救急搬送をiPadで見える化した佐賀県、自称・ITオンチの新任職員はどう挑んだのか?:地方自治体のIT活用探訪(3/3 ページ)
iPadで搬送可能な病院を探して命を救え――佐賀県で始まったこの取り組みは、4月から2府7県に広がろうとしている。きっかけとなったのは、ITにも医療にも詳しくなかったという若手職員・円城寺雄介さんの情熱だ。当時の状況やこれからの展望を聞く。
iPad活用で見えたもの
iPadを利用した病院検索システムを運用して2年以上が経過し、さまざまな効果と新たな課題が浮上している。
導入効果としては運用後半年間で、平均搬送時間が約1分短縮された。また、大規模病院などの救急救命センターへの搬送率が約3%低下し、搬送集中による混雑の解消に貢献した。
実際にはこうした数字以上に、救急車の現場では受け入れ先の病院を探す負担の軽減につながっている。搬送を受け入れる病院側でも周辺病院の状況を把握できるように、病院間の連携強化に大きく貢献しているとのことだ。同県の先進的な救急搬送体制は徐々に知られるようにもなり、その状況を学びたいという若手の医療従事者の参加も増えている。
また、搬送実績の分析から新たな対応も始まっている。例えば、ある地域では搬送時間がほかの地域よりも長くなっており、近隣に救急病院が少ないことが原因だと分かった。このため、佐賀県では2014年1月からドクターヘリを導入し、特に緊急性を要する搬送への対応を強化している。
「ドクターヘリの運用には経費がかかり、佐賀県の規模では不要との見方もありました。しかし、病院の整備にはさらに膨大な資金が必要となるため、ドクターヘリが実情に即しているとの判断になりました」
一方、今後の課題として円城寺さんは救急搬送の内容に関するデータの活用を挙げる。例えば、ある日の搬送では打撲したという高齢者の受け入れ先がなかなか見つからないという事態が起きた。打撲という症状だけでは一見すると軽微かもしれないが、“なぜ打撲してしまったのか”という視点に目を向けると、幾つもの理由が想定され、病院側としては受け入れても対応できないという状況が起こり得るためだ。
「搬送される症状も外傷から疾病にシフトしつつあり、万一の訴訟リスクを考慮すると、病院側としては受け入れづらいという問題が生じています。今後はiPadで詳細な情報を活用していけるかどうか、新たな仕組みも検討しなければならないと考えています」(円城寺さん)
佐賀県のこの取り組みには、全国からも視察が相次ぐ。今年4月から導入するケースを含めると2府7県が導入し、20以上の都県が導入検討あるいは佐賀県を視察済みだ。各都府県とも佐賀県の仕組みを参考にしつつ、システムに独自の工夫を取り入れている。例えば、奈良県ではiPadを利用して搬送する人の脈拍や血圧といった佐賀県より詳しい情報を扱えるようにした。群馬県は、佐賀県と似たシステムながら重症度も分かるといった具合だ。
「佐賀県の仕組みはあくまで基本的なもので、採用するほかの自治体や企業にはプラスアルファの工夫をお願いしています。システムがより良くなれば、逆に今度は佐賀県がそれを参考にして改善できますので、良い循環につながればと期待しています」(円城寺さん)
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