SaaSに注力――オラクル ラリー・エリソンCTO講演発言の意図を読む:Weekly Memo(2/2 ページ)
Oracle創業者のラリー・エリソン会長兼CTOが先週来日し、自社イベントでクラウド事業について語った。その中から興味深かった発言を取り上げ、筆者なりに意図を読んでみたい。
Oracle Databaseのユニークなサービス展開を明言
基調講演の後半では、Oracleの大手パートナー企業である伊藤忠テクノソリューションズの菊地哲社長、NTTデータの岩本敏男社長、NECの遠藤信博社長、富士通の山本正已社長が顔を揃え、エリソン氏および日本オラクルの杉原博茂社長を交えて「CLOUD LEADERSHIP SUMMIT」と銘打ったパネルディスカッションが開かれた。
司会進行役を務めた杉原氏は、「(パートナー企業の)4社合計で売上高10兆円、社員数40万人、日本のIT市場の35%を占める日本を代表するリーディングカンパニーが集結した」と紹介。「クラウドのトレンドが世界をどう変えるか」をテーマに、各社の取り組みやエリソン氏への質疑応答などを行った。これだけの顔ぶれがパネルディスカッションで一堂に揃うのも、Oracleならではのイベントである。そのやりとりの中で興味深かったエリソン氏の発言を1つ挙げておこう。
「Oracleデータベースのクラウドサービスは、お客様が購入されたパートナー企業のデータセンターからも提供される形になる」
エリソン氏は基調講演の中で、今年(2015年)内に日本で初めてOracleが運営するデータセンターを開設することを発表した。詳細は明らかにしていないが、データベースなどのPaaSや各種アプリケーションのSaaSを新設のデータセンターから提供するものとみられる。
ただ、エリソン氏は上記の発言のように、データベースのクラウドサービスについては、自社だけでなく“パートナー企業のデータセンターからも提供される形”にすることを明言した。同氏は「日本では長年にわたってパートナー企業と協業してきた。クラウドにおいてもそれは同じで、お客様は引き続き信頼関係の深いパートナー企業からサービスを受けていただけるようにする」とし、サービスの大半がパートナー企業経由になるとの見通しも示した。
このサービス展開の仕方は、先行してPaaSを提供している米MicrosoftやSalesforce.comなどと異なっている。例えば両社のPaaSは全て自社運営のデータセンターから提供しており、サービス自体を外部に運営委託することはしていない。迅速な機能強化やセキュリティ対応などの効率および安全面とともに、パブリッククラウドサービスとして顧客を囲い込めるメリットが大きいからだ。ただ、両社ともパートナー企業との協業は積極的に進めており、パートナー企業が付加価値サービスを合わせて提供できる仕組みを整備している。
そう考えると、今回エリソン氏が明らかにしたデータベースサービスの展開の仕方はユニークなものといえる。ただしプライベートクラウド向けだけでなくパブリッククラウドサービスまで外部に運営委託するのかどうかが不明なので、現時点ではこれ以上の考察は控えておきたい。ちなみにOracleは、SaaSについては全て自社のデータセンターから提供するとしている。
エリソン氏は基調講演の前半で、SaaSの中でも特に人材管理アプリケーション「Oracle Human Capital Management(HCM) Cloud」を例に挙げながら、同社のクラウドサービスの先進ぶりを強調していた。エリソン氏の基調講演では、データベースを中心としたPaaSではなくSaaSを前面に押し出していたのは、SaaSを皮切りにパブリッククラウドサービスを本格的に展開していこうという考えなのだろう。
同社の直近の四半期決算を見ると、PaaSとSaaSからなるパブリッッククラウドサービスの売上規模は、全売上高の4%程度にしかすぎない。ただ、伸び率は昨年来四半期ごとに30〜50%増と高水準で推移している。これをさらにどう飛躍的に伸ばすか。今回のエリソン氏の講演での発言には、その思いが強く表れていたように感じた。
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