B2Cソーシャルの活用状況
前編では現在広く普及するソーシャルメディアの概要などを紹介した。今回は、そうしたソーシャルメディアを企業ビジネスにいかに取り込んでいくかについて解説する。
現時点での消費者と企業間のソーシャルメディア活用目的には、消費者の情報入手経路の変化と、その影響力(信頼性と伝播力)に着目した広報活動やブランディングを挙げる企業が多い。公開されているさまざまな調査データを見ても、ブランディングや広報活動を目的としたソーシャルメディアの活用はもっとも多い。これらの広報活動やブランディングにおいては、ソーシャルメディアの企業公式アカウントを所有して行われることが一般的だが、コンシューマー向けの製品やサービスを扱う企業の多くは、YouTubeやFacebookの公式アカウントを活用している。
広報活動/ブランディング以外の企業活用で、徐々に活用方法が模索されてきているのが、お客様の声(Voice of Customer:以下VoC)からの製品・サービスの改善や顧客サポートといったソーシャルCRMの領域である。中でも注目が高まっているのが、自社名、自社の主要製品/サービス名でのソーシャルメディアのアカウントに対する声を自動収集し、テキストマイニングツールで「ポジティブ/ネガティブ解析」「傾向分析」を行うことである。FacebookおよびTwitterのつぶやきに関して、分析・モニタリングツールを活用して分析している企業は急速に増えている。
このようにソーシャルメディア上のお客様の声を収集したデータを事業へ活用している企業においても、現状の分析手法は広報やマーケティング部門の担当者の属人的なノウハウに頼るケースが多く、既存の顧客チャネルとは連携されていないケースがほとんどである。今後、日本でソーシャルメディアの利用がさらに拡大すると、企業でもソーシャルメディアに対する組織的な対応が求められることが予想される。その第一歩は、ソーシャルメディアに溢れる人々の声を集め、人々がどのような話題に反応し、口コミ情報が拡散していくのかを分析することであろう。
ソーシャルCRMでのデータ分析
ソーシャルCRMで利用されるツールでは、最初にキーワードに基づいて顧客の声を検索/抽出したり、APIを用いてつぶやきを取得するなどの「収集」機能を利用する。その後、データ/テキストマイニング機能により発言の増減やポジティブ/ネガティブかなどの「分析」を行う。この分析でネガティブとして抽出された顧客に対して、迅速に返答するアクティブサポートや、発言に対するフォロワーのリツイート量などから影響力を可視化し、インフルエンサーを抽出することが可能なものも少なくない。当然、これらの機能により、マーケティングリサーチやプロモーションの効果測定に役立てたり、自社や自社商品に関連する風評被害などレピュテーションリスク管理も、ソーシャルメディア上の膨大な情報のモニタリングにより可能になるといえる(図1)。
将来的にソーシャルCRMによるこのようなデータ収集/分析は、Facebookなど顧客の実名とプロファイル情報を、既存のCRMで管理している顧客情報と統合して、より高度な分析が行われるようになることが想定される。しかし、依然として、ソーシャルメディア上のお客様の声を活用していない企業も少なくない。
また企業によっては自社のブランドや製品・サービスに関するソーシャルメディア上のデータを抽出しても、分析するまでの発言の量と質が得られない可能性もあろう。そこで、まだソーシャルメディア分析の価値が見出せていない企業においては、Twitter上のつぶやきを検索・抽出できる無償ツールを利用し、自社製品に関するつぶやきを抽出し、テキストマイニングツールを利用して、分析を試みることを推奨する。こうした検証を行った上で、中長期的なソーシャルメディア戦略を策定していくべきであろう。
著者プロフィール
三浦竜樹(みうら たつき)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) シニア・アナリスト
広告代理店にて、ITベンダーのマーケティング・プラン策定、ネットワーク関連システムの広告戦略などに携わる。2001年4月より現職。現在は、GtoBおよびB2B2Cポータルサイト策定プラン、コミュニケーション/コラボレーション基盤の刷新、モバイル・クラウド活用でのビジネス戦略やワークスタイル革新などのコンサルティングを手掛ける。近年は主に、モバイル、コラボレーション、コンテンツ管理、仮想化、クライアント運用管理、Web戦略などの分野を担当。
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