進学も就職もブログも、すべてを突き動かしたのは実験の心:オルタナティブな生き方 山口陽平さん(2/2 ページ)
緻密なデータ収集と冷静で正確な情報分析をもとにした『一般システムエンジニアの刻苦勉励』を執筆する山口陽平さんに、その半生とブログへの思いを聞いた。
いったん退院して入社式を迎えしばらく出社をするが、その後またしばらく入院して治療をしなければならなかった。退院してからも、会社生活を送りながら長期にわたる治療を行った。
まずは6カ月間、週に3回のペースでインターフェロンの注射を接種する。この治療は副作用も強く、最初のうちは発熱などの症状に悩まされることに。しかし山口さんは、副作用で発熱した状態でも出社し、コーディングの作業をしていたとのこと。すでに乗り越えたことだからか、「むしろ熱で少しハイな状態で仕事をしていたかもしれません」と、辛かった治療についておどけた様子で振り返る。
6カ月のインターフェロン治療で、その後2年くらい肝機能はほぼ正常に戻った。しかし、B型肝炎は簡単に完治しない。2年後には再びインターフェロンの治療を行うことになるのだ。
2回目のインターフェロン治療でも完治はしなかった。そのため、再治療が5カ月目を迎えたあたりで、「逆転写酵素阻害剤」という新たな治療を行うことになる。結果的にはこの治療方法が功を奏し、現在は寛解(かんかい:症状が落ち着いて安定した状態)に至っているとのことだ。
病を経験し、健康保険の仕組みは支え合っているのだと実感したと山口さんは言う。そして、インターフェロンのように高度な医療技術に支えられる薬は膨大な人々の手を経て、やっとそれを自分が利用できるようになる。これこそが、社会を形成している仕組みなのだとリアルに実感したとのことだ。
ブログにはあえて未決事項を書く
大きな病はしたが、入院先に見舞いに来てくれた同期入社の女性と付き合い、結婚をすることになる。現在は3歳と生まれたばかりの赤ちゃんという2人の子どもにも恵まれている。
山口さん、実は資格マニアという側面もある。情報処理試験の資格を、なんと8種類も取得しているのだ。職種は異なるが同じ職場に在席している奥さんも、多くの資格を取得しているとのこと。夫婦で合わせると、取得した情報処理試験の資格数はなんと15にもなる。「情報処理試験は夫婦共通の趣味かもしれません。普段から、お互いに論文のチェックをし合ったりもしています」と山口さん。
オルタナティブ・ブログを書き始めたきっかけも、この情報処理試験だとのこと。25歳のときに情報処理試験のシステムアナリスト資格を取得し、その年度の最年少合格者となった。しかしこの栄誉ある瞬間も、年を経れば忘れ去られる。なので、これをきっかけに何か始めようと思い、2007年4月2日にオルタナティブ・ブログの執筆をスタートした。「当時は、システムアナリストを取得した自慢気な気持ちもちょっとあったので、若いのにすごいねというような出会いがあるかもしれないとも期待していました」と山口さん。
ブログを書き始めたころは、それまでに貯めてきた知識の資産を少しずつ出していけば続けられるだろうと思っていた。それは、自分をなんとか大きく見せる努力でもあった。そのためもあり、しっかりと自信が持てる事実だけを選んで書いていた。しかし、ここ最近は、分からないことは分からないと書くように変化してきたとのこと。また「はずしているかなと思うことも、最近はそう書くようにしています」と。実はブログ執筆開始当初から、独自視点の話題を展開したかった。しかし最初のうちは、怖くて書けなかったのだなと最近になり気付いたのだ。
当然ながら、論点が甘い部分については指摘を受けることもある。しかしそれで凹むのではなく、むしろ議論が発展するのが楽しいと山口さんは言う。「反論でも反応してもらえることがうれしい」のだ。
またブログそのものの使い方も変わってきた。かつてブログはノートで、記録する場所だった。しかしいまは、単語カードになっているとのこと。「いまは、忘れないように書いておく場所がブログで、記録する場所がTwitterになっています」。ブログは物事を整理した結果を書ける場だが、山口さんは考えがはっきりしていないものをあえてブログに書く。そうやってブログにメモすることで、その事柄が自分の中ではまだ「未決」だというのをはっきりさせているのだとのこと。そして、未決のものが、ブログ上の議論などを経て「既決」へと変化する。そういったブログの使い方を始めているのだ。
今後はさらに、社会還元的な内容をブログに書いていきたいと抱負を語る。未来に向かいこうなるのでは、その際にはこういうことが課題になるのではという話題を取り上げたい。例えば「クラウドコンピューティングの活用が、じつは外為法に抵触するのでは、といった話題も取り上げたい」とのことだ。
