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IT産業に構造変革が起きる日田中克己の「ニッポンのIT企業」

長年にわたって厳しい状況に直面する日本のIT産業。今後、国内外の市場においてどのように生き抜いていくべきか。

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 日本のIT産業に元気がなくなって、10年以上も経ってしまった。大手ITベンダーを頂点とする多重下請構造を破壊し、人月ベースの労働集約に代わるビジネスモデルを構築しなければ、日本のIT産業は衰退の一途をたどる、と言われていた。だが、この10年、状況は変わっていない。否、どんどん悪化しているように思える。

 ある経営コンサルタントは「日本は二流のIT企業がユーザーのIT活用を支援している。これでグローバル競争に勝てるのだろうか」と、日本のIT産業の問題点を指摘する。実際、受託ソフト開発に重点を置いた日本のIT企業に見切りをつけるユーザー企業が出てきている。その一方で、グーグルやアマゾン、セールスフォース・ドットコムなど新興勢力が日本市場でユーザーを増やしている。IBMやオラクルなど既存勢力も新しいソフトやサービスを投入し、市場シェアを拡大させる。

 日本のIT企業は世界市場、日本市場で生き残れるのだろうか。既得権益のない中堅・中小のIT企業が、産業構造を変革させる新商品を生み出せるかにかかっている。

IT投資抑制の嵐

 元気を失った最大の原因は、企業のIT投資抑制にある。しかも、削減額は想像以上に大きい。経済産業省が2011年10月に発表した情報処理実態調査によると、2009年度(平成21年度)の1社当たりの情報処理関係諸経費は、前年度比15.2%減の約6億2000万円だった。ピーク時(1998年の約11億2000万円)に比べた投資額は、実に45%も減っている。日本企業を取り巻く環境は厳しさを増しており、2010年度、2011年度のIT関連投資も減少傾向にあるだろう。

経済産業省の情報処理実態調査
経済産業省の情報処理実態調査

 大手ITベンダーの売上高推移からも、IT需要の低下が分かる。富士通のシステムプラットフォーム事業(ハード/ソフトなど)は、2005年度の約7200億円から2010年度に約6000億円になった。一方、サービス事業は2005年度の約2兆2600億円から2010年度に約2兆4100億円に増えた。だが、その内訳をみると、インフラサービスは2005年度の1兆円強から2010年度に約1兆5900億円に拡大したのに対して、2005年度に1兆円強あったソリューション/SI事業は2010年度に約8300億円に落ち込んでいる。

 NECも同様だ。2005年度に約4900億円だったコンピュータプラットフォーム事業(ハード/ソフトなど)の売り上げは、2010年度に約3800億円(セグメント項目はプラットフォームに変更)に減少した。SI/サービスも2005年度の8324億円から2010年度に約8000億円(同ITサービス)になる。富士通もNECも、ハード/ソフトとSIが不振だったことになる。

 国内中心にSI事業などを展開する野村総合研究所、日本ユニシス、ITホールディングス(ITHD)など大手も伸び悩んでいる。なかでも、日本ユニシスは2007年度の3377億円から2010年度は2529億円と3年間で売り上げを約25%も落とした。中堅の富士ソフトも2007年度の1707億円から2010年度に1347億円と21%の減収だ。

 そこで、大手の傘下に入って、生き残りを模索する中堅の上場会社が現れた。だが、大手は外注費の削減、固定費の削減に踏み込む。ITHD傘下のTIS、日本ユニシス、SCSK(2011年10月に住商情報システムとCSKが合併して誕生)などは人員減の見込み計画も公表する。ある大手の経営者が数年前に予想した「SEは5分の1の10万人程度になる」が現実味を帯びてきた。

チャレンジする中小の登場に期待

 大手ITベンダーはこの10年、世界に通用するソフトやサービスをつくり出せなかった。利益確保を優先し、欧米ITベンダーのソフトやサービスを担ぐビジネスに費やした。開発費の抑制は、IT技術者のモチベーションを下げることが懸念されるし、ボディーブローのように効いてくる。

 この状況を打開しなければ、日本のIT企業はじり貧になる。とりわけSI需要の低下、オフショアの活発化、クラウドサービスの普及で、黙っていたら中小ソフト開発会社は最初に淘汰されてしまう。大手にしがみつけていても、未来は開けない。「何とかなる」はずもない。下請けから脱却し、革新的なサービス商品を創出することだ。

 経営者はそう決心し、IT技術者の1割から2割を新商品の開発にあたらせる。なぜ、1割から2割なのか。受注減で稼働率が下がった分に相当するIT技術者を割り振るからだ。もちろん、優秀な人材をアサインし、市場を調査しながら、求められるサービス商品を開発する。中国やインドのIT技術者を採用し、開発する手もある。自社開発が難しいなら、欧米ITベンダーの優れたサービスを利用した付加価値型サービスを創り出す。

 その際、得意な技術、得意な分野を明確にし、異なる分野を得意とする同業他社との協業を推進する。複数のサービスを組み合わせて提供するためだ。一歩進めて、数社で持ち株会社を設立し、さまざまな得意技を持つ企業群を形成する。そこには、インテグレーション力のある企業、営業力のある企業も仲間に入れて、中小ソフト開発会社の弱点を解消する。顧客企業を多数持つ大手に、そのサービス商品を生かしたSI展開も働きかける。

 開発生産性を大幅に向上させる方法もある。開発手法や言語を絞り込み、開発する業務アプリケーションを限定すれば可能になる。IT人材育成が難しい中堅・中小企業のIT部門になり代わって、効果的なIT活用を考えたり、ITベンダーらの提案内容を評価したりする。IT活用による効果に見合う報酬を得る成功報酬型を取り入れる策もある。

 いずれの方法にしろ、経営者は求める人材像を明確にし、育成に力を注ぐ。その投資を惜しむ企業に、グローバル競争に打ち勝つ力は備わらない。次回から、IT産業の次世代を担う、“ニッポンのIT企業”を紹介する。

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