FinTechって何ですか? 現場が抱える悩み:萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)
この1年であらゆる企業が関心を持ち始めた「FinTech」。銀行出身で全国の企業の現場を回る筆者がFinTechというトレンドを解説していく。
FinTechってなんだ!
端的にいうならFinTechとは、「Finance(ファイナンス)」と「Technology(テクノロジー)」をつなげた造語で、金融分野のテクノロジーという意味――と解説されているものばかりである。だが、この解説は企業の現場にいて苦労している人がするようなものではないと断言できるのだ。そもそも金融自体が全ての企業の“血”であり、“血管”にも相当するので、あらゆる業種や業態に関係してくるし、現実にその範疇を大きく超えている。
スタートアップ企業の中で仕事をしているなら、自分なりのFinTechの定義を持っているかもしれない。でも、それは「群盲象を評す」でしかない。この言葉を俯瞰的に上から目線で眺めると、FinTechという象の姿はとてつもなく大きい。強いて言えば、営利企業や国策企業、政府や官公庁全体の姿にも思える。定義するにはとてつもない困難を伴う。
筆者が今まで見た解説の中で比較的優れていると思われるのは、次の記事である。
- 2016年、世界中が注目! フィンテック企業「トランスファーワイズ」とは――ITmedia ビジネスオンライン
記事で解説している企業の「トランスファーワイズ」とは、金融関係の仕事をしているなら多分誰でもが知っている国際送金サービスの会社だ。2011年に2人で設立されたが、あっと言う間に注目を浴び、記事にもある通り昨年の送金実績は45億ドルにもなる。
ところがこの事象だけを捉えて、「だから金融機関は不要。メガバンクも潰れる?」と不安だけをあおる“自称”専門家がいる(情報セキュリティの世界にもいるが……)。そのビジネスモデルを丹念に見ていくと分かるが、同社のサービスがコストのかかる既存の国際送金サービスを安価にさせる可能性はあるものの、メガバンクを滅亡させてしまえば同社のビジネスモデル自体が崩壊する。つまり同社がサービスを提供するには送金先の金融機関が存在しなければならないわけで、金融機関の収益が減少することになっても、メガバンクが倒産するような事態にはならない。
製造業の役員は、なぜFinTechにのめり込むのだろうか。FinTechが金融業界のイノベーションであるなら、製造業には波及しないはずである。次回はその疑問について筆者なりの解答をお伝えしたい。
萩原栄幸
日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。
組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。
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