超高層建築物は現代版「バベルの塔」となるか:日曜日の歴史探検
摩天楼――現代に生きるわたしたちはこうした言葉からどの程度の高さをイメージするでしょうか。東京タワーの3倍以上の高さを目指して開発計画が進められている超高層建築物は現代版バベルの塔なのでしょうか。
この連載で幾度となく取り上げてきていますが、人類は常に挑戦を続け、進化する生き物です。さまざまな技術革新とともに、ある者は深海へ、ある者は大空へと挑み続けてきました。今回は、乗り物ではなく建造物で空を目指す者たちによって造られる超高層建築物について見てみましょう。
あなたのイメージする超高層建築物の高さは?
旧約聖書の「創世記」中に登場する巨大な塔「バベルの塔」。伝説上の話ですが、天まで届く塔の建造を目指す心は現代人にも受け継がれているようです。パリのエッフェル塔(324メートル)や東京タワー(333メートル)――30代以上の世代ではこの2つの高層建築物のイメージが精神的なものさしとなっているのではないかと思いますが、実際のところ、これらを上回る現代版バベルの塔、超高層建築物とはどのくらいの高さにまで達しているのでしょうか。
通信などに用いるタワー型ではなく、ビルという観点で世界の超高層建築物を考えると、計画中や建設中のものを含めなければ、2009年2月現在、台湾にある台北101が世界で最も高い建築物です。地上101階まで用意されたこのビルの高さは実に509メートル。六本木ヒルズ森タワー(238メートル)の2倍以上高いのですから、そこからの眺めを想像するだけで恐ろしくなります。
ただ、人が立ち入ることができる展望施設の高さという視点で見ると、台北101は首位の座を上海にある上海環球金融中心へと明け渡します。上海環球金融中心の高さは492メートルと現時点で台北101に次ぐ高さですが、台北101の展望施設が地上382メートルであるのに対し、上海環球金融中心では地上472メートルの位置に設置しています。
上海環球金融中心の四角い空洞部分は風の影響を逃がすための構造ですが、構造工学などの観点からこうした超高層建築物を見ると、そこにはさまざまな技術が用いられています。地震や強風などに対応する十分な強度を確保しつつ、局部的に過大な応力を生じさせない柔構造や免震構造など、実に興味深い技術が積み重なって超高層建築物は高さを増してきたのです。また、2001年9月11日のいわゆる米国同時多発テロ事件以降、倒壊を防ぐための構造や安全な避難経路の冗長化をはじめ、超高層建築物の設計は大きく進化していくことになります。1970年代に組積造から鉄骨構造への進化がはじまったことで高層建築物の建造が可能となり、そこからも進化を続けているのです。
さらに、超高層建築物の建設には上ばかり見ているわけにはいきません。基盤となる足元こそ重要です。巨大な建築物を建設するには、その重量を広い面積で支える必要があるため、堅い地盤まで掘り下げ基礎部分を設ける「べた基礎」と呼ばれる工事が必要です。すぐに花こう岩のような堅い岩盤が出てくるニューヨークのような地域ならともかく、地盤が柔らかい地域ではおうおうにしてべた基礎を造るだけでも大仕事です。後述するブルジュ・ドバイでは、直径1.5メートル、長さ50メートルのコンクリート杭が192本も堅い地層に届くよう打ち込まれています。わたしたちの生活でよく目にする電柱の直径が約40センチであることを考えれば、電柱4本を束ねたような太さのコンクリート杭が用いられていることになります。これだけでもスケールの大きな話ですね。
話を高さに戻すと、台北101以上を超える高さを持つ世界で最も高いビルがドバイに今年完成する予定です。「ブルジュ・ドバイ」と呼ばれるこのビルは、建造の過程で超高層建築物の歴史を次々と塗り替えてきました。自立式の建造物としては世界一高かったカナダのCNタワー(553メートル)の記録を2007年9月に塗り替えると、2008年3月には現存する最も高いアンテナ塔である米国のKVLY-TV塔(628メートル、支線式)を上回ります。その後も記録を伸ばし、かつてポーランドのワルシャワにあった高さ646メートルのワルシャワラジオ塔(1991年に倒壊)すらも追い抜き、完成すれば818メートルという人類史上最も高い建造物となる予定です。
アラブ首長国連邦(UAE)では、ブルジュ・ドバイのほか、高さ1000メートルを超えるような超高層建築物や巨大な人工島リゾートの建設など、非常に派手な大規模開発を推し進めてきましたが、国際的な金融危機がこうした大規模開発にも深刻な影響を与えつつあります。
1000分の1の確率でロールスロイスやBMW、ジャガーなどのラグジュアリーカーが当たるラグジュアリーカー宝くじなどでも知られる観光王国ドバイ。Nakheel、Emaarといった政府が強力に支援する不動産開発企業がこうした大規模開発を請け負ってきました。しかし、総事業費で最低でも数十億ドル、落成には10年以上掛かるこうした不動産市場から今後資金が流出していくことは想像に難くありませんし、実際にそうした動きが進んでいます。それはつまり、超高層建築物建設の中断・中止も視野に入ってくるということです。前述の上海環球金融中心も完成までに計画が2度とん挫しており、べた基礎だけが完成した状態で長い間放置されていた時期もあったほどです。
バベルの塔が結局は完成しなかったように、現代のバベルの塔も崩壊してしまうのでしょうか。人類は歴史から何も学ばない――以前にも取り上げたこの言葉が真実なのか、それとも何か真実を学ぶのか、超高層建築物の開発にはロマンもありますが、厳しい現実が突きつけられる時期にさしかかりそうです。
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