第8回 社員“以外”のマイナンバーをいつ、どのように収集するか:税理士目線で提案する「中小企業のマイナンバー対策」(1/2 ページ)
中小企業のマイナンバー対応は「士業への委託と連携+できるだけ持たないを考えた実務」がキモになる。8回目は「外注する個人事業主のマイナンバーをどんな方法で集めるか」について解説する。
講師:中尾健一(なかお・けんいち)氏
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役。1982年日本デジタル研究所(JDL)入社。日本の会計事務所のコンピュータ化を30年以上に渡りソフトウェア企画面から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システムを企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。2015年4月に発足したクラウドマイナンバー事業における「マイナンバーエバンジェリスト」として、中小企業の財務を担う税理士の視点から、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。
前回は中小企業や税理士事務所が、従業員以外に支払調書関連などで集めなければならないマイナンバーはどのようなものがあるかを確認しました。これらの支払い先となる個人事業主からのマイナンバーの収集は、社外の取引先となりますので、従業員からの収集に比べると手間がかかることが想定されます。
今回は、これら支払調書関連のマイナンバーをどのようにして収集すればよいかを検討していきましょう。
企業で作成が必要な支払調書とマイナンバーの収集
前回「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」に添付して提出する支払調書にはどのようなものがあるかを解説しました。
その中でも一般的に多くの企業で作成しなければならない支払調書には、税理士などの士業の方へそれぞれの専門業務を依頼することで発生する報酬の支払いについて作成する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や、事業所などの不動産を借りている場合に作成する「不動産の使用料等の支払調書」があります。
それぞれの支払い先が法人ならば、法人番号を記載します。法人番号は公開される番号ですので、個人番号のように収集時の本人確認や漏えいリスクへの対応などは考えなくて大丈夫です。しかし、支払い先が個人事業主である場合は、その方の個人番号を提供してもらう必要があります。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の場合
税理士や弁護士など士業の方へそれぞれの専門業務を依頼し、その報酬の支払いについて「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成する場合、これら士業の方へマイナンバー提供を依頼するところから始めましょう。
一般に士業の方であればマイナンバー制度への理解も進んでいるはずですので、スムーズにマイナンバーの提供に応じていただけるでしょう。ただし、制度を理解しているだけに、自身のリスク対策として、自分が提供するマイナンバーがどのように取り扱われるのか、安全管理措置はきちんと整っているかなどを尋ねられることがあるかと思います。当然ですが、それに備えて責任者の明確化や、どのような安全管理措置を施した上でマイナンバーを取り扱うようにするかを説明できるようにしておきたいものです。
特に税理士に顧問を依頼し、年末調整から支払調書など法定調書の作成も依頼している企業の場合は、これに関連するマイナンバー全般の取り扱いも税理士に委託することになりますので、他の士業の方からのマイナンバーの取得についても、提供の依頼から税理士に相談しながら行っていくとよいでしょう。この場合も、マイナンバーを提供する側からは企業および税理士事務所でのマイナンバーの取り扱いについての確認があると思います。税理士事務所としても安全管理措置などきちんと説明できる準備をしておくことが大事です。
要は、企業(または、その企業に委託を受けてマイナンバーを取り扱う税理士事務所)は、個人事業主を不安にさせない明確かつ適切な説明が望まれるということです。
次に、マイナンバー取得時に必要な本人確認(個人番号確認と身元確認)について考察します。その方法は、国税庁が提示している本人確認方法の例「国税分野における番号法に基づく本人確認方法」を満たしていれば問題はありません。多くは「マイナンバー通知カード+運転免許証(または士業の証票)」か「個人番号カード」となります。従業員の場合と異なり、長年の付き合いがある士業の方でも身元確認のための書類の提示は必要です。その点は忘れないように確認してください。
なお、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は、例えば著名人などに原稿や講演を依頼し、その支払額が5万円を越える場合にも作成しなければなりません。これらのケースでは、当の本人が自らのマイナンバーを提供しなければならないことを理解していない可能性も考えましょう。原稿や講演を依頼し、支払い額が5万円を越えることが確実な場合は、その契約時にマイナンバーの提供および提供時に本人確認書類の提示を依頼するなど、早めに説明して早めにマイナンバーを取得しておく対策が必要となるでしょう。
では、このケースで、マイナンバーをいつ取得すればよいでしょう。
従業員ならば、通知カードの紛失リスクと、退職などよって2016年(平成28年)中に必要となるケースを想定して、なるべく早く、2015年内にマイナンバーを収集してしまうことを推奨してきました。一方、今回紹介した「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は、2016年(平成28年中)に作成することはありません。2016年内に収集すればいいと言えます。
逆に、原稿料や講演料の支払いで「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成する今回のケースは、“2016年(平成28年)1月以降で、実際に原稿料や講演料を支払うことが決まった時点”からしか取得できません。士業の方で継続的な顧問契約が結ばれている個人事業主の場合は別にして、あらかじめ取得しておけないため、取得のための準備期間が限られる可能性があります。通知カードをすでに紛失した/個人番号カードの交付も受けていないので、自分の個人番号が分からないといった人も中には出てくることでしょう。この場合は、「個人番号が記載された住民票を取得してもらい、番号確認に利用する」方法も想定しておくよいと思います。
関連記事
- 特集:間に合わせる、その後も見据える「マイナンバー緊急対策 実践指南」
2016年1月に利用が始まる「マイナンバー(個人番号)制度」。すべての企業は、このマイナンバーに社として対応する必要が迫られています。「マイナンバーとは何か?」の基本解説とともに、企業のIT担当リーダーが抱える課題に特化し、実対策と実導入・導入に向けた具体策をまとめていきます。 - FinTech系クラウド会計 A-SaaSとfreeeが提携、データ連携開始
税理士向けクラウド会計「A-SaaS」と個人事業主・小規模法人向けクラウド会計「freee」が提携。freeeの仕訳データをA-SaaSで取り込めるようにし、個人事業主+中小規模法人から委託する税理士の税務・申告まで、一気通貫での税務対応を実現する。 - アカウンティング・サース、税理士+中小企業向け「クラウドマイナンバー管理サービス」開始
税理士向けクラウド会計サービス「A-SaaS」を展開するアカウンティング・サース・ジャパンが、クラウド型の「マイナンバー管理サービス」を開始。“できれば持ちたくない”税理士と税理士へ税業務を委託する中小企業に向けて展開する。 - マイナンバー、自社コスト負担に懸念 平均109万円
帝国データバンクが、企業約1万社を対象にしたマイナンバー制度に関する意識調査を発表。6割は「まだ何もしていない」、負担額は平均109万円。新たなコスト負担の懸念、効果を不安視する声が浮き彫りになった。 - 2015年秋からスタートする「番号制度(マイナンバー)」とは何ですか?
2015年10月から始まる「番号制度(マイナンバー)」。段階的な利用拡大に伴って、行政だけでなく民間企業でも様々な対応が必要となります。本連載では制度のあらましと行政の対応、民間企業が取り組むべき点について解説していきます。 - マイナンバーのセキュリティ対策 面倒な事態を避けるには?
これから社内で取り扱っていくマイナンバーという“新しい情報”ではセキュリティが重要だといわれる。システム管理者や経営者はどう向き合えばいいのかを解説しよう。 - 企業のマイナンバー対応に大幅な遅れ、ルールやシステム整備に問題
日経BPコンサルティングの調査から、マイナンバー対応作業に着手した企業は2割に満たず、2017年1月の制度施行に間に合わない企業が多発すると予想される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.