分析するだけの“データサイエンティスト”はもういらない(2/2 ページ)
不足しているといわれるデータサイエンティストを育成しようと、企業や大学が活発に動いている。工学院大学が、2016年度からデータサイエンティスト向けの学科を新設すると発表した。同大学が目指す“次世代の”データサイエンティスト人材とはどのようなものなのだろうか。
これからのデータサイエンティストは分析だけではダメ
三木氏によると、データサイエンティストの業務は「医者が患者を治療するフロー」に似ており、さまざまなスキルが必要になるという。
「ビジネスにおける課題をデータ解析で解決しようとする場合、抽出した課題から仮説を立案し、データを収集して分析、そして得られた知見をもとにアクションを起こすというフローになります。これには経営コンサル、IT、数理という3つの観点とスキルが必要なのです。ちょうど医者が患者を問診し、検査をもとに病状を診断した後、治療へのプランを提案する動きに似ています」(三木氏)
しかし、企業でデータ分析をしようとすると、数理的な分析に目が行くあまり、課題抽出のフェーズがおざなりになるケースが多いそうだ。これは医者で言う問診の部分にあたる。問診がいい加減では、病状の診断も失敗しやすくなるのは容易に想像がつくだろう。
「私は以前日立に勤めていたのですが、社内でコンサルティングを行うデータサイエンティストの部隊を作ろうとしたときに『分析をするだけではダメだ』とメンバーに言い聞かせていました。特に課題抽出のフェーズが最も大切です。分析対象となるビジネスの基本構造を理解しないと、正しい分析は行えません」(三木氏)
三木氏は課題抽出からアクションプランの策定まで、1人で全てを行える人材こそが「データサイエンティスト」だと定義する。システム数理学科では、こうした業務を全てワンストップで提供できる人材、ひいては社会や企業の戦略をデータに基づいて決定する人材の育成が究極的な目標だ。これは「ほぼ全ての企業や業種、社会で活躍する人材だ」と三木氏は自信を見せる。
さらに三木氏は、データ分析によって起こる第4次産業革命「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」の時代には、データサイエンティストに求められる要件が増えると指摘する。データ分析が企業間の競争や、国家間の競争を左右し、経済、政治、社会に影響を与えるということを理解し、議論できなければならないという。
「これからの時代、データサイエンティストはデータ分析が社会に与える効果は何か、という本質的な理解が求められるようになる。データ分析による人工知能が普及した世界は社会倫理的に是か非か――未来のあるべき社会を導ける人材を輩出する。私たち相手にするのはそういう世代なのです」(三木氏)
企業内でデータサイエンティストが育たない理由
工学院大学のように、社内でデータサイエンティストを育成したいと考えている企業は多いだろう。しかし現状では、それは難しいのではないかと三木氏は語る。
「まず、課題抽出の重要性を理解していない人が多いです。過去にコンサルをした企業も、データ分析のコンサルとなるとすぐにデータの収集から入ってしまうところが多く、経営的なコンサルティングに対する“財布のひも”が固かったですね(笑)。また、日本の産業界におけるリテラシーの問題かもしれませんが、データ収集はこの部署、分析はこの部署、コンサルはこの部署、というように業務が縦割り体制になっていることも、横断的な視点を阻害しているように思います」(三木氏)
とはいえ、社会人になってからデータサイエンティストを目指すことはできる。学ぶ時間と機会が多い大学生のうちに、データサイエンティストの素養を身につけるのは効果的ではあるが、社会人になってからでも学びの機会は作れるはずだ。
「企業からこの学部に人を送り込むのもいいと思いますよ。大学のカリキュラムですが18歳だけが対象ではありません。ビジネスパーソンにも通用する内容です。今後は、企業内におけるデータサイエンティストの育成にも手を入れていきたいですね」(三木氏)
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