ブログは思いを実践する手段〜中村昭典さんインタビュー:オルタナティブな生き方(2/2 ページ)
メディアにあふれる数値から世の中を読み解くブログ「中村昭典の、気ままな数値解析」を執筆する中村さんに、これまでの人生とブログに対する思いを語ってもらった。
説得力があるのは「実践」のみ
配属は名古屋支社。以来15年ずっと名古屋でした。リクルートでも異例なんですけど、異動がなかったんです。リクルート時代の半分はトヨタに日産、いや日参してました。7年位担当したんですけど、章一郎氏を筆頭にトヨタだけでも200〜300人と名刺交換しましたね。
リクルートという会社は現場主義。手厚く社員教育をするというよりは、すぐに現場に放り込む。そこで自分であがいて這い上がってこれるヤツだけが面白い仕事をする、そういう会社です。お付き合いをしている会社からみれば迷惑な話でしょうけど、おかげで現場度胸がつきました。どうやったらこのお客さんから情報を引き出せるか、喜んでもらえる提案ができるか、お前がいないとダメだと言ってもらえるか。全部カラダで覚えました。
リクルートは若くて新陳代謝も激しい会社ですから、15年もやっていると超ベテランです。マネジメントの占める割合が多くなり、現場からも自分のやりたいことからも少し距離が出てきたところで、たまたま祖母が亡くなった。続いて両親が、連係プレーでもしてるんじゃないかと思うぐらいタイミングよく交互に倒れて、7回連続、8カ月ぐらい入院生活が続いたんです。
そういうことがあると家の空気が変わるんですよね。そんなこともきっかけになっていい時期なのかなと思い、リクルートを辞めることにしました。生涯、人にものを伝えていく仕事をするとだけ決めて、あとは何とかなるという根拠のない自信だけ。次も決めずに辞めたんです。思いっきり転職のセオリーからズレてますが。当時制度化されたばかりのフレックス定年制度が利用できることになりまして、無事に円満定年退職。さらにありとあらゆる有給制度を駆使してもらって半年位、生活の糧をもらいながら遊んで暮らし……、いえ職探ししてました(笑)。
次の仕事も、業界を決めてたわけではないんです。そしたら隣のセクションの上司が大学で仕事をしないか? と言ってくれたんです。大学は少子化で大変なことになっている。お前みたいな人材が必要とされている、考えてみないかと紹介してもらった大学のひとつが今勤めている中部大学です。
ひとりを動かせないものに、マスは動かせない
今の仕事に就いてからですね、自分の経験を人に伝えていくことに意味を感じ始めたのは。リクルート時代は、それこそ本を書こうなんて思ってもいなかったんですよ。ただ純粋に学問を研究してこられた大学の先生方と違って、自分は現場で鍛えられ社会で必要とされるものを身体で覚えてきた。そんな自分だからこそ伝えられる、教えられるものもあるんじゃないかって。
そこで書いたのが、『伝える達人』という本です。リクルートで実践してきたことを棚卸しして、すべて実話・経験に基づいてまとめました。書店に並んでるプレゼンのノウハウ本は、ほとんどがテクニックを書いたものばかり。でもそれだけじゃ思いは伝わらないってこと、私は身をもって学んだんですよね。この本では、テクニックに頼らない、汗かいて恥かいて身につく、相手の気持ちに届くコミュニケーションの方法を書いたつもりです。ただ、タイトルだけはちょっと勘弁。恥ずかしくて仕方ない。正直、出版社の意向に負けました(笑)。
ブログもまったく同じ。自分の意見を持てない、ありふれた意見しか書けないものは取り上げません。ひとりでいいからその人の気持ちを強く動かせるものを書こうと。これはリクルート時代から大事にしていたことなんですけど、ひとりを動かせない広告がマスを動かせるわけがない。ターゲットをある程度しぼって相手の顔を思い浮かべて作る。その人が読んでくれたら絶対損はさせない、ブログもそんな気持ちで書いてます。仕事もブログも万人受けには弱いですね(笑)。
それにしてもブログは深い。何とかなるって思ってたんですよ。好奇心は強い方だし、文章を書くのも苦手じゃない。でも、考えるのと実際にやるのとは大違いだった。自分が見たこと、知ったこと、思いついたことを、実際に文に仕上げるまでには、背景にあるものを検証したり、事実の周辺情報を探って裏付けを取ったりと、それなりに手間が掛かります。でもその中で、自分が思い付かなかった事実を発見することが実に多い。このプロセスこそが、ボクには1番の収穫なんです。要は、考えているのと実際にやってみるのとの間には、100倍くらいの違いがある。やらないと分からないことが世の中には本当にたくさんある。やった人しか得られないもんがたくさんあるってことです。だから、みなさんもブログ書きましょう(笑)。
本もブログも、私にとっては、思いを実践することに他ならないんですよね、たぶん。
中村昭典氏 プロフィール
元リクルート・とらばーゆ東海版編集長。現在は中部大学エクステンションセンターで社会貢献事業を推進。
個人の研究領域はメディア、コミュニケーションおよびキャリアデザイン。
所属学会は情報コミュニケーション学会、日本ビジネス実務学会ほか。
著書に『伝える達人(明日香出版社刊)』。
4月10日に、新刊『雇用崩壊(アスキー新書刊)』が枝野幸男氏(民主党衆議院議員)・城繁幸氏(人事コンサルタント)・八代尚宏氏(国際基督教大教授)ほか、との共著で発刊される予定。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『中村昭典の、気ままな数値解析』は、メディアにあふれるありとあらゆる「数値」から独自の視点で世の中を読み解くスタイルが人気。
オルタナティブ・ブロガーインタビュー『オルタナティブな生き方』バックナンバー
関連記事
- 究極のわがままは我欲を捨てること〜佐川明美さんインタビュー
ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」で「シアトルより愛をこめて」を執筆する佐川明美さんに、今、働くこと、ブログを書くこととは何か、話をうかがった。 - 学歴無し、社員経験無しからの出発
ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」で「平凡でもフルーツでもなく、、、」を執筆する佐々木康彦さんに、有名アーティストのバックバンドを経てホームページ制作会社を立ち上げた半生や、ブログを書くことの意味などを伺った。 - まず意見を言うこと、どう書くべきかはそれから
実名でブログを書く意味、ブログコミュニティ、そして気になる会社の反応は――ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」のブロガーが赤裸々に語り合った。 - もっとディスカッションを!――ブログへの期待
ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」の執筆陣による座談会。後編では、ブログとコミュニケーション、ブログの未来などについて語ってもらった。 - 多様化するブログ活用法
日本にブログサービスが登場して5年。情報発信の場として定着し、さらに多様化を進めるブログについて、その軌跡と今後の展望を3回に渡って考察しよう。 - 企業とブログのおいしい関係
ブログの5年間を振り返り今後を占う本シリーズ、前回は日本におけるブログの歴史を概観し、個人ブログの2つの使われ方について言及した。今回はその舞台をエンタープライズに移し、企業とブログの関係を見ていきたい。 - ブログという名の“わらしべ”
ブログの5年間を振り返り今後を占う本シリーズ、最終回は、ツールとしてのブログの可能性と、ブログ活用の可能性について論じてみよう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.