信頼されるアドバイザーへの道〜『選ばれるプロフェッショナル』:マネジャーに贈るこの一冊(1/2 ページ)
部下というクライアントに選ばれるために、マネジャーはどうあるべきか――プロフェッショナルのあるべき姿を書いた書籍を題材に、マネジャーが持ちたい視点や心のありさまを読み解いていこう。
はじめまして。堀内 浩二と申します。この連載「マネジャーに贈るこの一冊」では、新旧を問わず名著(主にビジネス書)を紹介しながら、読者の皆さんと一緒に「仕事と生活のこれから」を考えていきたいと思います。今回は、『選ばれるプロフェッショナル ― クライアントが本当に求めていること』(英治出版、ジャグディシュ・N・シース、アンドリュー・ソーベル著、羽物俊樹翻訳)を題材に、信頼とは何かを考えていきましょう。
あなたの「クライアント」は誰か
本書は、クライアントを相手にするプロフェッショナルのために書かれたものだ。
「クライアント」と「顧客」との違いは何か。著者は、顧客との関係が商品を通じた取引関係であるのに対し、クライアントとの間には「高い信頼感をベースにした緊密な関係がある」として区別しています。
「クライアントを相手にするプロフェッショナル」というと、典型的にはコンサルタントや士業の人々をイメージします。しかし、前述のような定義に立つならば、ほとんど誰もが自分の「クライアント」を想定できるのではないでしょうか。本書では、セールスであれバックオフィス業務であれ、特定の人間と信頼のきずなを築いていく必要のあるプロフェッショナルをすべて想定読者としています。
クライアントを相手にするプロフェッショナルとして、何を目指すべきか。本書のメッセージは明快です。「雇われエキスパートから、信頼されるアドバイザーへ」。この言葉に尽きています(原著の副題は"Evolving from an Expert for Hire to an Extraordinary Advisor")。
プロフェッショナルは、信頼されるアドバイザーを目指すべきである。「はじめに」で語られるこの定義には、ハッとさせられるものがありました。であれば、上司と部下、親と子どもも、互いに「クライアント」たり得るのではないか、と感じたのです。
部下は「上司から信頼されるアドバイザー」を目指すことで、上司に言われたまま行動するだけでない自律性を身に付けていけるでしょう。実際すぐれたアドバイザーは、しばしばクライアントに苦言を呈したり、たとえ彼らの意向に反していようとも最善と信じるアドバイスをすることで、長期的な信頼を高めています。
いっぽう、上司が部下を(親が子どもを)クライアントと見なすという発想は、どうでしょう。おかしく思えるかもしれませんが、「高い信頼感をベースにした緊密な関係」を築く必要がある点は同じです。かつて「サーバント・リーダーシップ」という概念が、従来のリーダーシップ観を逆転させ、奉仕者としてのリーダーシップがあることを示しました。同じように、「部下というクライアントに選ばれるために、マネジャーはどうあるべきか」という観点で、マネジャーの心得が考えられてもいいはずです。
本書は、そのような読み方に耐える、深い含蓄のある本でした。それが、このコラムで広くご紹介したいと思った理由です。
すぐれたアドバイザーが持つ7つの特質
本書では、すぐれたアドバイザーが持つ特質を7つに絞り込んで定義し、それぞれ1章を割いて解説しています。目次から引用しましょう。
1. 無私と自立 − 献身的でありながら中立性を保つ
2. 共感力 − 隠れたサインに気づく
3. ディープ・ジェネラリスト − 広く、深い知識を身につける
4. 統合力 − 大局的に思考する
5. 判断力 − 健全な意思決定を行う
6. 信念 − 自分の価値観を知り、強く信じる
7. 誠実さ − ゆるぎない信頼を築く
本書の魅力は、考え抜かれた定義にあります。例えば7の「誠実さ」に関する章で、著者は信頼を構成する要素をたった3つに特定しており、「誠実さ」をその1つに含めています。
信頼 = (誠実 × 能力)/リスク
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
このようなシンプルな定義は、読み手からの問い掛けを誘発し、考えを深めてくれます。なぜこの3つなのか、著者はなぜ「誠実さ」をかくも重要視しているのか、どんな証拠や経験に基づいているのか、といった読み方を促してくれます。著者もまたそれに、それこそ「誠実さ」をもって応えます。つまり、自らの定義の根拠を述べてくれています。
では、「誠実さ」とは何から構成されるのか……? フレームワーク思考の練習にもなりますので、先を読む前に、少し考えてみてください。あなたなら、誠実さの要素をどう定義しますか?
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