第15回 これからクラウド導入する際の注意点、お金と使い方の関係:データで戦う企業のためのIT処方箋(3/3 ページ)
「使うIT」の代表がクラウドです。AWSやAzureなどさまざまな事業者がサービスを提供していますが、どうやって選ぶとよいのでしょうか。今回はデータが増え続ける中で、「持つIT」と違うところや注意すべきところ、選定時のキーポイントを説明します。
まず、今ある環境からクラウドに移行する場合、クラウド上にコピーされるデータは、アプリケーションとして静止点が取れている必要があります。そのデータでないと、システムは動きません。そうなると、まず業務を停止してデータをコピーすることになりますが、データ量が多いと転送に時間がかかり、ひいては業務停止時間が長くなります。
この点については第1回で紹介したデータ種別の図でいえば、右上に行くほどクラウドに向きにくい、という傾向にあります。
また、移行した先のクラウドでシステムが問題なく動作できるかの確認も重要ですが、その都度コピーするとなるとテストも簡単にはできず、結果としてシステム移行が頓挫しかねません。
こういったシステムは、オンプレミスで利用するということも一つの手ではありますが、クラウドを活用する場合は、これらの課題を解決しなければいけません。そのため、移行にあたっては、いかに「オンラインのままデータが転送・同期できるか」と、「テスト利用が簡単にできる仕組み」を重視する必要があります。
日本でも最近になってクラウドへの移行用ツールやサービスが提供され始めていますが、データ量が多い場合に対応できないものが多くあります。これは、データ量が多いシステムがクラウド向きではないことが多いためで、そういったツールやサービスのメインターゲットになっていなかったことが主な理由です。ただし最近は、ちょっとしたシステムでも数百Gバイトを超えるデータを持つことも多く、明確な課題として急速に表面化してきています。
これはクラウドに限った話ではなく、「持つIT」でもデータセンターの変更などで発生するものですが、システム更改のタイミングだけで発生するので、あまり意識に上りにくい課題です。クラウドを活用すると、その柔軟性からこれまでより頻繁にシステムの移動が発生しやすくなります。今、自社のシステムの容量が少なくても、真剣に課題として考えておくことを強くお勧めします。
ちなみに、転送にかかる時間を計算する際には、回線の太さだけを見ても実際の速度は分かりません。距離によって転送遅延が発生するので、遠くなればなるほど、FTPといった単純なコピー機能だけでは回線の帯域を全て生かし切れず、例えば、東京から北海道へは単純なコピーツールを使っても1日に10Gバイト程度しか送信できません。
クラウドでは実際の送信先がより遠方にあることも多く、こういった点からも専用のツールやサービスを活用すべきです。
今回は、まずクラウドを使い始めるにあって注意すべきところを説明しました。次回は、クラウドを使い始めてからの注意点とその回避方法を説明します。
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