日本の技術力が生きる「グリーンニューディール」:伴大作の木漏れ日(2/2 ページ)
バラク・オバマ氏が米国第44代大統領に就任した。米国で長年虐げられてきたカラード出身者では最初の大統領だ。彼は就任演説で、幾つかの政策を明らかにしたが、その中で僕が注目しているのは「グリーンニューディール政策」だ。
環境はお金になる
長い間、ユーザー企業の取材をしていると「メセナ」も含め、社会貢献と自社のブランディングを上手に組み合わせている企業に何社か出会ってきた。
「木を植えています」
かれこれ20年前、イオンに最初に取材に伺った時に見たメッセージだ。この言葉に強い衝撃を受けた。非常に短い言葉だが、同社の経営姿勢が端的に表されている。単なるメセナではないもっと強い思いを感じた。この言葉はイオンのブランド価値を高めたに違いない。僕が知っている中で、環境に関するスローガンとして最も代表的で有効な例ではないかと思っている。
環境の改善策は、職場の電気をこまめに消しているというような話ではない。もちろんそれも大事だろうが、利益を伴わない環境活動は続かないのだ。イオンのスローガンはもう20年以上続いているが、企業の姿勢を示すと同時に、同社のショッピングセンターが郊外に立地していることも関係しているのだろう。山林を切り開いて開業するなら、当然それを担保する姿勢は必要だ。周辺に住む新たな顧客と目される人に「木を植えています」と宣言することは、自らのショッピングセンターに集客する上でまことに良い言葉だ。
確かに、環境はお金になるのは間違いない。人口増加が顕著な都市部は世界中見渡しても、綺麗な空気や水に囲まれているのはまれだ。むしろ、汚れた空気や汚染された水に取り囲まれているのが普通だ。それを改善するには、インフラの改善とそこに住んでいる人が使っている暖房器具や、利用する交通手段など全てを見直さないといけない。パリでカルト・オラージェを採用し、劇的に公共交通機関の利用が促進されたように、政策面での配慮が重要だ。これらはすべて大きな投資が行われる事を意味している。
コピー用紙の裏紙を使うように頑張ったり、電気を消して回るより、こちらの方がどれほど大きく環境負荷軽減に役立つかは言うまでもない。
オバマ氏の新産業
僕が最も注目しているのは、送電網だ。送電線の電圧に関して、一般の人はあまり関心がないだろうが、日本では50万キロボルト、米国では76万5000キロボルトだ。ただし、日本では既に100万ボルトの送電切替準備が済んでいるが、米国は全く進んでいない。
送電中の損失というのは相当の電力量にのぼり、電圧を上げることで損失の低減が可能だ。多分、米国は真っ先にこれに手をつけるに違いない。原子力発電所に注目が集まっているが、優先度はむしろこちらの方が高い。この分野で、日本はロシアと並んで100万ボルト送電で先を行っているので何らかのビジネスができる可能性が高い。
ちなみに米国の高圧送電線工事はアメリカン電力(AEP)が、ケンタッキー州のビッグ・サンデイ(Big Sandy)石炭火力(80万KW)の送電で、ベーカー(Baker)変電所から、オハイオ州マークゥイーズ(Marquis)変電所間約2000Kmで1969年5月に運転開始されたのが最後だ。
風力発電機に関し、GEは現在世界第2位なのでチャンスは少ないかもしれないが、太陽光発電では、サンヨー電気を買収するパナソニック、堺工場で大規模な半導体投資を行うシャープにもチャンスがある。こちらはアモルファス薄膜液晶では世界で追随を許さない技術力を持っていて、コスト面で競争になると最後に笑うのは日本勢ということも十分考えられる。
それ以外にも
繊維技術に関しては日本の技術は世界の最先端で、汚れた水を飲料可能な水とするための逆浸透幕も日本が先頭を走っている。さまざまな繊維、炭素繊維や、銅繊維を使用する技術も世界一だ。粉塵の除去とか、さまざまな技術が日本には蓄積されている。省エネルギー住宅しかり、プラグインハイブリッド車しかり、さまざまなビジネスチャンスが目の前に転がっていそうだ。
ブッシュ政権末期に米国発の金融恐慌が起こり、実体経済にも大きな影響を受けているが、オバマ氏が大統領になり、環境に注目が集まる中、日本は新たな産業ステージでの競争で世界に躍進するチャンスなのかもしれない。
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