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昨日、情報漏えいが発覚しました 今すぐにどうすればいいですか?萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/3 ページ)

まさに「青天の霹靂」のごとく発生した情報漏えい事件に対して、まず何から着手すればよいだろうか――。

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説明責任を果たすこと

 まずはこういう前提に立って冷静に事実を分析し、他人、社会、マスコミが納得のいく謝罪記者会見を実現するということに尽きるといっても過言ではない。だから、マスコミ対応専門のプロがいるのである。そういう専門家の指導を受け、マスコミ対策を実現することは決して「姑息な手段」ではない。ビジネスとして当然の手法だ。ただし、そもそもそういう方法に慣れていない、抵抗感がある、費用が高いと感じるなどのさまざまな理由で回避する企業も多い。その考えも否定しないが、リスクを伴う。その場合は、より慎重に行動するしかない。

 とにかく真っ先に行うのは、事実を確認すること。そして冷静になり、一連の事実に対する合理的なストーリーを組み立てる。本件なら、例えば「本当に尿意を感じたのか」「実はサボりではなかったのか」「私物を購入しなければ被害に遭わなかった」「自作自演という可能性はあるのか」などを、本人へのヒアリングを中心にきちんと確認する。

 もし、PCのフォレンジック調査が必要そうだと感じたら、すぐに実施すべきだろう。実際にそういうシーンに遭遇している。ただし、被害者(本件ならA主任)が心から後悔し、自虐的になっている場合も多いので、当事者へのヒアリングは経験のある専門家に委ねた方が望ましい。時々、筆者は当事者とその上司や役員とが対立して殴り合いに至るケースも見ている。そうなってしまうと、当事者はもう協力はしなくなる。「クビにしたければどうぞ」で終わりなので十分に注意する。

 さて、事後処理で最も重要なイベントが「謝罪記者会見」だろう。中小企業や零細企業ではそういう会見を開かなくても、最低限自社のWebサイトに謝罪文を掲載し、漏えいした本当の被害企業や被害者個人に対応し、謝罪しなければいけない。

 記者会見を行う場合にいつも伝えているのは、「反面教師として、『船場吉兆事件』は参考になる」ということだ。これだけでも半日コースの講習ができるくらいだが、最も醜いのは、やはり代表者の母親がカメラの眼の前で、息子の社長に「○○と発言しなさい」と、まるで小学生に諭すように話したシーンである。そのまま話している社長の姿を見てどう思うだろうか。

 社長の判断は絶対であり、性格がイビツでも社長は社長だ。最も重要な「俺はこうする」という意思表示の権利を放棄しては、既に社長ではない。米国大統領選で重要なイベントがテレビの公開討論だという評論家もいる。いかにして相手より「若く」「清廉」「そして正々堂々とプレジデントらしくふるまうのか」と言われる。化粧の仕方、髪の整え方、背広の形や色、ネクタイ、発言の仕方やカメラに向ける角度まですべてが最大限に演出されなければいけない。これを活用しない手はない。

 世間やマスコミが納得するように、経営者らしく振る舞えるか。決して「嘘」はいけないが、これを磨くことで10の輝きを50にも100にも見せることは、決して不正でもないし、嘘でもない。それは「演出」である。

 そして、その精神は自社のWebサイトにも表れる。謝罪文の表現によって、欠点があたかも長所に見えるようにすることも可能だ。ただ、日本人は過剰な演出には慣れていない。そこには文化としての節度や思いやり、一歩下がった謙虚さを演出することも重要なファクターになる。嘘をついたところで、いつかはバレる。だからこそ、普段の行動が大事なのである。

 最後に、顧客や得意先企業への謝罪は、もし許されるなら直接顔を拝見して目をみて謝罪することに尽きる。数十社、数十人の範囲なら、そうすべきだだろう。それを心から誠心誠意に行うことで、昨日まで「被害者」だったのが、次の日から「支持者」になってくれる可能性もある。そこに社長以外の人間が出向いても効果は半分以下だ。普段は仕事らしいことを何一つしない社長でも、ここはぜひ率先して実施していただきたい。筆者は現場を見てそう感じている。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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