チームを導く「大方針」は、ビジョンとゴールの“二刀流”で:プロマネ1年生の教科書(2/2 ページ)
プロジェクトに関わるメンバーは多様性に富んでいるのが一般的です。異なる個性のメンバーを同じ目標に向かわせ、仕事に集中させていくのがプロマネの仕事です。そのためにはまず、プロマネが2つの“方向性”を示さなければいけません。
プロジェクトのゴール設定は入念な準備を
まずは「プロジェクトのゴール」から見ていきましょう。これはイメージがつきやすいぶん、落とし穴にハマりやすいので注意が必要です。よくあるのが、顧客から提示された「プロジェクトのゴール」をうのみにしてしまうパターン。
例えば「Aを実現するため、現システムの見直しを図る」と目標が設定されていたとしても、実際は「他社がシステムの見直しをはじめたらしいから、何かウチもやらなくちゃと思って。それでお付き合いのある御社に声をかけたんです」程度しか考えていないことが後で分かった、というのはよく聞く話です。
一見それらしい目標がプロジェクト憲章やRFPに書かれていたとしても、一度は内容を疑い、確認したほうがよいでしょう。このあたりを詰めきれずに作業を始め、進捗会議で顧客に「ちょっと違うんだよなー」と手戻りが発生し、泣きを見るようでは目も当てられません。
このやりとりを繰り返し、メンバーの心に「本当にこれでいいんですか?」「このタスク、意味あるんですかね?」といった疑念が生じると、作業に対するモチベーションに影響が出てきます。無駄な作業や不信感を生じさせないためにも、プロマネはヒアリングの中で、顧客の本当にやりたいことを明らかにし、要件を確定しなければいけません。
仕事の目的や意味を“かみ砕いて”説明する
「チームのビジョン」を示すときは、また違ったポイントが重要になります。それは「目標咀嚼(そしゃく)」です。これは、クライアントや上司から与えられた仕事の目的や意味を見いだし、メンバーにとって分かりやすい言葉で(かみ砕いて)説明し、理解してもらうことです。
米国の組織心理学者レンシス・リッカートは「マネージャーは上下のパイプ役では子供の使いと同じ。上下を有効につなぐ、連結ピンであるべき」と述べています。顧客や上から降ってきたことを、ただ伝えるだけの“パイプ役”では意味がなく、両者をつなぎ合わせるための“連結ピン”のような働きが期待されているのです。
かみ砕いて示し、共有する――。基本のはずなのに、意外とできていない(やっていない)ケースを耳にします。「言わなくても分かるだろう」「常識だろう」は、多様な人々の前には通用しない理屈です。怠慢と言われても仕方がありません。
この作業をおろそかにすると、後々「思ったよりパフォーマンスが出ない」「指示待ちのメンバーが多い」「出てくるアイデアや意見が的を射ていない」など、ありがちなトラブルを生み出すことになるので、気をつけたいポイントです。
さて、次回は「チームのビジョン」にテーマを絞り、さらに深く解説します。他者から与えられる要素が多い「プロジェクトのゴール」と異なり、自ら作り出す必要があるため、悩む方がたくさんいます。ビジョンをどう作り、どう示していくか。そして注意すべきポイントをご紹介する予定です。
著者プロフィール:岩淺こまき
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師
大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気付く。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。
- ブログ:「岩淺こまきの『明日の私を強くするビジネス元気ワード』」
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