【第3回】PaaSはシステム間の連携基盤として活用:中堅・中小企業のSaaS/クラウド活用(3/3 ページ)
企業にはさまざまなシステム形態が存在する。状況に応じてクラウドサービスを組み合わせることがシステム改革の成功の近道といえるだろう。
互いに距離を縮めつつあるIaaSとPaaS
SaaSだけではカバーできない独自要件をカバーするという意味では、SaaS活用におけるIaaSとPaaSは同じような役割を果たす。だが、その際のアプローチはまったく異なる。IaaSが既存の独自開発システムを極力変更せずにクラウドのメリットを享受する際に有効なのに対し、PaaSはSaaSと連携する独自開発システムを迅速に構築するという点で威力を発揮する。自社の現状や条件を踏まえて、どちらのアプローチを採用すべきかを見極めることが重要だ。
しかし、クラウドにそのまま移設したい既存システムと、新規に開発したいシステムの両方が存在するケースもあるだろう。まずは既存システムをそのまま移設し、近いうちにシステムを新規で構築するというシナリオも十分あり得る。そうなると、PaaSのみ、またはIaaSのみということではユーザー企業の選択の幅が限られてしまう。
こうした状況を踏まえて、昨今はIaaSとPaaSの距離が縮まりつつある。セールスフォース・ドットコムの「Force.com」やマイクロソフトの「Windows Azure Platform」は共にPaaSに分類される。セールスフォース・ドットコムはVMWareと共同で「VMforce」というサービスを発表した。「Force.com」と同じクラウド環境上でVMWareが提供するJavaアプリケーション実行環境(フレームワークはSpringSource)を動作できる。これにより既存のJavaアプリケーションを移設し、セールスフォース・ドットコムの各種SaaSと連携させるためのハードルが大きく下がると期待される。
マイクロソフトも「VMロール」という新しい仮想インスタンス(仮想的なデバイス)を発表している。従来から「Windows Azure Platform」には「Webロール」と「Workerロール」という2種類の仮想インスタンスがあり、開発者はこれらの上で動作するアプリケーションを開発するというスタイルを取る。Webロールはインターネットインフォメーションサービス(IIS)上にホストされるアプリケーションを実行することが前提になっているなど、これらのロールはIaaSにおける仮想インスタンスと比べ、すぐ開発に取り掛かれるように必要な構成を済ませたものになっている。
しかし、自社で独自に採用しているWebアプリケーションサーバ上で稼働するシステムをWindows Azure Platform上で動かしたいという要求もあるだろう。VMロールはそうした役割を担うものとして期待されている。このようにPaaSを提供する大手IT企業はIaaSに近い選択肢も併せて提供し始めている。
逆のケースもある。「Amazon EC2」や「Amazon S3」を提供するAmazon Web ServicesはMySQLをベースとしたデータベース実行環境サービス「Amazon RDS」の提供を開始している。仮想インスタンスだけでなく、PaaSの領域であるミドルウェアまで踏み込んだ形だ。こうした動きを踏まえると、IaaSとPaaSどちらかに固執せずに適材適所で使い分けをしながら、SaaSをうまく補完していくことが重要である。
本連載では、中堅・中小企業がSaaS/クラウドの本格活用に踏み出さないのはなぜかという問いかけに始まり、その理由の1つとしてSaaSだけではカバーできない独自開発システムの存在をクローズアップした。それを解決する手段としてのIaaSやPaaSについて言及し、これら両者を適材適所で使い分けることが有効であるという結論に至った。
振り返ってみれば、自社内設置型のシステムにおいてもさまざまな形態が存在する。クラウドはあくまでシステム構築、運用の新しい形態の1つにすぎない。クラウドになったからといって、1つの形態ですべてがカバーできるわけではない。そう考えると、SaaS、IaaS、PaaSといった複数の形態を適材適所で使い分けるという発想は、実は従来からあるごく自然なものだといえる。本連載が中堅・中小企業における今後のSaaS/クラウド活用の参考になれば幸いである。
著者紹介:岩上 由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチのシニアアナリスト。早稲田大学理工学部大学院数理科学専攻卒。ジャストシステム、ソニー・システム・デザイン、フィードパスなどを経て現職を務める。豊富な知識と技術的な実績を生かし、各種リサーチ、執筆、コンサルティング業務に従事。著書は「クラウド大全」など。
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