセス」が進化しているということです。具体的には、サービスカタログであったり、ナレッジマネジメントであったり、またサービスカタログです。
米国のITIL V3導入企業が重視してきたのは、これら「プロセス」をいかに実際のビジネスと連携させるか、メリットを生じさせるかということです。この取り組みが成功すれば、企業のリソースをビジネス上必要なところに集中投入できます。特に、世界的に厳しい経済状況が続く現在では、企業のコアコンピタンスにすべてのリソースを集中する必要があるのです。これは、重要でないところは後回しにしても、です。
一部日本企業にも、ITIL V3を「先走って」導入しているところが見受けられます。しかし、これは大変良い取り組みですね。実際の活用の中で、ベストプラクティスが生まれる。そして、ITIL V3へ反映していくという、良い流れが生じますから。
ITmedia 日本企業も、例えばトヨタの「カイゼン」に見られるような、独自のプロセスマネジメント方式を有する。ITIL V3は競合せず受け入れられるだろうか。
ストラウド まずトヨタが取り入れているような「カイゼン」ないしシックスシグマ的手法は、実はITILの実装結果として運用されているケースが多いのです。トヨタは、ワールドワイドでITILを導入していますし、トヨタ北米法人も「ITILv3を早く導入したい!」と望んでいます。
この機会に、ITILについて定義します。例えば「ISO」のような企画はスタンダードだと捉えられます。これは、取捨選択の余地なく準拠しなければならないものです。
対してITILは、各種コンポーネントを内包したフレームワークです。ユーザーは、そのコンポーネントのうち「使えるな、使いたいな」と判断したものを選択し、導入できます。
従って、日本企業にお勧めしたいのは「まずITIL V3の使えるコンポーネントだけ導入し、ほかはおいおい手を付ける」という考え方です。つまり「イイトコ取り」ですね。
ITmedia 参考にできる事例の紹介を。
ストラウド 社名は出せませんが、ある大手金融機関を例に挙げます。通常、ITIL V3を導入する際はサービスマネジメント分野、例えば「インシデント管理」などからインプリしていきます。しかしこの企業は、BSLA(ビジネス サービス レベル アグリーメント)やリスクマネジメントといった分野から、ITIL V3を取り入れました。顧客の満足度を高めるよりも、不満足を生じさせないよう、各サービスのトランザクション、スループット、キャパシティを設定したのです。
結果、この企業は、昨今の不況の影響を受けませんでした。ITIL V3に基づいたSLAやリスクマネジメントを通じて、テクノロジーを適切な時期と場所へ集中でき、ビジネスをしっかり展開し続けられたからです。
日本の企業には、ITILの導入に長けたユーザーが多いと考えています。中でもインシデント管理などについては、上手にマネジメントできています。しかし次のステップは、ITIl導入後のビジネス環境を成熟させることです。せっかくうまくインプリできたのですから、それをいかにビジネスメリットとリンクさせるかが重要です。例えば、サービスカタログを、サービスレベルと連携させ、最終的に顧客に対するサービスそのものに反映していく。障害が発生しても「それは本当に重大な障害なのか?」を判断し、フィックスすることが必要なのか、それとも放置しても構わないのかを判断することが求められます。
ひとつ例を挙げましょう。森の中で木が倒れたとします。倒木が道をふさいでいるのなら対処が必要ですが、そうでないなら、自然に任せても良いでしょう。つまり、そのインシデントが自社のサービスレベルにどの程度影響をおよぼすか。これを判断できるビジネス環境の構築から取り組んではいかがでしょうか。
われわれCAは、「ソリューションベンダー」だと認識しています。CAの持つ製品ポートフォリオには、ITILのプロセスをしっかりと組み込みます。すでに、個人がITILの詳細を学ななければならない必要性は減りつつあります。究極的には、家電製品が自動化機能を備え進化してきたように、ITILのプロセスもオートメーション化されることでしょう。
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