CEOの意志決定はなぜ失敗するのか――SAPがBI新製品で解決策:SAPPHIRE 09 Orlando Report
SAPは年次カンファレンス「Sapphire 09」を米フロリダ州オーランドで開催している。CEOなどシステムに詳しくないユーザーでもBIをテキストのコピー&ペーストなど単純な作業で活用できるようにする新製品「SAP BusinessObjects Explorer」を発表した。
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SAPは年次カンファレンス「Sapphire 09」を米フロリダ州オーランドで開催している。初日となった5月12日の基調講演にはレオ・アポテカーCEOが登場し、ビジネスインテリジェンス(BI)の新製品を発表。企業が持つデータを分析し、すばやくビジネスの意思決定に生かし、経営者などが正確な意思決定をすることの重要性を強調した。
「せっかくデータベースで情報を抱えていても、それがビジネスで生かされていないのが問題だ」
SAPのマージ・ブレヤ氏はこう指摘する。欧米のビジネスエグゼクティブやマネジャーの67%が「まずい意志決定の原因は情報の不十分さにある」と認識している。同じ調査で「意志決定の半分以上は直感的に下している」という回答が実に60%に上った。(調査はいずれも2007年にBusinessWeek Research Servicesが欧米675人のエグゼクティブとマネジャーを対象に実施したもの)
アポテカー氏は、現在の大不況を引き起こしたサブプライムローン問題などの金融機関の失敗も、こうした意志決定プロセスの脆弱性にあると指摘する。
「さまざまなデータを抱えるレガシーシステムと、金融の現場の担当者が利用するフロントシステムが統合されておらず、リスクを管理しきれなかった」(同氏)
サブプライムローンのように、リスクの異なる金融商品を混ぜ合わせるなどの証券化プロセスが複雑さをさらに強めたとする。一方で、アポテカー氏は、比較的痛手の少なかったといわれるGoldman Sachsについて「常にマクロリスクをとらえ、ビジネスの状況を全体として把握し、予測していた」と評価。戦略的な意思決定をしていたという。
「これは例えば出産のプロセスを理解する必要があるのと同じだ。知らないことがあれば、乳児や母体にリスクをもたらす」(アポテカー氏)
ERPで正しい情報を蓄積した上で、現場のユーザーが本当の意味でそのデータを活用することが求められている。そんな中で、Sapphire 09の最大の発表となったのが、BIの新製品「SAP BusinessObjects Explorer」だ。
SAP BusinessObjects Explorerは、経営者など普段システムを使いこなしていないユーザーでも、自社のブランド別の収益性、顧客の購買パターンといった自分が必要とする情報を、iPhoneなどのユーザーインタフェースを活用しながら瞬時に取得できるようにする機能だ。分析基盤である「NetWeaver Business Warehouse Accelerator(NetWeaver BW Accelerator)」とBusinessObjects XI向けの検索モジュール「BusinessObjects PoleStar」を組み合わせた製品だ。
NetWeaver BW Acceleratorは、ハードウェアとソフトウェアを一体で提供するアプライアンス製品としての提供を基本としている。既に、HPなどがNetWeaver BW Acceleratorをプリインストールしたサーバ製品を提供している。ディスクではなくメモリ上でデータを高速処理するインメモリ型のアーキテクチャであるため、参照するデータの領域別中間データを作成することなく、短時間で全データを参照し、結果を出力できる。全データを見に行くため、情報システム担当者に中間データの作成などを依頼する必要がなくなるなど検索の仕組みが単純化することで、ビジネスユーザーが直接必要なデータを取得しにいける。
デモにはアポテカーCEOも自ら参加した。システムに詳しくない経営者でも、必要なテキスト文をコピー&ペーストする要領で、データベース全体を参照し、自社の状況について傾向などをグラフ付きで閲覧できた。
BusinessObjects ExplorerとNetWeaver BW Acceleratorを組み合わせることで「CEOは社員に“あのレポートを出せ、これもだ”などといわなくても、自分で簡単にデータを取得できる。結果としてこれまでの意思決定のやり方そのものを変える可能性がある」(同氏)。
BIで正確な分析をするためには、データベースに蓄積するデータ自体をきれいにしておく必要がある。同じ事柄について複数の呼び方があるなど、データに問題があっては分析結果自体が疑わしいものになるからだ。そのため、SAPはマスターデータを統合的に管理するMDM(マスターデータ管理)などのソフトウェア製品の利用も、今後ユーザーに促していく考えだ。
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