「電子自治体化」プロジェクトが通らなければならない関所:闘うマネジャー(2/2 ページ)
自治体の予算策定でも、当然、費用対効果を明確に示すことが求められる。しかし「ちょっとどうなの?」と言いたくなることも…。
予算が付いた段階で異動?
筆者の在籍している長崎県の事例ではないが、困った事態も起きている。課長としてやらなければいけない仕事だからと予算化に真剣に取り組むが、予算が付いた段階で異動するという事態が散見される。本人は人事的に評価されることになるのでいいのだろうが、残された部下は費用対効果の実行責任を押しつけられるのだから、たまったものではない。こんなことだから、やる気が失せ、ベンダーに丸投げしたあげく異動する一般職員が増えるのだ。
消極策の積極的推進という事態も起きている。全体最適化は、コスト低減に必要な手段であり、そのためには開発業務の集中化と専門化が欠かせない。しかし、そのようなことをすると責任が増える。そこで、費用対効果の説明がつかないのを理由にやらないことにしてしまうのだ。もっともこれは、あと数年で定年を迎える課長に多い事例なので、個別事情として整理すべきことなのかもしれない。
行政の嫌な面ばかり書いてきたが、一方で積極的な思考をする情報政策課職員を持つ自治体も多い。このようなところは、費用対効果の説明が難しいのなら、費用そのものを落とすことで説明の敷居を下げようと努力する。具体的にはオープンソースの活用と地場企業の活用である。オープンソースは初期構築費の低減策として、地場企業は運用費用の低減策として活用する。ながさきITモデルのHPを参考に長崎県を訪れる自治体も増えた。
オープンソースの活用はいいことなのだが、難しい面もある。財政課との予算折衝に、他自治体の高額構築事例を出し、その数分の1で済むとして査定を通過させたとしよう。5年が経過しシステムの入れ替えを行う際、財政課はどのくらいの予算ならOKを出すだろうか。増額を求めた場合、根拠の説明が難しいので頑張ってもわずかの増額査定で終わるのではないだろうか。
財政課職員はシステム構築の難しさを知らないことを恥としない。財政の健全化のみに心血を注ぐ。増額査定など、もってのほかなのだ。
長崎県が提供しているシステムでも同様のことが心配され、自治体内で「後で困ることになるのではないか?」との議論が百出するらしい。そこで、長崎県では次のようにしている。
(1)ソースだけでなく、DBフォーマットを含め詳細な設計書も自治体に提供する。
(2)地元ベンダーによるハード構築と保守体制とし、地域のシステムを地域が守るようにお願いする。
今回は、財政課との関係について書いてきたが、筆者が見る限り、自治体の財政課制度は、「事業の難しさを知らないことを恥としない」状況にあるので、破綻していると思われる。今後は長期的事業と短期的事業とに分け、短期的事業は各事業部で金と人と責任を持って進めるべきで、財政課には長期的事業と自治体全体の財政健全化に集中させるべきと考える。
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