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「adizero クツカス」キャンペーンの効果測定結果――ソーシャルメディアの広告的効果測定は可能か?長距離ランナーとシューズの親密な関係

 効果測定の設計は、キャンペーンの企画時に最も頭を悩ませる作業の1つだが、今日日のマーケティング担当者にとって、ソーシャルメディアという新しいチャネルの導入は、その設計作業をさらに複雑なものにする。アディダスジャパンの「adizero クツカス」キャンペーンから、ソーシャルメディアの広告的効果測定の実現可能性を考える。

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 雨の九段で開催された「ソーシャルメディアサミット」(主催:アジャイルメディア・ネットワーク)では、パネルディスカッションのテーマの1つに「ソーシャルメディアにおける広告的効果測定のあるべき姿」が設定された。パネラーとして自社のプロモーション事例を紹介したのは、アディダスジャパン、サントリー酒類、東急ハンズの3社。ビジネスモデルや企業文化の違いから、各社が展開するプロモーション施策はバラエティに富んでいたが、ディスカッションのテーマである“効果測定のあるべき姿”に関しては、いまだに手探り状態であるという緩やかな共通点が見られた。

 登壇した3社のマーケティング担当者のうち、キャンペーンの振り返りを比較的詳細な数字で提示したのが、アディダスジャパンのブランドマーケティング シニアマネージャー 津毛一仁氏だった。津毛氏が紹介したのは、2010年3月1日から2カ月の期間をかけて展開したランニングシューズのオンラインレンタルサービス「adizero クツカス」の事例だった。

 「adizero クツカス」というのは、3泊4日でアディダスのランニングシューズを無料でレンタルできるサービスのことである。8足の中から最大4足を選ぶことができ、キャンペーン期間中(2010年3月1日〜2010年5月31日。現在は終了)はレンタル回数が無制限だった。1400円分のクーポンが同梱されていて、直営店や一部のシューズショップ(ABCマートなど)でadizeroを購入する際に割引サービスを受けることができた。

 長距離ランナーにとって、シューズとの相性はたいへん重要なテーマである。足とシューズとのほんの僅かなズレが足の故障につながることがあり、あるいは、膝、腰、背中等、身体のバランスに負の影響を与える可能性もある。それゆえ、店舗で試し履きをしても、本番のレース環境に耐えるフィット感なのかなかなか判断できない。極端なことをいえば、練習で数十キロ、数百キロ走ってみて初めてシューズと自分の相性が分かるといえる。

 「adizero クツカス」キャンペーンの目的は、1)ランナーへのアディダスブランドの認知度拡大、2)ランナーに対するシューズ選びのサポート、3)購買促進の3つだが、長距離ランナーが重視するシューズ選びのポイントを押さえた施策として、後述するが、結果的にはかなりの成功を収めたキャンペーンとなった。なお、キャンペーンの前提条件は、1)全国展開が行えること、2)流通の限定がないこと(ネットなので)、3)コンバージョン設計ができることの3点だった。

 さて、「adizero クツカス」キャンペーンを実施して同社が得られた成果とはいかなるものだったのか? キャンペーン特設サイトのトラフィックはページビューで23万、ユニークユーザーで7万5000だった。1ユーザーあたりの平均滞在時間は1セッションで180sec。シューズの総レンタル数は2049足であり、この数字は同社が設定した目標値の227%に相当した。クーポン使用率は250pcs(個数、枚数)で、この数字もKPIの150%だった。そのほか、露出メディア数は、新聞、雑誌、Web等、すべてを含めて90以上(KPIの210%)、CGM効果としては、3500以上のブログでエントリーが生成された。店舗売上は公表されていないが、「3カ月累計で(このキャンペーンが)店舗の月間消化率向上に起因した」と津毛氏は言う。

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「adizero クツカス」キャンペーンの効果測定結果。アディダスジャパンのブランドマーケティング シニアマネージャー 津毛一仁氏

 特殊なキャンペーンをのぞいて、(キャンペーンの)究極的なKPIは「売上目標の達成」であることに異存はないだろう。ただ、現状では売上に直結するキャンペーン指標を設定することは困難であるし、計測も難しい。キャンペーン施策と売り上げ向上の堅固な依存関係を証明することが難しいからだが、デジタルマーケティングは、そんな困難を克服する可能性を秘めている。アディダスが手探りで展開する販促企画はそんな予感を感じさせるものだった。

谷古宇浩司

アイティメディア ITインダストリー事業部 事業開発部 チーフアーキテクト。コンピュータ・ニュース社(BCN) 報道部 記者を経て、2002年にアットマーク・アイティ入社。@IT自分戦略研究所編集長、アイティメディア エンタープライズ編集長を歴任後、現職。


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