「40歳になってもブログは書いていると思う」と山口さん。社会に出てまだ10年もたっていないが、そんな彼がこれからさまざまなことを経験し、10年後にはそれらの経験に基づいて未来を語っているようになりたい。その場がきっと、10年後のオルタナティブ・ブログとなるのだろう。
山口陽平氏 プロフィール
国内SIer勤務のコンサルタント。
.NET Framework, Lotus Notesを中心に情報システムの提案・構築に参画。
現在は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティングを担当。松坂世代。
身の周りのおもしろおかしいを含蓄ある文章でつづる『一般システムエンジニアの刻苦勉励』は、ブロガーベスト30に毎月ランクインする人気ブログである。
オルタナティブ・ブロガーインタビュー『オルタナティブな生き方』バックナンバー、オルタナティブ・ブログ一般システムエンジニアの刻苦勉励
関連記事
- エンジニアとお盆休み(山口さん執筆記事)
- オルタナティブな生き方 永井孝尚さん:わが人生を悔いなく生きる
マーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、ライフワークなどをテーマに情報発信するブログ『永井孝尚のMM21』の筆者 永井孝尚さんに、その半生を聞いた。 - オルタナティブな生き方 坂本史郎さん(苦闘編):どん底の日々からわたしを救った朝の時間
毎朝4時20分に起床して、全社員へのメールとオルタナティブ・ブログ「坂本史郎の【朝メール】より」執筆を日課としている坂本史郎さん。後編では、起業からの苦闘の日々、そして内観を経て朝の時間を活用するようになった経緯を聞いた。 - オルタナティブな生き方 坂本史郎さん(青春編):MBA取得、そして工場での草むしりの日々
毎朝4時20分に起床して、全社員へのメールとオルタナティブ・ブログ「坂本史郎の【朝メール】より」執筆を日課としている坂本史郎さん。前編では、諸外国で過ごした幼年時代と米国での青春時代を中心に話を聞いた。 - オルタナティブな生き方 栗原進さん:ネットでリアルを楽しくしたい
SE出身の企業広報マンでありながら、趣味は落語で憧れの人はインディ・ジョーンズとアナログ全開の栗原さんに、ブログを書く理由やネットからはじまるコミュニケーションについて伺った。 - オルタナティブな生き方 宮沢純一さん:好きなことしかしないし、できない
MURAMASAやビンゴピンボールなど、自分の好きやこだわりを愛情深くつづる『無事今日も終了です』を執筆する宮沢純一さんに、その半生を語ってもらった。 - オルタナティブな生き方 林雅之さん:100点よりも240点を目指したい
クラウドコンピューティングをはじめとする「ICTの今」を解説するブログ「『ビジネス2.0』の視点」を執筆する林雅之さんに、人生観やブログ観を語ってもらった。 - オルタナティブな生き方 吉田賢治郎さん:すべては“カッコいい”のために? けんじろう流苦手克服術
学校裏サイトとの戦いの記録を書き評判になったITmediaオルタナティブ・ブログのブロガー吉田賢治郎さん。吉田さんの考える“カッコいい”生き方、苦手克服術、そして仕事や家族への愛情を語ってもらった。 - オルタナティブな生き方 大里真理子さん:出会いと縁を大切にする、東洋的キャリアの築き方
ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」で「マリコ駆ける!」を執筆する大里真理子さんに、出会いを生かす東洋的キャリアの築き方を伺った - オルタナティブな生き方:ブログは思いを実践する手段〜中村昭典さんインタビュー
メディアにあふれる数値から世の中を読み解くブログ「中村昭典の、気ままな数値解析」を執筆する中村さんに、これまでの人生とブログに対する思いを語ってもらった。 - オルタナティブな生き方:究極のわがままは我欲を捨てること〜佐川明美さんインタビュー
ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」で「シアトルより愛をこめて」を執筆する佐川明美さんに、今、働くこと、ブログを書くこととは何か、話をうかがった。 - オルタナティブな生き方:学歴無し、社員経験無しからの出発
ITmediaのビジネスブログ「オルタナティブ・ブログ」で「平凡でもフルーツでもなく、、、」を執筆する佐々木康彦さんに、有名アーティストのバックバンドを経てホームページ制作会社を立ち上げた半生や、ブログを書くことの意味などを伺った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.