「IBMの新メールソリューション」に対する期待と懸念:Weekly Memo(2/2 ページ)
日本IBMが先週、最新技術を取り込んだメールソリューション「IBM Verse」を発表した。業務の生産性向上などに期待が膨らむ一方、懸念される点もいくつかありそうだ。
コラボレーション基盤は「前向きな投資」ととらえよ
懸念点もある。志賀氏は「あくまでメールソリューションとしてとらえると、ユーザーが抱くコスト感と懸け離れないか」と指摘。また、VerseがIBMの社内利用経験に基づいて開発された側面もあることから、「ITリテラシーの高い米国企業のカルチャーを、どこまで日本企業にローカライズできるか」との疑問を呈し、アナリティクスの活用についても「長期的にログやコンテンツを分析するようになるため、それにかかるランニングコストがかさむことにならないか」との懸念を示した。
IBM Verseはグループウェアである「IBM Notes/Domino」のユーザーが移行することも想定されている。志賀氏はこの点について「Notesのメール機能はかなり充実しており、ユーザーの満足度は高い。Notesに不満を感じているユーザーは、メール機能ではなく、Notesのエンドユーザーコンピューティング環境が時代に合わなくなってきていることを懸念している。従って、VerseはそうしたNotesの課題を正面から解決するものとは思えない」との見方を示した。
筆者も、期待できる点と懸念される点の両方を踏まえた形でキーワードを1つ挙げておきたい。それは「投資効果」である。
以前から指摘されていることだが、コラボレーション基盤の投資効果はユーザーにとって非常につかみづらい。その裏返しでベンダーにとってもユーザーに対して明確に提案しにくいところがある。
IBM Verseについてユーザーから投資効果を明確に示してほしいと問われたら、どう答えるか。発表会見の質疑応答でこう聞いたところ、マハジャン氏は次のように答えた。
「この分野のソリューションにおける投資効果をあらかじめ明確に示すのは難しい。それは、かつてNotesを手掛けはじめたときにも経験したことだが、その後のNotesの普及状況を見れば、投資効果は歴然だ。IBM Verseも使い始めてもらえば、生産性向上やコスト削減、そしてワークスタイルの変革といった点で投資効果が明らかになると確信している」
「使い始めてもらえば……」という同氏の思いは本音だろう。ただ、この点については、ユーザー側の、特に経営者に考えてもらいたいことがある。それは、IBM Verseのようなコラボレーション基盤は、人材やオフィス環境と同じ「投資」対象ではないかということだ。もちろん人材もオフィス環境も、かかるコストは綿密に計算する必要があるが、効果を明確にすることはできない。
ITシステムについては投資効果を見定めるのは重要なことだが、中でもコラボレーション基盤については人材やオフィス環境と同様に「前向きな投資」ととらえ、導入すると決めたならば、それを使いこなすべく陣頭指揮に立つくらいの認識が経営者にないと、本当の効果は上がらないのではないか。経営者にはぜひそうした観点で、IBM Verseのようなコラボレーション基盤の進化に注目してもらいたい。
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