なぜ人はプロジェクトの“約束”を守らないのか?:プロマネ1年生の教科書(2/2 ページ)
自らが決めたことをどう守っていくか、そしてその内容をどうやってメンバーに守らせるか、これはプロマネの「覚悟」と「責任」が問われる重要な要素です。最善の結果につながるよう、意思を貫く方法を把握しましょう。
プロマネに必要な「プレゼン」「ファシリ」のスキルとは?
まず考えるべき視点は「その決定事項は話し合う余地があるのかどうか」ということです。
例えば、「プロジェクトの目的」「自社からの決定事項」などは、もはやいくらメンバーと話し合っても内容が変わることはありません。反対に「チームとしての進め方を見直す」「今後の対策や目標を決める」「改善のアイデアを検討する」といった内容であれば、話し合う余地があります。
単純なことに思えるかもしれませんが、意外と見落としがちなポイントでもあります。話し合う余地がないものに対して、意見を求めたり、どうしたらよいかなどをメンバー同士で話し合わせたりするのは時間の無駄でしょう。仮に貴重な作業時間を削って議論させ、何も意見が採用されないともなれば、「何のための時間だったのか」とメンバーのモチベーションを下げることにもなりかねません。
こういったケースや一方的に決めて「いいからやれ」というスタイルが続くと、メンバーの中には次第に“どうせ言っても無駄だから”という気持ちが生まれます。これを「学習性無力感」と呼びます。無力感を学習してしまい、意欲が低下してチームや仕事に関わる気持ちまでもが削がれるわけです。
話し合う余地のない議題は、はっきり言ってメンバーに納得してもらえるように説明するほかありません。これこそがプロマネのチーム運営に必要な「プレゼンテーションスキル」ではないでしょうか。
一方で話し合う余地がある議題については、メンバーの意見を取り入れるなど、なるべく決定プロセスに参加してもらう工夫を検討します。自らが関わり、「自分ゴト」になったタスクや決定事項には責任感が生じ、守る姿勢が自ずと整いやすいのです。プロマネ視点で言えば、どのように「メンバーをモノゴトに関わらせ巻き込んでいくか」つまり「ファシリテーションスキル」の活用が問われる場面です。
さまざまな工夫でメンバーの納得感を引き出し、「自分ゴト」にさせることで約束を守らせるのが楽になります。逆に、納得感がないなど「自分ゴト化」していない決めごとを守らせるのはとても困難なことを知っておきましょう。
「プレゼンテーションスキル」や「ファシリテーションスキル」は、以前お話しした「ネゴシエーションスキル」と同じく、“相手の納得感を得て、信頼関係を構築できるよう仕事に取り組むこと”を目指すものであり、切っても切れない関係にあります。これを仕事の各場面でどう使うかは、次回以降に説明しますのでお楽しみに。
※筆者都合により、4月は連載をお休みします。ご了承ください。
著者プロフィール:岩淺こまき
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師
大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気付く。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。
- ブログ:「働くママの“人育て”日記」
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