「全部任せちゃえばいいじゃないか」が間違いのもと:闘うマネジャー(2/2 ページ)
丸投げして使えないサービスを作るぐらいなら、発注者責任を意識し、具体的な要求定義ができる仕事の仕方を考え出そう。
義務のない相手に何を求めるのか
話を元に戻そう。なぜ8社に相見積りを求める事態が発生したのだろう。担当職員としては、多くの企業を呼ぶのは面倒と考えるのが自然なので2社ないし3社で済ませようとしたはずだ。どうも、所属長が「もっと見積りをしてもらう企業を増やさないと認めない」としたようだ。
では、なぜか。監査もしくはオンブズマンから随意契約の指摘を受けたとき、「制度上、相見積りとしましたが、競争入札と同じくらいの数の企業に見積もってもらうことで透明性を確保しました」と言いたいからだ。
見積りをしてもらう企業を選んでいるわけだから、少し透明性に欠けるのは事実だが、だからといってこのようなやり方は好きになれない。責任回避のためなら企業に無駄な人件費を使わせても構わないと思っている節があるし、手頃な案件だからといい加減な企業が最も安い見積額を提示した場合の対処も考えていないからだ。それに、競争入札は同品質のものを安く手に入れるための手法であって、透明性確保のための手法ではない。第一、競争入札は全能ではない。
行政では本来なら別々に発注できるものを、故意にまとめてサイズを大きくし、入札するという事例が散見される。個別に発注を行うと事務が増えて面倒だし、その度に責任が発生するだけでなく全体の責任まで負わされる危険がある。それならいっそ、まとめてしまえば責任を受注側に移せると考えたわけだ。
それに、サイズが大きくなれば納期が長くなり、結果として受注から入金までの期間が長くなるので、資金に余裕のある大手しか入札に参加できなくなる。大手ばかりとなれば技術力が高いので、失敗のリスクも低いから安全だろうというわけだ。
しかし、現実は目論見通りにはなっていない。技術力が高ければ、少数かつ短期で開発できるので入札額が低いということはほとんどなく、むしろ、未熟な者が安い賃金で仕事をするときに入札額が低いというのが現実だ。この現実を、そろそろ認識してもいいのではないか。そして、発注者責任について真剣に向き合うべきだ。
例えば、冒頭に示した70万〜80万円程度のホームページ作成案件なら、次のような形にしてみてはどうだろう。
(1)メインのページおよび主要なページで出力すべき事項および配置を職員がラフデザインする。
(2)Webデザイナーに頼んで、具体的に各ページをデザインする。
(3)課内でデザイン結果をレビューし、必要ならデザインを修正する。
(4)デザインを提示した上で、システムベンダーにホームページ作成を依頼する。
ところでこのようなことを書くと、「70万〜80万円程度の案件なら、そんな面倒なことなどせず、全部任せちゃえばいいじゃないか」って声が聞こえてきそうだ。しかし、そこが間違っていることにいい加減に気付いて欲しい。
住民に対して見やすくかつ便利な情報を提供する義務は、行政側が負うべものであり、仕事を任される企業に義務などない。大金を支払うわけでもないのに、義務のない相手に対して見やすくかつ便利な画面を考えろとは、ちょっと無茶ではないか。(1)〜(3)の課程を経るだけで極めて具体的な要求定義ができるのだから、発注者責任としてやってはどうだ。従来のやり方に比べ担当職員の負担は大差ないし、レビューをしてもらっているので、出来上がった後で「使いものにならない」と指摘されることもない。何より、たったこれだけのことで「丸投げ」といわれることもなくなるし、「税金の無駄遣い」といわれることもなくなる。ずっとましだと思いませんか。
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