FileMakerで作る業務システム、成功の秘訣はSIerとの「二人三脚」:導入事例(2/2 ページ)
企業がシステム開発を外部に委託する際、しばしば問題となるのがベンダーとのコミュニケーションだ。しかし、業務とシステムの両方に詳しい人物がかかわっていれば、この問題も難しくなくなる。社員がFileMakerを通じて“通訳”し、ベンダーに伝えた結果、使い勝手の良いシステムを作り上げることのできた例を紹介しよう。
省力化を進めた新システムの開発に着手
2009年、この業務システムを一新する計画がスタートした。
「10年以上使ってきましたが、新たな印刷機や製本機などへの対応が随時行われ、システムはツギハギ。DTPに欠かせないMacも、OSなどのアーキテクチャが変わったし、短納期化の流れもさらに進んできました」と、小笠原氏はシステム更新に着手した理由を説明している。
新たな業務システムの基盤には、再びFileMakerが選ばれた。同社に適したパッケージシステムが存在しなかったためだという。ポストプレス、つまり印刷業務に限ったシステムなら完璧なパッケージが存在しているものの、同社が手掛けているプリプレス工程を思うように管理できるパッケージがなかったのだ。
結局、自社専用のシステムを作る以外にないと判断したのである。“通訳”する社員のスキルや、MacとWindowsが混在する社内のPC環境を考えると、そのプラットフォームはFileMaker以外になかった。
今回の業務システムの開発に“通訳”として携わったのは2人の若手社員、営業部の高屋達男氏と制作部の島田陽平氏。
高屋氏は、「いろいろと検討していくうちに、かなり早期に選択肢が絞られてきましたね」と語っている。
「FileMakerで開発することが決まったので、当社の業務をよく知っているバルーンヘルプに、今回も開発を依頼することになりました」(高屋氏)
同じくFileMakerで、同じベンダーに開発を依頼するといっても、10年以上の時代の変化は大きなものだ。FileMakerのバージョンも、全く違う。小笠原氏の指示も、「将来性を考えて、OSもFileMakerも、内部のDBも完全に作り直す」というものだった。もちろん、新たな機能も数多く盛り込む方針となっていた。短納期化の流れに合わせ、業務のさらなる効率化を目指したのである。
ダイワ光芸では、受注するたびに固有のジョブ番号を割り振っている。新システムは、このジョブ番号を鍵として、見積もりから制作、印刷、販売管理まで、業務を管理する構成だ。
今回、数多くの機能が盛り込まれているが、その中でも制作の日報機能や、それを元にした販売価格の決定機能は大きなポイントとなっている。制作の工程ごとに、着手した時点と完了した時点で、それぞれDB画面上のボタンを押すだけで作業時間を管理するようにしたのである。この作業時間や、印刷の版数、印刷部数などのデータから、ジョブに要したコストをリアルタイムで把握できるようになっており、複雑で面倒な計算をすることなく迅速に価格を提示できる、という仕組みだ。
「例えば制作部では、ジョブ番号や担当者、年月日などから過去の業務データを容易に検索できるようにしました。リピートの多い業務なので、データが蓄積されていけば、かなりのメリットを実感できるはずです。さらに、管理の効率化も目指しました。各クライアントはターミナルサービスを使ってサーバ上のDBを利用するようにしたのです」(島田氏)
“通訳”はコスト意識を社内に広める役割も
ダイワ光芸とバルーンヘルプの最初のミーティングが行われたのは2009年3月。運用開始は11月。実際の開発作業はわずか半年ほどと、かなり短期間のスケジュールだった。
バルーンヘルプで、ダイワ光芸のシステム開発を主に担当したのはシステム開発部の松広忠氏。短期間で開発できた理由を、次のように説明している。
「ダイワ光芸さんは、FileMakerでできること、できないことをよく理解していました。そのため、われわれとのコミュニケーションもスムーズに進み、開発に集中できたのです」
まさに“通訳”の存在が役立ったということのようだ。しかも、単にFileMakerを知っているというだけでなく、“通訳”の2人は業務要件をきちんと整理して伝えていた。
「例えば、“利益”という用語1つにしても、同じ企業の中でも立場によって意味するところは微妙に異なっています。ところが、ダイワ光芸さんは、そういったところのブレがなく、開発する側としてはやりやすかったですね」と、バルーンヘルプ 開発サポート部 主任の弥吉美保氏は振り返る。
一方小笠原氏は、今回の投資について、業務効率改善によるコスト削減の2年分で回収するという目標を設定していたという。
「システム更新の必要に迫られていたため、システムの完成度は70点でいい、と考えていたのですが、実際にできあがってみると、よくやってくれたものだと思います。当初から90点、その後に加えた修正で96から97点くらいだろうと評価しています。もしこれだけのシステムを、パッケージにカスタムして作っていったら、2500万か3000万か、という金額になったことでしょう。しかも、それでも使いづらさが残ったのではないでしょうか」(小笠原氏)
この小笠原氏のコスト意識が、今回のシステム開発を通じて“通訳”を務めた2人にも受け継がれた。システムとは直接関係ない部分だが、彼らの成長を小笠原氏は高く評価している。
「新システムの中心となった2人には、仕事の上でもきちんと利益を積み上げていこうという感覚ができてきました。システムも、制作が汗水垂らして働いた結果を、営業が見積もりに盛り込んでやろうという気になるような、そんな内容になっています。そして彼らは、営業部と制作部のそれぞれの現場で、適正価格販売やコストカットの重要性を、ほかの社員たちに伝えてくれています」(小笠原氏)
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