大塚商会の決算にみる中小企業のIT投資の行方:Weekly Memo(2/2 ページ)
大・中・小規模の企業がほぼ均等で合計77万社に及ぶ顧客を持つ大塚商会の決算状況は、企業のIT投資の実態を示す指標ともいえる。先週、明らかになったその内容とは――。
リストラよりも生産性向上に効果的なIT
では今後の見通しを、大塚商会はどのようにみているのか。
2009年度の連結業績見通しは、売上高が4470億円(08年度比4.3%減)、営業利益が185億円(同31.7%減)、経常利益が190億円(同31.2%減)、純利益が92億6000万円(同35.6%減)。当初から減収減益で、しかも利益の落ち込みが3割以上になるとの厳しい見方をしている。
大塚社長はこの見方について、「09年度の計画は、08年度のように計画未達にならないように厳しく詰めた。景気回復は2011年頃まで望めないかもしれないが、09年度を次なる成長への起点として、地域密着型の営業体制やストックビジネスの強化に努め、生産性向上やコスト競争力強化につながる提案を行っていきたい」と語った。
ちなみに同社では、向こう3年間の連結業績計画も公表している。それによると、10年度の売上高は4550億円、営業利益は191億円。11年度の売上高は4750億円、営業利益は207億円。つまり、利益ベースはほぼ横ばいが続くものの、売上高では3年後に過去最高を目指すという意思表示である。
それもさることながら、同社にとっては年度決算発表時の恒例とはいえ、先の見えない現状下で中期の業績計画を公表してみせたことを評価したい。
中期の連結業績計画では、事業別の売上高も明らかにしている。それによると、09年度のSI事業は2383億円(08年度比10.6%減)、サービス&サポート事業は2067億1000万円(同4.0%増)。それぞれ10年度は2321億円、2212億円、11年度は2328億円、2404億円の見込みだ。
数値が示す通り、SI事業はもはや伸びず、3年後にはサービス&サポート事業がSI事業の規模を上回るとみているわけだ。これは「従来SIの領域だったものがサービスに変わっていくかもしれない」(大塚社長)ことも念頭にある。すなわちクラウドコンピューティングおよびSaaS化への動きを織り込んだ予測といえる。
大塚社長は決算説明の最後をこう結んだ。
「今年は日本全体として元気がないが、コストを削減して生産性を上げていくためには、リストラよりもITを活用することのほうが効果的だ。まだまだITでやれることがいっぱいある。ぜひITでオフィスを元気にしたい」
その「元気」のカギは、利用する側も提供する側もやはり「サービス」にあるようだ。サービスが成熟してくれば、とくに中小企業にとっては、まとまったIT投資を意識せずにIT化を進めることができるようになる。そこが最大のポイントか ―― 大塚商会の中期業績見通しをみて、あたらめてそう感じた。
プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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