「多様性がないと生き残れない時代」 LGBT当事者が語るマネジメント論――川田篤さん:「プロジェクトマネジャー」の極意(3)(3/4 ページ)
プロジェクトメンバーは多様性に富むのが一般的。異なる個性のメンバーを同じ目標に向かわせて成果を出すには――。そんなときに有効なのが「ダイバーシティ」という考え方だ。LGBT周知の旗手として、企業を越えて活動する“プロ”にその極意を聞いた。
LGBT当事者をカミングアウト、そして周知活動へ
川田さんがLGBT当事者であることをカミングアウトしたのは2015年4月のこと。所属部門全体に向けた「Best of IBMer」受賞のスピーチでオープンにしたという。5年ほど前から社内の親しい仲間に共有し始め、3年ほど前に上司に伝えたそうだ。
「職場でのカミングアウトについては、リスクこそあれ、メリットはないと感じていました。とはいえ、自分自身について正直に話せていないことに負い目がありましたし、女性からアプローチいただき返事に窮したこともありました。上司となったアメリカ人が、LGBTに対して理解があったのは大きかったです。グローバル企業に入社してよかったと思いました。後にLGBTの活動を始めてから、IBMは行動指針で性的指向による差別を禁止していることも知りました」(川田さん)
本人にとっては非常に重く、とても大きな一歩だったが、カミングアウトしていろいろ楽になれたと話す川田さん。これまでは“自分は本流じゃない”という意識があったり、上司から冗談めかして「仕事はできても結婚しないと一人前ではない」と言われたこともあった。“秘密”を悟られないよう、同僚と密な友達付き合いをするのも避けていたという。
「カミングアウトをしてから、よく“弾けたね”と言われます。隠すことがなくなったと言うんでしょうか(笑)。でもこれは、全員が活躍する環境を作るためには必要なこと。本人にとっても会社にとってもメリットがあります。今はコミュニティーを通じて、社内にポスターを貼ったり、食堂とコラボレートしたり、LGBT関連のイベントにスポンサードしたりとダイバーシティの重要性を周知するための活動を社内外で行っています」(川田さん)
「ダイバーシティ対応」は人事戦略になる
LGBTの社内コミュニティーに参加している当事者は約20人で、それを支援するサポーターが10人ほどいるという。コミュニティーを始めたころは活動の方向性が定まらなかったが、3年ほど前には“リクルーティング”と“離職率の低減”に焦点を当てることに決めた。コミュニティーを広げつつ、会社にも貢献できるというメリットがあったためだ。
東京レインボープライドなどのイベントにブースを出し、そこでIBMの姿勢を知った学生が入社するケースも出てきており、成果は上々だという。ダイバーシティ対応は企業の人事戦略になる――と川田さんは胸を張る。
最近では会社を越えた活動も行っている。Googleや日本マイクロソフトといった会社と協力して「IT業界LGBT交流会」を開催、共同での学生向けセミナーやメッセージの発信といったアクションを検討しているそうだ。
「LGBTを支援するNPOやNGOは多いですが、企業人が発言するとまた違ったインパクトがあるはずです。IT業界は比較的、人材の流動性が高い。いかに優秀な人々を呼び込み離職率を下げるか、それにはダイバーシティ対応が一つのカギになるでしょう。1社ではなかなかできないこともあるので、いろいろな企業と連携していければと思っています」(川田さん)
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