日本企業の経営スタイルをBPOで変革:アナリストの視点(2/2 ページ)
世界的な経済危機の影響で、現在もなお多くの企業がコスト削減に躍起になっている。そうした中、再び注目を集めているのがBPOである。
BPOの普及が進まない日本市場
日本企業は、これまで直接業務における競争力の向上には熱心だったが、間接業務の効率化にはあまり目を向けてこなかったとされている。欧米では、間接業務を外部のアウトソーシング事業者に委託し、自社のリソースは収益を生み出す直接業務に集中させる取り組みが行なわれてきた。BPOは欧米では生産性を高める手法として広く普及している。
一方、日本でも欧米での普及にならって、多くの事業者がBPOサービスの提供に取り組んできたが、その浸透度合いは緩やかであり、広く普及しているとは言い難い。
日本でBPOが普及しない原因に、まず雇用の問題がある。BPOは、該当する業務を企業の外部に出すために、その業務の担当者が余剰人員となってしまう可能性がある。レイオフなど人員整理に抵抗感の小さい欧米企業と違い、日本企業では依然として大きい。そのため、人事リストラにつながる可能性を持つBPOサービスへの抵抗は強い。
次に、業務品質の低下に対する懸念がある。これまで日本企業では、間接業務にも優秀な自社社員を配置し、きめ細かな業務遂行を行なってきた。しかし、BPOを導入することで、業務品質が低下するのではないかという懸念がある。
これらの理由から、これまで日本企業は多くの業務を内製化してきた。特に金融危機後は、景気悪化の影響から業務量が減少し社内人員に余剰感が出てきたことから、今まで外注していた業務さえ、内製化するケースが増加している。
求められる直接業務へのリソースシフト
日本のGDPが高い成長率を示していた時期であれば、多くの社員を間接業務に配置することに問題はなかった。
しかし、今後、高い成長率が期待できない国内のビジネス環境下では、間接業務にこれまでと同様のリソースを配分することは、経営効率を低下させる原因になりかねない。今後の日本企業は、間接業務に対するリソースを減らすとともに、収益を生み出す直接業務へ注力していくべきであろう。今後、日本企業は世界市場で戦っていく必要があり、そのためには欧米企業に負けないだけの生産性を確保していかねばならない。
業務内製化によるこれまでの成功体験を持つ日本企業にとって、急に意識を変えることは難しいかもしれない。しかしながら、これができなければ、BPOの導入などで経営の効率化を進める欧米企業との間に競争力の差が広がってしまうのだ。
今後、日本企業の経営者は、たとえ社内からの抵抗が強くても、全社的な生産性の向上を目指して構造改革を進めていくべきである。間接業務の担当者も、それが担当業務の縮小につながるとしても、さまざまな競争環境下に置かれているという全社的な視点で、構造改革を進める勇気を持たなければならない。
時期を逸してから構造改革に取り組んでも、そのころには既に欧米企業に追いつけなくなっているかもしれない。日本企業はこれまでの成功体験に拘泥することなく、積極的に生産性の向上を追及していくべきであろう。そのためには、BPOやアウトソーシングという手法を戦略的に活用していくことが1つの解決方法になるのではないか。
関連記事
- 集客から囲い込みへ、ECサイトの戦略に変化
数年前と比べて、ECサイトでは最終的なコンバージョンまでも視野に入れた総合的なサイト集客の効率化がより重視される傾向にあるという。 - エコドライブで急成長する商用車向けテレマティクス市場
商用車向けテレマティクスサービス市場は自動車業界のみならず、ITベンダーや通信業界、サービスプロバイダーも巻き込み、2020年に向けて巨大市場に成長すべく動き出した。2025年に年1000億円市場に到達するとみられる同市場を考察する。 - カーエレ産業は2012年に完全復活、IT業界のけん引役に
トヨタ自動車の赤字転落や米General Motorsの破たんなど、自動車業界には逆風が吹き荒れている。それに伴い、ITとも関連の深いカーエレ業界の市場はどう変化するのか――。 - パラダイムシフトが進む製造業、IT投資の行く末は
IT産業の根幹を担ってきた製造業だが、金融危機の影響は避けられず、目下のIT投資意欲は減衰傾向にある。「景気底打ち」という声も聞こえる中、製造業のIT投資はいつ本格的な復調を見せるのか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.