「クラウドインテグレーション」への転換が求められるSIerのビジネスモデル:ERP市場で存在感を見せるクラウド
ERPソリューション市場でクラウドコンピューティングの存在感が増している。2012年までは年平均約34%の成長を見せ、システムインテグレーターのビジネスモデルを変える可能性もある。
ERPソリューション市場におけるクラウドコンピューティングの市場規模が年平均約34%で成長し、存在感を増しつつあることが、矢野経済研究所の調査で明らかになった。クラウドコンピューティングの浸透が情報システムの構築業務を手掛けるシステムインテグレーションの市場を圧迫しており、システムインテグレーターは従来の業務モデルから転換を図る必要があるという。
矢野経済研究所によると、ERPソリューション市場全体におけるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)およびクラウドコンピューティングの市場規模は2008年に213億円に上り、全体の3.6%を占めた。ソフトウェアやアプリケーション、ハードウェアの機能をインターネット経由で使い情報システムを構築する考えが企業に浸透し始めたことで、ERPベンダーもパッケージソフトウェアをSaaS形式で提供するようになった。
こうした背景から、2012年にはSaaS・クラウドコンピューティング市場は、ERPソリューション全体の約11%を占め、市場規模は691億円に達する。2008年から2012年の年平均成長率は約34%になり、2016年には全体の約28%を占める1770億円の市場規模に膨れ上がる見通しだ。
SaaSやクラウドコンピューティングの台頭に伴い、情報システムの一部を継続して利用しながら、一部をSaaSに置き換えるなど、業務に合わせて運用を切り分けるユーザー企業が増えると矢野経済研究所は指摘。それに伴い、情報システムの構築業務を手掛けてきたシステムインテグレーターは、ハードウェアの販売やソフトウェアのカスタマイズなどによる利益を減らすとみられる。
矢野経済研究所は、既存の情報システムとクラウドコンピューティングで構築したシステムのデータを連携する「クラウドインテグレーション」の割合が、従来のシステムインテグレーション事業に比べて高まると予測する。システムインテグレーターは、SaaSやBPO(業務プロセスアウトソーシング)などのサービスから、ユーザー企業が求めるメニューを選び、セットで提供する役割を担うことが求められるという。
同調査はシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーを対象に、2008年11月から2009年2月まで実施した。
※同調査では、ソフトウェアの機能をネットワーク経由でサービスとして提供する形態をSaaS、アプリケーションの開発基盤やIT基盤、サーバやストレージのリソースなどをネットワークを通じて提供する形態をクラウドコンピューティングと定義している。
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